首相官邸ホームページより

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「プーチン訪日で北方領土返還」という話は、一体どこに行ってしまったのか──。本日、安倍首相とプーチン露大統領が共同会見を開いたが、発表されたのは「『新たなアプローチ』に基づく(北方領土での)共同経済活動を行うための『特別な制度』について、交渉を開始することで合意した」というだけ。しかも、正式な共同声明すら出せず、「プレス向け声明」というよくわからないものを発表しただけだった。

 つまり、あれだけ安倍首相は北方領土の返還に浮き足だっていたのに、結局、日本が3000億円にものぼる経済協力で貢ぐだけ。"共同経済活動は北方領土問題解決への重要な一歩"などと言うが、そんなわけがあるまい。実際、先述したプレス向け声明にも、「北方4島の帰属問題に関する記述」はなし。つまり、安倍首相はプーチンの手のひらで転がされていただけだったのだ。

 4島返還から歯舞群島、色丹島の2島引き渡しという妥協までし、官邸が騒ぎ立ててきた「プーチン訪日で北方領土返還」は、何ひとつ進展せず終了──。こうした結果は首脳会談前からわかっていた。現に今月13日に公開された日本テレビと読売新聞による単独インタビューで、プーチン大統領は「ロシアは領土問題はまったくないと思っています」と明言さえしていたのだから。

 しかし、呆れるのは、この間のテレビのバカ騒ぎだ。プーチンは3時間近くも遅刻、その段階から安倍首相は足元を見られていることがあきらかだったのに、「プーチンは遅刻魔だから」とこぞってフォロー。なかでもワイドショーはお祭り騒ぎで、旅番組のごとく山口県大谷山荘の温泉や長門市の観光スポットを紹介し、「プーチンは日本酒をお気に召したらしい」「温泉での裸の付き合いはあったのか?」「ディナーではふぐ刺しを食べた」など、どうでもいい話ばかりを伝えた。

 他方、あれだけ盛り上がってきた北方領土返還については、一転、「ハードルが高そう」などとあからさまにトーンダウン。しかし、ワイドショーは安倍首相の外交力を褒め称えながら、会談の焦点を「北方領土返還」から「北方4島での共同経済活動」へと巧みにシフトチェンジさせたのだ。

 たとえば、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)では、昨日、同番組で"安倍首相に大谷山荘へ2回連れていってもらった""相当仲良くならないと連れていってもらえない"と自ら語り、御用ジャーナリストっぷりを恥ずかしげもなく開陳した山口敬之氏が、本日も解説者として登場。昨日の会談後に安倍首相などに取材し聞いた話として、こんな解説をはじめた。

「まだあまり新聞には出ていませんが、プーチン大統領に対して、『ロシアの法制度でも日本の法制度でもない枠組みで北方4島の共同経済協力をしましょう』と、これ繰り返し言ったそうです」

 北方4島で日露が"特別な制度"の下で共同経済協力をおこなう──。「北方領土返還」という話はすっかりなくなり、いつのまにか、ロシアの法律下ではなく共同の制度にもちこむことが「最大のポイント」になってしまったのだ。事実、安倍首相の"スポークスマン"である田崎史郎・時事通信社特別解説委員は本日の『ひるおび!』(TBS)や「直撃LIVEグッディ!」(フジテレビ)において、「『特別』という言葉が出たこと自体が進展」と安倍首相をアシストしていた。

 この、ハードルのあからさまなダダ下がり具合には笑うしかないが、「特別な制度」といっても両国共同の経済活動なのだからロシアの法律下でおこなうこと自体がおかしいもので、至極当然の話だ。

 そもそも、北方領土返還への期待感が出てきたのは、今年5月6日にソチでおこなわれた日露首脳会談後だ。このとき安倍首相は「領土問題についてアイスブレイク(砕氷)できた」と成果を語り、世耕弘成経産相(当時官房副長官)も「(安倍首相は北方領土問題について)踏み込んだ発言をした」と"強気さ"をアピールしていた。この段階から「いつものロシアの経済協力を取り付けるための陽動作戦でしかない」という見方は当然ながらあったが、しかし官邸はすっかり前のめりになってしまったのだ。

 そうしたなか、流れを決定付けたのは9月2日のウラジオストクでの会談だ。ここで今回のプーチン来日と首脳会談山口開催の合意を取り付けたが、会談後、安倍首相は「交渉を具体的に進める道筋が見えてきた。手応えを強く感じ取ることができた」「平和条約については2人だけで、かなり突っこんだ議論ができた」とかなり具体的に北方領土返還が現実味を帯びてきたことを匂わせた。当然、メディアの盛り上がりもピークに達し、「ついに北方領土返還か」と喧伝。自民党内では「訪日後、外交成果による支持率アップのなかですぐに解散する」という"年明け解散"の動きも強まった

 しかし、こうした盛り上がりがトーンダウンしはじめたのは、11月に入ってから。わざわざ新設したロシア経済分野協力担当相を兼任する世耕経産相の訪露をはじめ、具体的な交渉でどんどんと暗雲が立ちこめはじめ、官邸も北方領土返還は無理だということを察知。そのため、自民党内でも年末解散説は消え、「領土返還の期待感を煽るだけ煽って、いまのうちに解散したほうがいい」という"11月中解散"まで飛び出したほどだ。

 2島返還が露と消えたことが明白となり完全に劣勢に立たされた官邸は、このあたりからダメージを最小限に抑えるために、「ロシア側の問題で返還は困難」という情報をメディアに流すようになる。

「例の読売新聞と日テレのプーチン単独インタビューにしても、実際は今月7日におこなわれたものだったが、情報解禁したのは首脳会談の2日前である13日。このタイミングで出したのは、もちろん官邸からのGOサインが出たから。首脳会談の直前にプーチンの強硬な態度を見せることで、返還失敗というダメージを抑えようと考えたのでしょう」(官邸担当記者)

 そして、いつのまにか、マスコミは前述したように「特別な制度下での共同経済協力」を「共同声明文書を盛り込めるかどうかが鍵だ」としきりに報道し始めたのだ。

 ところが、今日午後には、その共同声明も出さないことがわかり、各局は慌ててそれもフォローし始めた。

 たとえば、『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)では、"政権の腹話術人形"といわれる青山和弘・日本テレビ政治部副部長が「共同声明は出さない。共同声明を出すとなると大変なんで」などと官邸に代わって言い訳をはじめ、司会の宮根誠司も「ああ、共同声明だとおおごとになりすぎるんでね」とフォローに必死だった。

 また、政府が共同声明でもなんでもないマスコミ向け発表を「プレス向け声明」と名付けて発表すると、ほとんどのマスコミは、「日露が共同声明」などと報道したのである。

「ようするに官邸は共同声明を発表できなかったことをごまかすために、こんなややこしい名前のプレス発表をおこなったんです。ところが、マスコミはそれを批判するどころか、その情報操作に乗っかって、あたかも共同声明を出したかのような嘘を撒き散らした」(外務省担当記者)

 安倍首相は今夜、NHKの『ニュースウオッチ9』、テレ朝の『報道ステーション』、TBSの『NEWS23』に出演するというが、この調子では、安倍首相の言い訳をそのまま垂れ流す結果に終わるのではないか。

 しかも、マスコミはこの間、もっと重要なことを報道していない。それは、いま、プーチンがシリアで何をやっているのか、そして日本政府がその行為に対してどういう態度をとっているのか、ということだ。

 プーチンはシリアのアサド政権の協力者であるが、そのシリアでは政府軍による市民の大虐殺が大きな問題となっており、世界中から批判が殺到している。今月13日には、フランスのオランド大統領が「ロシアなくしてアサド政権もない。ロシアには(アレッポの)惨状に責任がある」と非難。EUは昨日、ロシアへの経済制裁を半年間延長することで合意した。

 また、国連安全保障理事会も、潘基文事務総長が「シリアとその同盟国であるロシアやイランに国際人道法に従うよう求める」と強い批判をおこなっている。

 このような情勢下にあって、日本政府は市民の虐殺に関与するプーチン大統領に対して一切非難しなかった。G7のうち日本を除く6カ国はすべてシリアに即時停戦を求める共同声明を出したが、日本はそれにすら参加しなかった。そればかりかロシアの責任の重さから経済制裁の延長が検討されるなかで、日本は3000億円も貢いで協力すると発表したのだ。

 だが、マスコミはこうした日本政府の姿勢をこの間、追求しなかっただけではなく、シリアで罪のない大勢の市民が殺害されつづけている実態をまったく取り上げず、「プーチン大統領は親日家」などと歓迎したのである。これではシリアでの虐殺を是認しているようなものだ。

 "戦争犯罪者"であるプーチンをもちあげ茶番劇を繰り広げた安倍政権と、それに追随するメディア。恥も外聞もないとは、まさにこの国のことだろう。
(編集部)