第23回世界エネルギー会議(WEC)が開催されたトルコ・イスタンブール(資料写真)


 10月31日の米WTI原油価格は1バレル=46ドル台と大幅に下落し、1カ月ぶりの安値を付けた。11月2日には、アメリカの原油在庫が過去最大の増加(約1440万バレル)となったことから、WTI原油価格は一時44ドルに下落した。

 10月28日のOPEC会合で、イランとイラクが生産枠の設定に使用されているデータに異議を唱えたため、9月に暫定合意した減産に関する具体的な協議が進まなかった。翌29日の非OPEC産油国(アゼルバイジャン、ブラジル、カザフスタン、メキシコ、オマーン、ロシア)との会合でも、「11月30日のOPEC総会前に再び話し合いの場を設ける」ことだけの合意だったため、減産の実現に懐疑的な見方が一気に広まった。

 ロイターによれば、10月のOPEC原油生産量は日量平均3382万バレルと前月に比べて同13万バレル増加し、過去最高を更新した。OPECが9月末に合意した日量平均3250〜3300万バレルの目標を達成するためには80万バレル以上減産しなければならない状況になっている。

 イランとイラクが減産に応じないことに加え、ロシアも他国に減産を呼びかける一方で、旧ソ連崩壊後としては最高水準の原油生産にブレーキをかける姿勢を見せていない。このままではサウジアラビアが単独で日量80万バレル以上の減産分を引き受けない限り、その達成は不可能な状況になりつつある。しかし、深刻な財政赤字に苦しみ、イランの勢力拡大を問題視する現在のサウジアラビア政府が「英断」を下すとは思えない。

石油需要は2030年がピーク?

 現在の供給過剰問題は供給面からの議論がもっぱらだが、需要面の懸念も見逃せない。

 OPECによれば、今年の原油需要は日量9440万バレルと昨年に比べて約120万バレル増加する見込みである。原油価格が低位安定しているにもかかわらず、伸び幅は昨年より約50万バレル減少している。来年の伸び幅は約100万バレルと、さらに減速するとされている。

 また、ここに来て市場関係者にとってショッキングな予測も登場している。2000年代前半「数年以内に世界の原油生産量は減少に転ずる」というピークオイル論が一世を風靡していたが、別のピークオイル論が注目され始めているのだ。

「石油需要は2030年にピークに達し、その後は後退する」──。この予測が発表されたのは10月9〜13日にトルコ・イスタンブールで開催された第23回世界エネルギー会議(WEC)である。WECは1923年に設立されて以来、3年に1度のペースで開催され、各界の専門家がその時代の重要なエネルギー問題について議論を重ねてきた(1930年の大会ではアインシュタインが出席して相対性理論を紹介した)。

 2013年頃から石油需要は「2020年頃に頭打ちになる」と言われ始めていた(英エコノミスト誌)。石油需要がピークを打つ理由は、再生可能エネルギーや電気自動車など分野で技術革新が進み、その導入が進むからである。

 太陽光発電モジュール価格は2009年以降50%下落した。再生エネルギーのコスト低下は既に発電所のビジネスモデルを変えつつある。

 英格付け会社フィッチは10月18日、「電気自動車(EV)の普及が石油会社の深刻な脅威になる」とのレポートを発表した。現在、世界の石油消費量の55%が運輸部門向けだが、内燃機関からEVへのシフトが今後本格化する。具体的には、近年の電池の大幅な価格下落により「年率32.5%増のペースでEVの成長が続けば、約20年で世界の自動車の4分の1がEVになる」という。このような分析に基づき、フィッチは石油各社が電池や再生可能エネルギーなどの分野に投資をして収益の多様化を進めるよう訴えている。

 また、英BPの統計によれば、先進国の石油需要は2005年をピークに減少に転じている。自動車の燃費が急速に改善したことなどがその要因だが、自動車大国である米国でも石油消費量は2000年の日量1970万バレルから2015年には1940万バレルと減少している。

ハードランディングに近づきつつある中国経済

 それでも2005年以降に世界の石油需要が減少に向かわなかったのは、中国経済が「爆食」を始めたからである。

 世界の原油需要は2000年から2015年にかけて日量7700万バレルから日量9500万バレルへと年率1.4%のペースで増加した。その中で中国の原油需要は日量470万バレルから1200万バレルへと年率6.4%のペースで増加した。これは全体の増加分の41%に相当する。

 しかし、中国の石油需要にはさすがに飽食感が出始めている。

 9月のガソリン生産量は1012万トンと前年比0.5%増にとどまり、前月比では3カ月連続でマイナスとなった。中国政府は10月26日「2030年までに4台に1台の割合でガソリンと電気で動くハイブリット車とする」との目標を設定しており、近いうちに中国のガソリン需要は減少に転じる可能性が高い。

 産業用の石油需要は2013年頃から頭打ちになっている。さらに今後、バブル崩壊でその需要が大幅に減少するリスクが台頭している。

 中国共産党中央政治局は10月28日、経済政策方針を示す経済会議を開催した。第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が閉幕した直後にこのような経済会議を開催するのは極めて異例である。

 同会議で当局は、「資産バブルの抑制を重視」「経済・金融リスクを防ぐ」として、各地で再び発生した不動産バブルとその影響による経済への打撃に強い警戒感をあらわにし、厳しい抑制措置の実施を示唆している。これについて専門家の間では「今後、当局の金融政策の重点は、『比較的高い安定的な経済成長の維持』から『資産バブル抑制』に変わる」との見方がある。中国経済はますますハードランディングに近づきつつあると言えよう。

 不動産バブルの崩壊によって当然のことながら石油需要も大打撃を受ける。不動産投資の急減は、セメント・鉄鋼・銅などのエネルギー多消費型産業を直撃するからである。

原油市場にとって本質的なのは需要の問題

 11月末の産油国の減産合意ができるかどうかは予断を許さない状況にあるが、仮に合意が成立したとしても「その効果は限定的であり、長期にわたり原油価格の低迷が続く」との見方が浮上している(10月11日付日本経済新聞)。

 今回の原油価格急落は1986年に発生した「逆オイルショック」と比較されることが多い。

 1970年代の2度にわたる石油危機による原油価格の高騰で石油需要が減少、さらに北海油田の生産拡大などで供給過剰に陥っていた状況でサウジアラビアが増産したことから、WTI原油先物価格は1986年4月に1バレル=10ドルを割り込んだ。OPECによる生産枠復活などの対策も決定打とならず、原油価格はその後長きにわたり低迷した。

 これに対して「需要が伸びているという点で当時と現在では状況が異なる。長期にわたる価格低迷は続かないだろう」との声も根強い。しかし、逆オイルショック後の本格的な上昇基調は中国の原油需要が急増する2000年代半ばまで待たなければならなかったという事実は示唆的である。

 結局、原油市場にとって本質的なのは需要の問題であって、供給の問題ではないということだ。

 インドの石油需要(日量約400万バレルで日本とほぼ同等)は引き続き堅調に推移しているが、石油需要が半減すると予想される中国(日量1200万 → 同600万バレル)の穴埋めになるとは到底思えない。

 人民元が10月からSDR入りしたことで資本の流出規制が取りづらくなったことから、10月の人民元は月間ベースで5月以来の大幅安になった。このことは資本流出に歯止めがかからなくなっているために資金繰りがますます苦しくなることを意味する。中国の生産活動は来年に入り急減するような事態になれば、世界の石油需要は今年をピークに来年から減少してしまうだろう。

 そうなれば、産油国の減産合意もむなしく、原油価格の底は1バレル=20ドル、場合によっては同20ドルを下回ってしまう可能性も避けられないのではないだろうか。

筆者:藤 和彦