カルビー会長兼CEO 松本晃氏

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■経営者と社員の要望を合致させる

人を動かすということは、「何のために」するのかという問いかけから始まります。「何を求めているか」をはっきり示さないと、社員は動きようがありません。一方、企業の経営者が求めることは非常に明瞭で、それは成果です。

スポーツチームならその団体は勝つことが目的だし、企業ならその組織は成果を出すことが目的です。私も株主から結果を出すことを求められているし、私もそれを社員に要求しているわけです。

この目的が明確でないと人を動かしても意味がありません。一方、社員が求めていることを理解することも大事です。要するに経営者の要望と社員の要望のマッチングがあって、初めて人は動くわけです。これは部長や課長と部下との間でも、相手にする人数は違うけれども、原理原則は変わらないと思います。

では社員は何を望んでいるか。私は3つあると思います。1つが豊かになること。お金だけでなく時間的にも、社会的にも豊かになりたいという望みです。次に仕事でワクワクすること。最後の1つが自分の成長です。これは私の仮説ですが、ほぼ正しいのではないかと思っています。あとは社員が成果を出せるようにできる限りの環境と制度を整え、会社の仕組み・文化を変えればいいのです。それだけのことで多くの人は動きます。ただし、理屈はやさしいけれど実行はやさしいとは申しません。

■失敗を許容し、自発的な社員を育成する

カルビーは創業家が50年以上、経営してきた会社です。創業者はとても優秀な人でした。したがって何でも自分でやってしまうから下の者は動きません。下手に動いて間違えてしまうと、手間ばかりかかりますから。それでも創業者がいるうちは、それはそれでよかったのです。しかし、今はカリスマがいませんから、社員一人ひとりが自分で何でもやるのだという風土に変えていかなければいけません。

失敗してもいいからチャレンジしてみなさいと言うことが大切です。失敗には必ず理由があるからそこから学ぶ。社員が失敗をしてもそんなに簡単に会社は潰れません。そうしないと人は育ちません。

失敗を許し、挑戦を尊ぶ企業文化に変われば、自然と優秀な社員が増えていきます。

私はカルビーに来て2年目に組織横断的な28のプロジェクトをつくり、それぞれにリーダーを付けました。会社は学校と違うのでやらせてみなければ人材の真価がわかりません。

日本の会社は学歴で社員を見ることが多いのですが、仕事と学歴とは関連性が薄い。いろんなプロジェクトに挑戦させ、失敗する人のほうが多いのが現実ですが、中には成功する人が出てきます。そういう人材を引き上げろと言っています。

これはふだんやっている仕事とは関係のないプロジェクトでしたが、通常の組織においても自由度を高めました。今、本部長(執行役員)には自分たちの組織を自由につくらせています。会社の中に優秀な人材を見つけたら、自分のところへ「盗んでこい」と言っています。盗まれたほうが悪い(笑)。だから常時フリーエージェント状態です。

先ほどの28のプロジェクトの進行や成果は誰でも見られるようにしていますから、優秀な人間を盗むには格好の場になっています。私は20年前から「Ourbusiness is people business」と口にしてきました。私たちの仕事は人がいなかったら絶対にできません。自分の組織をよくするためにいつも優秀な人を探し、引き込んでいかなければ成果につながらないのです。

■シナリオをつくれば、社員の気持ちは奮い立つ

人が動く環境づくりは商品戦略においても必要です。今、我が社では「フルグラ」がよく売れています。今はよく売れているけれど、数年前までは、いい商品だけれど思ったように売れないので困っていました。

どうやったら売れるかは、やはり示してあげないとダメです。売れたら、みんなが「売れるんだ」という気になります。

そのためには売れるためのシナリオを上手に書くことです。

最初に手を付けたのがネーミング。「フルーツグラノーラ」は長すぎるので、もっと短くしよう、「フルグラ」だと。

同時に担当者を替えました。それまでの人は優秀でしたが、長い期間、同じ商品を扱っていると「売れないものだ」という固定観念ができてしまっていました。頭は良し悪しよりも、柔らかいのがいいのです。

次に、これは「時短商品」だと打ち出しました。

とくに仕事を持っている女性は朝が忙しい。お化粧もしなければならないし、今日着ていく服もあれやこれやと選んでいるうちに時間が過ぎます。それで朝食が食べられない。女性ですから、食べられなかったからと電車を降りて立ち食いそばというわけにもいかないでしょう。

女性がパッと食べられる朝食としてフルグラは向いています。それをテレビが番組で紹介してくれ、また売り上げが伸びました。

その次は食物繊維が豊富という点をアピールしました。フルグラ50グラムはバナナ4本分の食物繊維があるからお通じもよくなる。若い女性だけでなく、年をとって腸の働きが悪くなってくる高齢者にも購買層が広がっていきます。

さらに減塩も大事なPRになりました。フルグラは最初から塩分がほとんど入っていないから、朝食をフルグラにすれば昼と夜はそう気をつける必要がない。

商品名をフルグラに変えて100億円を目指し、それが見えてきた段階で200億円を目標にし、今は約220億円(見込み)まできたので、次は500億円だと言っています。

こうやって売れるシナリオをつくり、実際に売れることを示してみせることが大切です。最初はドライバーが必要で、そこから徐々にレバレッジをかけるわけです。売れるに従い、みんなの気持ちが「もっと売れるんだ」と乗ってくるのです。

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カルビー会長兼CEO 松本晃
1947年、京都市生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了。72年4月、伊藤忠商事入社。医療機器販売の子会社を経て、93年ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。同社の社長、最高顧問を歴任。2008年カルビー社外取締役に就任後、09年6月より現職。
 

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(Top Communication=構成 宇佐美雅浩=撮影)