不倫は想像力の欠如で続いていく……『月と指先の間』

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こんにちは、少女マンガ攻略・解析室室長の和久井香菜子です。
この20年で、女の賞味期限的なモノが格段に伸びたなあと思います。
20年前は「25歳過ぎたら行き遅れ」だなんて言われてたんですよ。「クリスマスを過ぎたらイチゴを付け替えないと売れない」みたいな。なんだよイチゴって。
今そんな年齢で結婚したら「早っ!」とか言われそうです。

30代なんかバリバリ現役だし、少女漫画でも30代の女性の描き方がだいぶ変わりました。
『ガラスの仮面』の月影先生、散々ばあさん扱いされてましたが、連載開始時の年齢を計算してみるとアラフィフです。衝撃の事実。
『僕は妹に恋をする』の双子の兄妹のお母さん、30代後半だけど、目の下はたるんでるし法令線はあるし、ひどいありさまです。
『サプリ』の平野さんは40代後半で法令線バッチリ、なにより髪型が前髪のない聖子ちゃんカットみたいで婆臭い(メガネも)。
一方『逃げるは恥だが役に立つ』の百合ちゃんは52歳だけど目の下にちょっと線が入ってる程度で、恋愛も現役。

漫画と共に育った読み手が大人になって、社会進出が進んで稼ぐようになって、どんどん恋愛現役年齢が上がり、若々しくいきいき描かれるようになってきたようです。

■今週の教科書『月と指先の間』

とは言っても、まだまだ40代女性が主人公の漫画はほとんどないのですが、『月と指先の間』は、なんと主人公が55歳のマンガ家アン先生。見た目はフツーにカワイイ感じで、「20代です」と言われてもわからなそう。

だけどすでにマンガ家生活30年、脂ののった時期は過ぎ、累計920万部を売った長期連載作品はかなり落ち目。先行きを考えると不安でいっぱいです。

作品では、マンガ家の生活っぷりや収支についてもかなり詳しく書かれています。「本が売れない」という時代になり、単行本の収入が見込めなくなってくると、かなり生活が圧迫されることがわかります。

マンガを描くこと以外に自分の人生を考えられないアン先生、なんとかしがみつこうともがきますが、不意に体調を崩したために連載が休載になるなど、不運ものしかかってきます。

「落ち目のマンガ家」というと『都の昼寝物語』(秋里和国)を思い出します。長年トップを走り続けることがどれだけ大変か。そして才能が枯渇したり、時代に追いついていけなくなることがどれだけ切ないかを感じざるを得ません。

■アン先生に学ぶ「不倫が長く続く理由」

さてそのアン先生。
駆け出しの頃に担当編集だった川藤さんと不倫中です。
主人公が不倫してるっていうのに、既刊2冊の間にほとんど2人の関係は描かれていません(単行本未収録の雑誌誌面では2人の出会いの様子が紹介されてますが)。

アン先生は、「奥さんに申し訳ない」とか「いけない恋なのよね」とかまったく考えません。
川藤さんも、奥さんにバレないようにしなきゃ、みたいな工作をしません。家庭についてはまったく語られず、妻がどういう人なのか、子どもはいるのかいないのか、全然わからないのです。
「既婚者」だという設定がなければ、フツーのカップルです。

2人の不倫がドロドロしていないのは、アン先生がマンガ家生活を一番に考えているからです。川藤さんとどうなりたいとか、未来については考えていないようです。それなら刹那的な時間を楽しむことはできます。
でもいったん、川藤の嫁視点が介入してきたら、そうは言っていられないはず。

まだ連載中のこの作品、この先、嫁視点の話が出てくるのでしょうか。
……その前に新編集長の黒月さん といい感じになっちゃいそうですけどね、アン先生。中学生の時にアン先生の作品を読んでボロ泣きしたという黒月さん、めっちゃツンデレですが、アン先生の次の恋の相手になりそうなフリがバンバン出てます。

不倫ってすごく利己的だなあと思うんですよね。
心の機微を描く少女漫画で、嫁の立場を想像しない関係を続けるのって、作品に影響しないのかしら。アン先生、自分の無神経さに気づいて不倫をやめたら、もう一度ヒット作が出るかもよ。

■まとめ

想像力を働かせたら、不倫ってできないと思うんです。
誰かを悲しませること、それが回り回って自分に返ってくるかもしれないこと。
不倫やめますか、それとも人間やめますか、みたいな!?!?

余談ですが、アン先生のお友だちに、某有名アイドル系乙女ゲームの人気キャラ「ダム」にそっくりな人が出てきて、ちょっとおもしろいです。ファン必見です。

(イラスト・文:和久井香菜子)