NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
12月11日放送 第49話「前夜」 演出:木村隆文


延長なしでこんなに盛りだくさんのエピソードを書く三谷幸喜の豪腕


「最終決戦は刻々と近づいていた」(ナレーション/有働由美子)
いよいよ今夜(18日夜)、最終回を迎える大河ドラマ「真田丸」。終わってほしくない気持ちと、真田幸村(堺雅人)の生き様なのか死に様なのかとにかく気になる気持ちでいっぱいで、なにも手に付かない状態だが、やっぱりきり(長澤まさみ)のことは手厚く書きたいので、49話を高速で振り返ってみたい。

→最終回レビュー


いよいよ大坂夏の陣がはじまった途端、塙団右衛門(小手伸也)、戦死。信之(大泉洋)は、信繁に会いに行く途中、室賀正武(西村雅彦)の息子・室賀久太夫(アンジャッシュ児嶋一哉)に出会い「黙れ小童っ」返しで切り抜ける。後藤又兵衛(哀川翔)と幸村は徳川家の調略にあっているのに、声がかからない毛利勝永(岡本健一)が、「なんでおれには声がかからんのだ」「なんでおれには声がかからんのだ」と2度繰り返す。「悪い噂を立てられたからと言って捨て鉢にならぬこと」「戦は心が乱れたほうが負けだ」と幸村は又兵衛に忠告していたが、捨て鉢に、心乱れることを心配したほうがいいのは毛利勝永ではないか、と思っていたら、先に又兵衛が戦死。その前に、木村重成(白石隼也)が「お会い出来て光栄でした」と言うと「二度とそういうことを言うな。戦の前にそういうことを言うというと必ずどっちかが死ぬっつうのがお決まりなんだ」と又兵衛が“戦あるある”を語っていたら案の定だった(涙)。そのうえ、重成も、又兵衛の死を知らないまま戦い続け、沼地で滑って戦死(涙)。どっちかでなくどっちもだった(涙)。


ようやく再会する信繁と信之&叔父・真田信尹(栗原英雄)、死を決意した信繁は「ではいま、ここで酒を 兄上と酒を酌み交わしとうございます」と求めるが、死なないでほしい信之は「これは今生の別れではない」と拒否(涙)。


酒が酌み交わせなかった兄弟の代わりというわけではないが、酒を酌み交わす家康(内野聖陽)と上杉景勝(遠藤憲一)。「あの男、わしがそうありたいと思っていた人生を生きておる」としみじみする景勝に、「親子二代でたてつきおって。まだわしを苦しめる」と返しながら「真田め」と苦い顔で酒を飲み干す家康。
「この戦に大義がないことが気になるからでは」と景勝に指摘され「この話はやめよう」という家康。
息子・秀忠(星野源)はただただ敵をなきものにしようとして家康いわく「おっそろしい男に育ったのう・・・」で、おっそろしい子供たちの時代に変わっていくなか、いよいよもって家康、景勝は最後の戦国武将たちなのだ。そして幸村も。


嗚呼、戦国を戦い命燃やした武将たちがどんどん死んでいく。
豊臣勢の状況が思わしくない、じつは間者は大角与左衛門(樋浦勉)で、敵と通じているところを、与八(今野浩喜)が目撃し、あっけなく殺されてしまう(涙)。
そして、いよいよ戦場で対峙する真田幸村と伊達政宗(長谷川朝晴)。
伊達は、幸村の妻・春(松岡茉優)と子供達(大助〈浦上晟周〉以外)のを引き受けることになり、ここでもずんだ餅をふるまう。




これだけの盛りだくさんのエピソードを延長もせずに一気に描ききった40分。凄いよ、三谷幸喜。ここに書き漏らしている登場人物もいるが、そろそろきりと信繁のあのシーンについて書きたいので失礼つかまつる。

ラスト5分は大河史上屈指の名場面になった


そしてあと5分というところで、源次郎(ここからは源次郎と呼びたい)ときりのターン。
「私は明日、城を出て、家康に決戦を挑むことにした」と告げて、きりに大仕事を任せる源次郎。
大仕事を終えたあと、沼田にでも帰れと言われてきりは「いいえ、ここに戻ってきます こうなったらおかみさまとご一緒しますよ最後まで 源次郎様がいない世にいてもつまらないから」と微笑むきりを、抱きしめる信繁。
きり「遅い」
信繁「すまぬ」
きり「せめて10年前に・・・」
相変わらずおしゃべりなきりの口を口で塞ぐ源次郎。
照れ屋にもほどがあるきりは、それでもしゃべり続ける。
「あの頃が一番キレイだったんですから」
そういうきりのことを一番わかっている源次郎。そして、長いことずっと源次郎を見つめてきたきり。
あまりに長く一緒にいたから、どっちも戸惑った顔で抱き合っている。だがやがて、源次郎の胸のなかできりは素直になってきて喜びの涙を流すのだった。

「高梨内記の娘に関しては様々な言い伝えがある。
真田信繁の側室であったとも彼の子供を宿したとも。
真偽はともかくひとつだけ確かなのは、信繁にかかわった女性たちのなかで
最も長くそばにいたのは彼女だということである」
締めのナレーションにもジンっとくる。

きりの顛末は、吉川邦夫プロデューサーによると、最初から構想していたものではなく、途中から徐々に形が見えてきたのだとか。
「正式に側室になるかならないかは、時代考証との兼ね合いもあって、保留にしていました。側室になって子供を産むことにしてしまうと、母としての側面が生まれてしまい、最も彼女に託したかった信繁の毒舌パートナーというか心の裏返しみたいな存在価値が薄らいでしまいそうなので悩みました」  Yahoo!ニュース個人 吉川邦夫プロデューサーインタビュー

春を伊達に預けたあとで、結ばれるのもどうだろうとデリケートに考えられたふたりのシーンだったが、堺雅人と長澤まさみがさらに膨らませた。
その真相は、15日放送の「あさイチ」の三谷幸喜、16日放送の「スタジオパークからこんにちは」の長澤まさみ、2日にわたって語られた。
キスするのは、堺のアイデア、その途中、おしゃべりするのは長澤のアイデアだった。
堺がキスしないと収まらないと考えたのも無理はない。なぜなら、梅とも春とも茶々(竹内結子)とも抱き合うシーンはあったのだから。


梅、春、茶々と差別化するため、ひと工夫あってよかったし、それを茶化すことで、いっそう複雑で特別なふたりの関係性が際立つ。1年以上、役を生きてきた俳優だからこそのアイデアだ。
役を生きてきたといえば、「スタジオパーク〜」で長澤は、「キス」とは言わず、「真田丸」の11話で使われた言葉「口吸い」と徹底していた。

長年、尽くしてきた女たちに優しいまなざしを注ぐ三谷幸喜


日本中が泣いた49話。
だが、最も泣けたのは、こう(長野里美)だ。
死ぬ覚悟をしていると予想し、源次郎の元へと向かおうとする信之は「(真田のものとわかるものや)家紋のついているものはもたないように」と稲(吉田羊)に厳しく言われていたが、こうが大願成就のお守りとして銭六文を渡す。
「銭六文、道中ご無事で」と笑顔で送り出すこうは本当にいい女房。家紋は身につけられないが銭ならごまかせる。しかも、久々に咳き込んで。なんて愛おしいのだ、こう!
13話で梅(黒木華)も持っていた六文銭。三途の川の渡し賃である六文銭は、「真田丸」では妻の愛情の象徴になった。

きりとこう、49話で日陰の女たちをきちんと描いた三谷幸喜は、12人もの優しい日本人を書いただけある1人の優しい作家だ。
ただ、本妻の稲も「必ず生きて帰ってきてくださいませ」と言っているし、真田兄弟は女性に恵まれている。
一方、秀忠の妻・江(新妻聖子)は「必ず勝てます」と“勝ち”を強調するばかり。そんなだから、秀忠、おそろしい人に育ってしまったんじゃなかろうか。
茶々も、戦死した団右衛門の遺体を見て、「いずれは皆もこの男の横に並ぶのですか」などと言い、きりに「いい加減にしてください おかみさまにうろうろされると士気が下がります」とたしなめられる。死ぬことばかり考えているのと、「必ず勝てます」と発破をかけるのと、「必ず生きて帰ってきて」と励ますのと三択だったら、やっぱり「必ず生きて」を選びたい。

女性じゃないが、信之も「徳川には向かいたいなら歯向かえばよい。ひれ伏したくないならひれ伏すな。しかし死んではならぬ」 「今度もまたおれは必ずおまえを助けてみせる」「決しておまえを死なせはせん」と言うのだ。この場面も泣けた。

「死ぬな」「生きて」は我々視聴者の総意である。
というわけで、最終回。
生きろ、信繁!(やっぱり幸村よりしっくりくる)
(木俣冬)