干し柿は太る!(shutterstock.com)

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 近年、世間では「糖質制限ダイエット」なるものが流行している。文字通り「糖質」の摂取量を制限して行うダイエット方法だ。

 糖質が含まれる食べ物というとお菓子や果物などを想像しがちだが、ご飯やパン、麺類などの炭水化物にも糖質が含まれている。

 そもそも「糖(とう)」とは、多価アルコールの最初の酸化生成物。一般的には炭水化物(糖質)と同義とされることが多いが、厳密には糖は炭水化物より狭い概念である。

 糖質化学や分子生物学などでは炭水化物の代わりに「糖質」ないしは「糖」と呼ぶ場合が多い。一方、生化学では「炭水化物」と称するが、徐々に「糖質」と表現することが多くなってきている。

 栄養学では炭水化物のうち、ヒトが消化できない「食物繊維」を除いたものが「糖質」と呼ばれるが、単に糖質のみを指して「炭水化物」と称されることも少なくない。

「ブドウ糖(グルコース)」と「果糖(フルクトース)」

 そんな「糖」の中でも、主役を演じる「ブドウ糖(グルコース)」と「果糖(フルクトース)」について、知っておくべき点を紹介しよう。

 蜂蜜はブドウ糖と果糖の混合物であり、白く固まる成分はブドウ糖である。ショ糖(砂糖、すなわちブドウ糖と果糖が結合した二糖類)はほとんど含まれない。

 ブドウ糖は、血液中を流れる糖質の主役である。糖尿病のときに問題となる「血糖値」は血液中のブドウ糖の濃度のことで、正常状態では100 mLあたり100mg(0.1g)前後に厳密に保たれている。

 膵臓から分泌されるインスリンと呼ばれるホルモンが、余分なブドウ糖を細胞内に取り込ませる結果、血糖値が下がり、食後でも血糖値が厳密に保たれる。

 インスリン不足が特徴である糖尿病では、血糖値が高くなり、その状態が長く続くと腎臓や網膜、そして末梢神経がおかされてしまう。

 ちなみに、ブドウ糖は点滴に使われることは有名である。血液と同じ浸透圧を保つために、5%ブドウ糖液が使われる(食塩の場合は0.9%液が等張液)。

 ブドウ糖と果糖の代謝経路の違いをみてみよう。

 ブドウ糖は、インスリンの作用で細胞内に取り込まれて、細胞活動のエネルギー源となる。細胞内でブドウ糖が分解され、エネルギー化される過程は「解糖系」と称される。

 「解糖系」の過程では酸素は不要なので、無酸素運動で活躍する仕組みといえる。解糖系の最終産物であるピルビン酸は、酸素を使ってエネルギー変換する「クエン酸回路」といわれる代謝経路に入る。

 もし、ピルビン酸が過剰になると、余ったエネルギーはアセチル-CoAという物質を経て、脂肪が合成される。急激な運動などで筋肉が酸素不足に陥ると、余ったピルビン酸は「乳酸」へ変換されて、疲れの原因となる。

 エネルギー貯留のためのもう一つの仕組みは、ブドウ糖自体をグリコーゲンとしてため込む経路で、肝臓や骨格筋でとくによく発達している。グリコーゲンは必要なときに分解されて、ブドウ糖に変換されるというわけ。

 一方、果糖は、肝細胞に特異的なフルクトキナーゼという酵素の作用で、「解糖系」を迂回する形で代謝され、最終的にピルビン酸が生成される。
 
 この過程は、血糖値やインスリンに左右されないため、大量に摂取された果糖は、必然的に「脂肪合成」へと向かう。さらに、ピルビン酸キナーゼが活性化される結果、乳酸が蓄積する。尿酸代謝にも影響し、尿酸値が上昇する。

 ラットにコレステロールを含まない高果糖食を与えると、肝での中性脂肪、さらにコレステロールの合成が促進される。つまり、栄養学的に果糖はブドウ糖と比べて「太りやすい糖」なのだ。
「干し柿」が太りやすいワケ

 つまり、果糖をたくさん含む食材は、より太りやすいので注意が必要だ。

 果物の中では、「干し柿」は果糖成分がとびきり多い(干し柿の白い粉はブドウ糖と果糖の結晶)。肥満や痛風に干し柿はよくない。

 ただし、果糖はアルコールの分解を助けるため、干し柿は「酔い覚まし」には効果があるとされる。なお、生柿に含まれる糖の多くは「ショ糖(砂糖)」である。

 運動前や運動中にブドウ糖を大量に摂取すると、脂肪燃焼が直ちに停止する(脂肪合成に向かう)。骨格筋は脂肪とブドウ糖をともにエネルギー源とする。

 ブドウ糖の大量摂取は、インスリン分泌が刺激されるためにブドウ糖の細胞内への移入が促進される。

 短距離走や運動の最初には、ブドウ糖の摂取は効果的だ。しかし、マラソンなどの持久運動やダイエット目的の有酸素運動には、脂肪の燃焼が求められる。

 筋肉内に貯蓄されているグリコーゲンがエネルギー源としてまず利用されるが、まもなく貯蓄分はなくなってしまうので、よりエネルギー効率のよい脂肪燃焼が長距離走にはなくてはならないというわけ。

 たとえば、7%の糖質を含む「ポカリスエット」は、そのまま飲まずに、水か氷で希釈するのが現代のスポーツ指導者の常識だそうだ。そのまま飲むと、結果的に誘発される低血糖の結果、やたらとお腹がすくだけで、持久運動にメリットが少ないからだ。

持久力を高く維持するために果糖を摂取

 一方、代謝がインスリンに依存しない果糖は、脂肪燃焼を止める効果が著しく小さいので、スポーツ時の脂肪のエネルギー化(すなわち持久力)を高く維持するために、糖質の摂取を果糖に限定することが行われる多い。

 高脂肪食は、骨格筋への脂肪蓄積と運動時の脂肪代謝を促進し、スタミナが増大する。これは普段の心がけの話。長距離走の最中は、ショ糖(黒砂糖やアメ)を少しずつ摂取するのがよい。ショ糖は腸内ですぐに分解されて、ブドウ糖と果糖に変わるからだ。
 
 というわけで、運動中のエネルギー源としては、果糖+クエン酸+アルギニン(疲労物質アンモニアの産生抑制が目的)が優れていると宣伝されている。

果糖は「精液」の<栄養源>

 ちなみに、精液(精漿)には果糖濃度が高い。その濃度は、血中のブドウ糖濃度よりも高い120〜450mg/dLとされ、精液が<甘い>理由となっている。

 膀胱の裏側に2つある精嚢腺から、果糖は分泌される。精子には、果糖の輸送体膜蛋白であるGLUT5というタンパク質が分布している。果糖は精子の重要な栄養源だ。

 ついでながら、コレステロール含量の多い食材の代表は「卵黄」である。魚類の卵であるタラコやイクラも当然ながら多い。また、コレステロール含量が最も高いのは、意外にも「イナゴの佃煮」だとされている。

 昆虫には、「脂肪体」と称される肝細胞と脂肪細胞の中間的性格を有する「栄養貯蔵庫」が存在する。幼虫やサナギはとくに栄養価が高い。そのために、全世界に昆虫食は広く普及している。

 日本でもイナゴの佃煮の他、「ハチノコ」もよく食される。パキスタンの高級食の一つがクワガタムシ料理であることを、映画『インディ・ジョーンズ』で知った。
 
 インドネシアでは、食材としてコオロギが大人気らしい。セミ、タガメ、シロアリ、カイコガやウジといった多様な昆虫類が、世界中で食用に供されている。

 昆虫類の血糖は、哺乳類にはない二糖類(ブドウ糖2分子よりなる)のトレハロース。その濃度は400〜3,000mg/dLと著しく高いが、決して糖尿病性昏睡にはならない。

 トレハロースはゾウムシのつくる蜜(トレハラマンナ)の主成分であり、トルコではぜひ買いたいお土産品だ。

 このトレハロースを分解する酵素、トレハラーゼはヒトの小腸粘膜や腎臓の尿細管上皮にしっかり備わっている。昆虫を食材とすることを前提に、神さまがそのように設計してくれたのだろう、きっと。

 医学生時代の授業を鮮明に思い出す。お茶碗一杯のご飯と同じカロリーなのは、リンゴ、ミカンやカキ1個、ビール1杯、ウイスキーダブルで1杯といった栄養学の講義だった。

 ダイエットの敵は<イナゴの佃煮>、そして、柿(とくに干し柿)というのは、ぜひ覚えておいてほしい。

堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

連載「病理医があかす、知っておきたい"医療のウラ側"」バックナンバー