写真=アフロ

スピーキングの技術を身につけたいとき、上手な演説を真似るのが一番といわれる。スピーチライターの蔭山さんに、名演説を紹介してもらった。実際に声に出して練習してみよう。

ウィリアム・シェークスピア●William Shakespeare
▼著書『ジュリアス・シーザー』あらすじ
ポンペイの残党との戦いに勝利しローマに凱旋したシーザーを、王位を狙っていると考えたブルータスが暗殺する。ブルータスは「私はシーザーを愛しているが、ローマのため、シーザーの圧政を断たなければならなかった」と弔辞を述べ、市民に讃えられるが、続いてアントニーが、ブルータスを称賛しつつもシーザーの偉大さとブルータスの悪を弾劾する秀逸な弔辞を述べ、市民は真実を理解し、ブルータスたちは逃亡を余儀なくされる――。※下記の文は、アントニーの弔辞の一部


▼ジュリアス・シーザー Julius Caesar

ANTONY:
The noble Brutus
Hath told you Caesar was ambitious;
If it were so, it was a grievous fault,
And grievously hath Caesar answered it.
Here, under leave of Brutus and the rest――

アントニー:
高潔なブルータスは言う。シーザーは野心家だったと。もしブルータスの言う通りなら、それは嘆かわしい欠点であった。嘆かわしくも、シーザーはその報いを受けたのである。ここにブルータスと、そのほかの人たちの許しを得て――

For Brutus is an honourable man,
So are they all, all honourable men――

なぜならブルータスは高潔の人であり、そして、ほかもみな高潔な人々であるから――

Come I to speak in Caesar's funeral.
He was my friend, faithful and just to me,
But Brutus says he was ambitious,
And Brutus is an honourable man.
He hath brought many captives home to Rome,
Whose ransoms did the general coffers fill.
Did this in Caesar seem ambitious?

私はシーザーの葬儀に、弔辞を述べさせてもらうために来た。シーザーは私の友人であり、私に対しては誠実で公明正大だった。しかし、ブルータスは、シーザーは野心家だったと言う。しかるに、ブルータスは高潔の人。シーザーは大勢の捕虜をローマに連れ帰った。捕虜の身代金は、国庫を満たした。こうした行動をとったシーザーは野心家なのか?

When that the poor have cried, Caesar hath wept,
Ambition should be made of sterner stuff,
Yet Brutus says he was ambitious,
And Brutus is an honourable man.
You all did see that on the Lupercal
I thrice presented him a kingly crown,
Which he did thrice refuse. Was this ambition?

貧しき者が泣き叫べば、シーザーはともに涙を流した。野心とは、より冷酷なものからなるものではないのだろうか。しかしブルータスは、シーザーは野心家だったと言う。そして、ブルータスは高潔の人。同志諸君は、ルパカルの祭りでのあのことを見ている。私は3回、シーザーに王冠を捧げた。シーザーは、3回とも拒否した。それが野心家か?

Yet Brutus says he was ambitious,
And sure he is an honourable man.

しかしブルータスは、シーザーを野心家と言う。そして、もちろん、ブルータスは高潔な人。

■反対意見の相手を攻めず、事実を提示

シェークスピアの名作『ジュリアス・シーザー』の中盤、シーザーが殺された後に始まるスピーチです。異なる意見を持つ、あるいは仇をとりたい相手がおり、聴衆も相手に傾いていて、自分が劣勢であるときに、相手をどう突き崩し、聴衆にどう自分の正しさを伝えていけばよいかを学べます。

相手に「あなたは間違っています」と正面から攻めていくのではなく、「あなたは素晴らしい」と言って、相手のさらなる反論を抑える。そうしながらも、事実をひとつずつ提示していくことにより、相手の意見の綻びを明らかにしていくのです。

シーザーを殺した憎い相手であるブルータスを、アントニーはこの演説で「高潔の士、ブルータス」と持ち上げ続けます。最初、聴衆には「ブルータスはよいことをした人」という意味で響いていますが、徐々に「本当にブルータスは高潔なのか?」と、受け取り方が変わっていきます。アントニーはただ事実を並べるだけで、それを達成していくのです。

言いたいことを言うだけが重要なのではなくて、聞く者の心がどう変化するかという、その「間」や「駆け引き」が、スピーチの醍醐味なのです。

(野崎稚恵=構成、翻訳 葛西亜理沙=撮影 写真=アフロ)