マカオ映画祭に登場した鶴見辰吾

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 約30年前のマカオで撮影されたヨン・ファン監督の香港映画『海上花』(英題:Immortal Story、1986)がデジタル修復され、この程開催された第1回マカオ国際映画祭でワールドプレミア上映された。撮影当時21歳だった俳優・鶴見辰吾が、ヒロインのシルヴィア・チャンの相手役として海外映画初出演しており、今回現地入りした鶴見も久々に昔の自分とスクリーンで対面し、「タイムマシンに乗って30年前に引き戻されたかのよう。映画を上映し、こうして招待してくれた映画祭に感謝したい」と感無量の面持ちだった。

 同作はマカオを舞台に、現地で育った日本人・ナカムラと、クラブ歌手のメイ・リンが織りなすロマンチックなラブストーリー。当時鶴見は、TBS系ドラマ「3年B組金八先生」の宮沢保役で注目され、映画『飛んだカップル』(1980)で薬師丸ひろ子の相手役を務めるなどアイドル的な存在に。そこで歌手デビューも果たす事になり、アルバム「ガラスの世代」を発売したことが幸運をもたらしたという。

 鶴見は出演の経緯について「アルバムのジャケット写真を見たヨン・ファン監督から『会いたい』と連絡を頂きました。自分もまだ若かったですから、どれだけ海外で通用するのか試したいと思いましたし、外国語で演じるというのも役者にとっては大きなチャレンジ。実はシルヴィアの事も知らなかったのですが、だからこそ怖いモノ知らずで、喜んでお引き受けさせて頂きました」と明かす。

 撮影は中国返還前の、ポルトガル領時代だった頃のマカオと香港で実施。当時の香港映画界は盗難防止の為に脚本がなく、監督から簡単な説明があっただけ。だがそれだけ映画製作が盛んに行われていた時代で、撮影現場も活気があったそう。鶴見は「衣装合わせと称して、監督とスタッフと一緒にショッピングモールに趣き、何軒も店をまわっては『あれ着ろ! これ着ろ!』とフィッティングしたのには驚きました。日本なら衣装担当者が用意するものなのに。スタッフの平均年齢も日本より随分若いという印象でした」と振り返る。

 配給はジャッキー・チェンの映画で知られる、当時の香港映画界の雄ゴールデン・ハーベスト社。ジェニー・ツェンが歌った主題歌「海上花」も大ヒットした。マカオ国際映画祭での公式上映時は、今のカジノを擁した大型リゾート施設が乱立するマカオとは違う、ヨーロッパのエキゾチックな香り漂う昔のマカオの風景が映るたびに、客席から「ほら、あの場所よ!」など話し声があちこちから聞こえるという大盛り上がりぶりだった。

 しかし本作は日本未公開。当時、日本に入ってくる香港映画と言えばジャッキー・チェンなどのアクションが中心だった。鶴見はその後、同じヨン・ファン監督の『流金歳月』(1988)にも出演したが、こちらも残念ながら日本未公開となっている。

 だが、人生とは何が起こるか分からない。鶴見は今年、キム・ジウン監督の韓国映画『密偵』に出演し、ソン・ガンホやコン・ユらと共演している。映画『L change the WorLd』や、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」での小早川隆景役がキム監督の目に止まり、オファーがあったという。その後も鶴見の元へは韓国はもちろん、シンガポールからも映画出演のオファーが届いているという。俳優人生の新たなる展開に鶴見は「本当に何がどうなるか、分からないですね」としみじみ語る。

 奇しくも今年は鶴見のほか、大杉漣がパク・フンジョン監督作『隻眼の虎』(2016)、國村隼がナ・ホンジン監督作『哭声/コクソン』(2017年3月11日公開)と日本の実力派俳優が韓国映画界で脚光を浴びた。長年培ってきた彼らの実績と経験あってこそだが、オーバー50たちのアジア進出は、今の“内向き”と言われる日本映画界にとって大いに刺激となるはずだ。(取材・文:中山治美)