「想いが届く」ラジオの可能性[小山薫堂の妄想浪費 vol.17]

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放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第17回

薫堂少年をメディアの世界へと誘いざなったのは、熊本は鶴屋百貨店のラジオ番組。世界の隅々まで声と想いが届く”ラジオ”の魅力をあらためて考えてみた。

前号で百貨店の魅力について書いたのだが、ちょっとだけその続き。熊本県に創業60年を超える「鶴屋百貨店」がある。鶴屋はオープン翌年、熊本放送(当時、ラジオ熊本)の開局日である1953年10月1日に、「午後2時5分ー寸一服(ちょっといっぷく)」というラジオ番組を開始した。以来、14時5分から20分間、本館1階のサテライトスタジオより毎日公開生放送を行っている(もちろん熊本放送最長寿番組である)。
 
構成はいたってシンプルで、スタジオに集まっているお客様に挙手していただき、「今日は何をお買いになりましたか?」などと尋ね(「ああ、今日から◯◯フェアが開催されましたものね〜」と、宣伝の合いの手を入れるのは忘れない)、最後に歌のリクエストに応えるというもの。家でラジオを流し聴きしていた人は気づかぬうちに購買意欲を掻き立てられて、翌日鶴屋に行ってしまうかもしれない。

こんな画期的なメディアミックスが60年以上も前に地方の百貨店で始まっていたなんて、なかなか稀有な話ではないだろうか。思えば、小学生のときに鶴屋の公開録音を見にいったのが、僕にとってメディアというものに触れたファーストコンタクトだった。そのときのメディアへの漠然とした憧れが、いまの僕につながっていることは間違いないわけで、あらためて鶴屋さんに感謝申し上げる次第である。

エンターテインメントの原型
 
僕が仕事として初めてラジオと関わったのは、大学1年生。文化放送の「吉田照美のてるてるワイド」でアシスタント・ディレクターを経験させてもらった。その後、いくつかの番組で構成やパーソナリティを経て、98年、34歳でFMヨコハマの「FUTURESCAPE」というレギュラー番組を持つようになった。

毎週土曜日朝9時から2時間の生放送で、相棒はラジオパーソナリティ・キャスターとして活躍する柳井麻希さん。ラジオに縁のない人は信じ難いと思うかもしれないが、ラジオほどコアなファンをつくりやすいメディアはない。それは、たとえばこんなときに実感する。

昨年、FMヨコハマ開局30周年記念公式キャンディ「横濱アイスクリンキャンディ」が発売された。これFUTURESCAPE番組内で、「横浜の人々に愛される飴をつくろう」を合言葉に開発プロジェクトが誕生したことがきっかけ。

スポンサーの味覚糖さんがつくった飴の試食を番組内で行い、個別包装はリスナーから募集した横浜の名所写真をイラストに描きおこし、オリジナルステッカーも付録につけた。絵のド下手な相棒・柳井さんに描いてもらったマーライオンのイラストも、個別包装100個に1個程度の割合で入れてもらった。

そして、発売日当日「ぜひ買ってください!」と放送したら、なんとその日の横浜のコンビニで圧倒的売り上げを誇ったのだ。ポスデータによると、AKBのCMで販売した品よりも高い記録をつくったらしい。このデータをもとに味覚糖は全国販売に踏み切り、横濱アイスクリンキャンディはヒット商品となった。

この話には続きがある。Né-net(ネ・ネット)というイッセイ・ミヤケ系列のブランドがあるのだが、デザイナー高島一精さんが番組のコアなリスナーで、柳井画伯の下手ウマ・マーライオンをいたく気に入り、マーボーダーT、マーポーチ、マーソックスなど、コラボアイテムを制作してしまったのである。

ラジオ番組がコアなファンをつくり、そのファンとともに何か新しい企画に火をつけて、マスに展開できるなんて、ラジオ番組は捨てたもんじゃないなと思いませんか?

もうひとつ、FUTURESCAPEには「裏FUTURESCAPE」なる番外編がある。放送終了後に喋り足りない僕と柳井さんがさらにだらだらと喋ったものを番組としてPodcastで配信しているのだが、なんと毎週約1万人にダウンロードされている。その多くは海外在住者で、理由は、茶飲み友達のなんてことない日本語の会話に飢えているから。彼らにとっては、日本の喫茶店で隣の席の噂話に聞き耳をたてるような感覚なのかもしれない。

「ザンビアで聴いています」というメールをもらったこともあるし、ジュネーブに行ったときに、ある日本の銀行のスイス支店長にも「聴いています」といわれた。エンターテインメントというものは、不特定多数のためより、すごく小さなパイの共感しあえる人に向かってつくったほうが、結果的にはおもしろくなると思う。その原型が、ラジオにはあるのだ。

企業の想いが届くラジオ

というわけで、企業の皆様には、宣伝費用の一部でラジオ番組を制作することをオススメしたい。月額1,500万円として、年間1億8,000万円。ただし、ラジオで宣伝して売り上げを上げようと思ってはダメです。
 
良い例を紹介しよう。岐阜県大垣市にTSUCHIYA株式会社という建設会社がある。いつだったか会長兼社長の土屋智義氏をあるバーで紹介され、「いつか小山さんと仕事がしてみたい。何かあったら声をかけてください」といわれたことがあった。

それから数カ月後。J-WAVEに「HOLIDAY SPECIAL」という、祝日にオンエアする9時間生放送の特番枠があるのだが、放送1カ月前にスポンサーが諸事情あって降りてしまい、スタッフから相談の電話を受けた。僕はふと土屋さんの言葉を思い出し、ダメもとで「関東圏のみ放送のラジオ番組なんですが、スポンサーをやりませんか?」と尋ねてみた。土屋さんは「え? 岐阜では聞けないの?」と最初こそ笑ったものの、その場で快く引き受けてくれた。

そして番組はなんと今年の1月11日で11回を数えるまでに! 土屋さんは第1回から「うちの宣伝はしなくてもいい。これはCSR(企業の社会的責任)のようなもので、楽しければそれでいいですよ」とおっしゃり、毎回子どもに夢を与えるテーマで番組制作を続けてきたのだ。リスナーがTSUCHIYA株式会社に何を感じるかは言わずもがなである。
 
ラジオほどオーナーの想いが反映されるメディアはない。2012年、木下工務店完全子会社のキノシタ・マネージメントがInterFMを買収したとき、メディア界は騒然となったけれど、僕は企業が理想のラジオ局をつくりあげて遊ぶのはとてもおもしろいんじゃないかと思う。

たとえば大阪のFM COCOLOがリスナーセグメント戦略としてAOR世代をターゲットにしたように、大学生による大学生のためのラジオ局なんてどうだろう。全国の大学生にかかわる情報を集めて放送すれば、スポンサー企業にとっては良い人材を見つけるチャンスになるかもしれない。Facebookだって、ハーバード大学の学生限定のコミュニティだったのが、いまや全世界に広がる巨大メディアになった。ラジオだってそんな魅力的な可能性を秘めていると僕は思う。