ジョジョシリーズの「武器」


無敵のバイツァ・ダストを破るための切り札にするつもりが、吉良に奪われて仗助達を追い詰めてしまう猫草。はたまたチープ・トリックが露伴先生を窮地に陥れた「声」。思ってもいないものが武器になり牙をむく恐ろしさだ。


第一部と第二部の波紋戦士たちは、あらゆるものを武器とした。ワイン(波紋カッター)や剣、コーラや石鹸水まで、波紋を流し込めば敵の不意をつき、吸血鬼を溶かす必殺の一撃となる。サボテンはトゲを撒き散らして爆発し、アメリカンクラッカーは四方八方から同時攻撃、「糸」は腕をぶった切る刃物と思え!

スタンドそのものが「武器」となった第三部では、物理的なツールは存在感が薄めになったが、要所要所で見せ場あり。呪いのデーボ=エボニーデビルはカミソリを振り回していたし、憑依した人形のキモさ(ほぼチャッキー人形)も武器といえば武器。スタープラチナが射程の外から飛ばした学生服のボタンも、フォーエヴァー(ストレングス)に対する勝利の鍵となった。

武器を「凶器」に広げれば、痛そうなワースト3の一角がバステト神(マライア)の磁力スタンドが引き寄せた車。いや、それよりも「釘」だ。磁化されたジョセフの体が近くに通りかかった大工さん、トンカチが急に重くなり、口にくわえていた釘が引っ張られて頬を穴だらけに! 全世界の工務店さん、お近くのスタンド使いには注意しましょう。

たった一本の電話で「運命」に打ち勝った小学生


「信じられない幸運だ!もし朝コーヒーをこぼしてなかったら…」

午前8時半に露伴先生が爆死。そこから始まる「繰り返す運命」に抗うために、小学生の川尻早人は悲壮な決意で猫草を持ち出し、勝ち誇った吉良に必殺の空気弾を叩き込んだ……はずだったが、運は吉良に味方した。「壊れる運命にあるコーヒーポット」により反撃したつもりが、手を火傷した吉良は腕時計を外して胸ポケットに入れ、それが致命傷を防いでしまった。これほど絶望的な開幕があるだろうか。

スタンド使いにスタンド使いをぶつけるアイディア、何より小学生が「人を殺す」という異常な覚悟。たちまち吉良は、「この朝」を早人が3回ないし4回は往復していること、露伴先生をはじめ敵を吹っ飛ばしてきたと見抜いた。

が、「誰を殺してきた?」というセリフは、前回のループでも口にした言葉。バイツァ・ダストの本体である吉良もまた、運命から逃れられないわけだ。そのついでに「康一のチビはいなかったか?」とわざわざ聞く辺り、「お前はバカ丸出しだッ!」と煽られたことを根に持ってるようだ。

「そいつらが死んだ後で一旦バイツァ・ダストを解除する。バイツァ・ダストは無敵だ!この吉良吉影に運は味方してくれている!」

道のど真ん中で本名を告白する殺人鬼はいかにも「バカ丸出し」だ。が、「誰を殺してきた?」と同じく、すでに最初のループで「この吉良吉影を逆に脅迫するとはね……」とやっており、やはり決定事項だったのだろう。問題は、いつ「自白するか」だ。

「僕は…僕は喋っちゃいない。最初からあんたのことは一言だって喋っちゃいない!」
「僕は電話しただけなんだ。寝坊して遅刻したって言ってたから番号調べて起こしただけなんだ」

バイツァ・ダスト発動の条件は「仕掛けられた人物から情報を聞き出そうとする」ことだ。早人に質問したり、吉良に近づくために「探り」を入れるだけでスイッチは起爆。それ以外の第三者から手がかりを得る、喋っているのを勝手に聞いても不発に終わる。その発言者が吉良吉影、本人であったとしても。

早人がやったのは、ただ家からコールして早起きするきっかけを作るだけ。吉良の名前も何も言ってない。寝坊しないで待ってただけだ。吉良がうっかり本名を自白した、そこにたまたま居合わせたのが仗助。いや、たまたまじゃない!

「偶然か…これは運命なのか?今よぉ〜。ブッたまげる名前をよぉ。こいつが喋ったんだぜ!」

こんな偶然が……と驚がくする億泰。もちろん、偶然なんかじゃない。運命でさえない。

「これは賭けだ!僕が賭けたんだ!そして(仗助が)来た!」

前回のループで仗助が「寝坊した」と言ったことと、吉良が本名を自白すること。この2つを手がかりに、「人事を尽くして天命を待つ」を実践してる川尻早人、「賭け」はやれることを全てやってこそ「賭け」になるのだ。

出会い頭に「ドラァ!」と吉良をスタンドでぶん殴る仗助。たとえ同姓同名の人違いだったとしても「治せばいい」クレイジー・Dの強みだ。スタンドを防御できるのはスタンド、吉良もバイツァ・ダストを解除して自分自身を守らなければならない。

戻れ、キラー・クィーン!と叫んだ直後、露伴先生の背中に異変が……雨が背中に入っただけ。「8時30分、岸辺露伴爆死は「なかったこと」にされ、露伴先生が生還!

「やった!間に合った!運命に勝った!」

連載当時、この瞬間にどれだけ打ち震えたことか。原作者の荒木先生さえ一度は諦めかけた無敵のバイツァ・ダストを、絶望の運命を、たった1本の電話で打ち破った川尻早人。まだ小学生、スタンドを持たないふつーの人。ジョジョシリーズを通じて「黄金の精神」に最も相応しいキャラクターじゃなかろうか。

キラー・クィーン×ストレイ・キャット、最悪の合体攻撃


「激しい喜びはいらない…その代わり深い絶望もない…植物の心のような人生を…そんな平穏な生活こそ私の目標だったのに…」

少しも平穏じゃない吉良本体と、キラー・クィーンの爛々と光る目。ことキラー・クィーンについては、気合の入った作画に定評ある第四部アニメである。

「正体を現したな。そんじゃあ平穏じゃねぇ顔面に変えてやるぜ!」

そう煽る仗助に対して「言っておくが私は別にお前たちから逃げていたわけではない。お前達を始末しようと思えばいつでも殺すことはできた」と切り返す吉良。負け惜しみと思われやすいが、実際にキラー・クィーンは殴り合いよりも暗殺に向いている。もし東方家のドアノブを爆弾に変えていたら、正体を知らない仗助の背中に触っていたら? 「単に私が戦いの嫌いな性格だったから」という言葉にウソはない。

「闘争は私が目指す平穏な人生とは相反してるから嫌いだ。一つの戦いに勝利することは簡単だ。だが次の戦いのためにストレスが溜まる。他人と争うのはキリがなく虚しい行為だ」

セリフだけ取り出せば平和主義者のすばらしい信念だが、殺人鬼がいうと「だから一方的に殺させろ」と世にもおぞましい意味を帯びる。

「おめーが重ちーを殺したから追ってんだろうがこのボケェ!」

ここで、はるか遠い昔に思えた重ちーの名前が出てきて目にしみる。カネにみみっちい守銭奴ではあったが、最期の最期までパパやママを守ろうとしたいい子だった……。

「殺人が趣味のブタ野郎が!てめーの都合だけ喋くってんじゃねぇぞこのタコがぁ!」

億泰が言ってることは、完膚なきまでに正論。吉良のおぞましさは自分の平穏しか考えない、他人の命をチリとも思ってない究極の自己中にある。

ただの住宅街でばったり出くわした不良高校生とサラリーマンがいきなり最終決戦。身の丈に合った現実と地続きの感覚、日常の中に正義と悪が同居している第四部のはジョジョシリーズの中でも随一で(第八部はそれに寄せているが)何十回も原作を読み返してしまう理由がここにある。

(写真のおやじのおかげで)情報通の吉良VS実戦慣れしてる仗助。クレイジー・Dはスピードこそ上だが、キラー・クィーンの手に触ったら終わりだ。そのハンデもあって足払いされたものの、とっさに蹴りを叩き込むクレイジー・D。原作通りのスタンドバトルは感動ものだが、「み…見えないけどすごいぞ!キラが血を吹いて吹っ飛んだ!」と実況する早人がちょっと気の毒だ。スタンドが見えない常人の視点では「おっさんと高校生がにらみ合い、倒れたり壁に吹っ飛ぶ」だけになる。

平穏な人生を目指したせいかハングリーさにかけ、動きがスッとろいと仗助にこけにされたキラー・クィーン。が、何をするかわからない。横から億泰が「触らずに攻撃するなら俺のザ・ハンドの方が向いている」とアシストし、空間を削り取ってキラー・クィーンを自分に向けた。

そして爆発する億泰。キラー・クィーンに触れもしないのに腹に風穴が空き、柵の上にふっ飛ばされた。空気が火を吹いた……? 吉良がストレイ・キャット(猫草)をわざわざ飼っていた理由--空気を操る能力をキラー・クィーンの爆発に利用するためだった。

スタンドの腹がカパァと開き、中から顔を出した猫草。連載当時、驚いてコミックスで遡って確認してみたが、初期キラー・クィーンの腹は開閉式じゃなかったのに(デザインが少し変化してる)! 

目に見えない空気と防げない爆発、この世にこれほど相性のいいものがあるだろうか。その最悪の合体攻撃を実現したのは、吉良を倒すつもりだった川尻早人という皮肉だ。

「運は私に味方してくれると言ったよな。命を運んでくると書いて運命。フフ…よくぞ言ったものだ」

また出ました、吉良の名言。次回、ざっとまとめてみますよ!

僕が触ればいいんだ! 仗助を救った川尻早人のド根性


「どうかしましたか承太郎さん?」
「いやなんでもない。雨の音が仗助の声に聞こえたと思っただけだ」

すぐ近くにいるのに、スタンド仲間のうち仗助の叫びに気がついたのは承太郎ただ一人。しかも気のせいだと……。ただ「悲鳴をかき消すほどの雨音」も吉良にとっての幸運の一つと受け取りたい。

億泰に近づきケガを治そうとする仗助と、スキを突いてふっ飛ばそうとする吉良の駆け引き。猫草と空気弾、2つの「目に見えるもの」が挟まることで、スタンドが見えない早人もバトルに一枚かめているウマさ。仗助から見えにくい空気弾も、早人の角度から見れば「空気の歪み」として確認できるわけだ。

地面を壊して石板の形に「直した」クレイジー・Dは空気弾の直撃をガード。しかし二発目は、石板の隙間をすり抜けて通過し、被弾してしまう仗助。

「思い込むという事は何よりも恐ろしい事だ…しかも自分の能力や才能を優れたものと過信している時はさらに始末が悪い 」

さっき自分のバイツァ・ダストを過信して、本名を告白した吉良がいうと言葉の重みが違う。もっともハイウェイ・スター戦で石板の壁を使った「成功の経験」が、仗助にとって仇になっているのも事実だ。

キラー・クィーンの爆発は「触れたものを爆破する」だけと思われてきたが、実は「自由な距離で、スイッチで爆破」する選択肢もあった。つまり接触弾と「スイッチで点火」の2タイプあり、発射された時点ではどちらか分からない。相手は「読み」を強いられ、思考時間が命取りになるため超強い。

仗助に向かう空気弾。が、最初から仗助は逃げるつもりなどない。億泰を治せなくなるから、ジョースター家伝統の戦い方「逃げるんだよ!」は封印されている。逃げるどころか、向かっていった!「自由な距離で爆発させられる」のは、あくまで本体に爆撃が及ばない距離のこと。巻き込まれたらたまらないと、素直に逃げる吉良がちょっと笑える。

億泰を治そうとする仗助に、「触っちゃあ駄目だ!」と間髪入れず警告する早人。今朝まで同じ家にいたことと、ずっとカメラで観察(盗撮)してきたおかげで、吉良の表情にピンと来たのだ。億泰の体は爆弾に変えられていることに……。

「あ〜どうだったかな〜。君が突っ込んで来たもので自分でも億泰に触れたか自信がない」
「もし爆弾になっていたとしても君は爆死するけれども億泰は爆発しない。君が犠牲になれば少なくとも親友の傷は治せるんじゃあないかね?」

仗助の心をネチネチといたぶり、究極の選択を迫る吉良。シリアルキラーは他人の命を奪う以上に、精神を嬲りものにするのが大好物なのだ。そんな言葉を遮って、「触っちゃあ駄目な証拠がある!あいつはきっと1発ずつしか爆弾を作動できないんだ!」と分析する早人。何発でも撃てばいいのに1発ずつしか撃ってないのがその証拠……と見切るのも優秀だが、本当にスゴいのはこの後である。

「逆に言うと億泰さんを救う方法があるってことさ!それは!僕が触ればいいんだ!」

ためらいもせず億泰に触り、爆弾が起動して早人が木っ端みじん!! バラバラになった瞬間に連打で治してしまうクレイジー・Dも性能がぶっ壊れてるが、早人の覚悟の前ではかすんでしまう。「プッツンしてるぜ川尻早人…おめーのそのブッ飛んでる根性!」と呆れ返る仗助の叫びに、視聴者は頷くばかり。川尻早人、お前がジョジョの一般人ナンバーワンだ!

破壊を一瞬にして戻すまでの仗助のパワーを前にして、吉良はついに「敵」として認識する。今度は見えにくいように、小さい空気弾。さっきの爆撃でカラダに破片がめり込むほどの怪我を負った上に、億泰まで抱え込んだ仗助は身動きが取れない。いつまでも目を覚まさない友を放っていけない仗助を眺めて、吉良はゆうゆうと着弾の距離を測る。

ここで原作の「行きたくもないサマーキャンプ」で距離を測ったキラの話が省かれてるが、よく思い出してほしい。第25話「アトム・ハート・ファーザー」で、幼い日のキラがサマーキャンプに行った写真(アニメオリジナル)があったことを。終盤で尺が足りなくなるのを織り込んだ、アニメならではの設計なのだろう。

ママを守るため、街の人をこれ以上死なせないため、仗助は絶対に生きていなくてはならない存在だ。しかし、仗助のにとっては億泰はかけがえのない友人。早く逃げろという隼人、億泰を見捨てられない仗助、どちらの気持ちも分かるだけに辛い。

すでに億泰は死んでいる。そう言われるほど、ますます意固地になる仗助。かつてアンジェロに襲われたお祖父ちゃんを「治した」のに生き返らなかった悲しみの記憶が尾を引いて「死んでなんかいるもんか…億泰は治っている…絶対に目を覚ます!」と言わせているのだ。

3m、2m、あと1m。迫る空気弾を、クレイジー・Dは仗助の流した血を水圧カッターのように飛ばして切断した。しかし、左右に割れた空気弾はしぼまずに向かってくる。爆弾になった空気弾はスタンドの力によって固定されている。終盤にかけてでキラー・クィーンの能力設定が加速度的に増えていませんか。

よし着弾……そのとき、仗助と億泰の体が浮いた。クレイジー・Dは自分の傷は治せないが、傷の中にめり込んだ道路の破片を「直す」ことで、後ろの道路に引っ張られたのだ。実にクレバーな回避とはいえ、高校生2人×小学生一人(早人も体を掴んでいた)の力で破片をえぐり出すのだから、仗助の精神力なしにはあり得ない戦い方だ。

いったん他人の家に入って(不法侵入)体勢の立て直しを図る仗助たち。すでに死んでいる億安を置いていくべきと迫る早人と、「こいつは俺の友達なんだ」と蘇生にこだわる仗助。この状況では、早人が正しい。しかし、億泰を見捨てるような奴は仗助じゃない……。 
「気に入らん…あの治す能力さえなければ私の爆弾は無敵だ。私の心の平和にとって最も恐れるべきだったのは承太郎ではない…あいつだったのだ!」

完全無敵のはずのシアー・ハート・アタックは康一くんのエコーズACT3に封じられ、ボロボロだった承太郎にキラー・クィーン本体がボコボコにされたのに、と突っ込むのは野暮なこと。自分の能力を過信して、「うっかり」してこその吉良吉影だから。次回、民家の中と外とで、ジョジョ特有の熱い頭脳戦が繰り広げられるッ!
(多根清史)