22歳の息子(右端)の臓器が50人の命を救う(出典:http://www.dailymail.co.uk)

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我が子の死を看取ることほど親にとって辛い出来事はないだろう。将来これからという時にその輝かしい命を奪われた家族の悲しみや苦しみは他人には計り知れない。昨年12月に最愛の息子を不慮の事故で失い、その葬儀のわずか2か月後に夫を亡くした女性がその悲しみを英メディア『Mail Online』に語るとともに、息子の臓器がこれまで50人ほどの患者に移植されたことを伝えている。

イギリスのホーンチャーチに暮らすウィルソンさん一家は、どこにでもあるごく平凡な幸せな家庭であった。地元の学校で教頭を務めているリサさん(53)には、夫のグレアムさん(63)との間にトムさん(22)とピッパさん(21)の2人の子供がいた。

グレアムさんはホッケーのコラムニストであり、全国紙にコラムを書いていた影響もあって2人の子供は幼い頃からホッケーに親しんできた。大学を卒業し、測量技師の研修生として社会人の一歩を踏み出したばかりのトムさんは、火曜日と木曜日にはチグウェルという町で「Old Loughtonians hockey club(オールドロートニアンズ・ホッケークラブ)」というチームに参加し、練習に励んでいたという。

人生これからというその時、トムさんに悲劇が襲った。昨年12月、いつものようにホッケーの練習に出ていたトムさんはホッケーのスティックで後頭部を強打される事故に遭ってしまう。連絡を受けた母のリサさんは、夫のグレアムさんと練習場へ向かった。

トムさんは脳内出血が激しく意識不明に陥っていた。練習場には警察や救急車、ヘリコプターが来ており、リサさんは恐怖におののいたという。搬送先の病院でMRI検査の結果、医師から「出血がひどく手の施しようがない」と宣告されリサさんとグレアムさんは絶望の底に突き落とされた。

長女のピッパさんもバーミンガムの大学から急きょ病院へ駆けつけ、意識不明のトムさんが横たわるベッドの側で家族は祈り続けた。そんな時、グレアムさんが「臓器移植」のことを口にした。

病院のドナー専門家に調べてもらったところ、トムさんはノッティンガム・トレント大学在籍中にドナー登録をしていたことが明らかになった。ピッパさんは最初、最愛の兄の臓器提供に抵抗を感じたが、それがトムさんの願いでもあったのならと最終的に家族全員が同意した。

トムさんは、脳に相当なダメージがあったものの練習場でのCPR(心肺蘇生法)により、酸素は全身に行き渡っていたため臓器は完璧に機能していた。家族から同意を得た病院側は、トムさんの脳死を2回に渡り確認すると臓器摘出の手術を行った。

トムさんの葬儀は昨年12月21日に行われ、650人もの参列者があったという。最愛の家族を失ったウィルソンさん一家だったが、その悲しみが癒える暇もなく今度はグレアムさんが1月19日に病に倒れた。

ラムフォードのクィーンズ病院に入院したグレアムさんはその後の検査で脳腫瘍と診断され、化学療法を受けたものの敗血症に感染し、2月20日に帰らぬ人となってしまったのだ。

短い期間に家族を2人も亡くしてしまったリサさんとピッパさんの悲しみはいかほどか。しかし、「私はトムとピッパの母親だ」という意識を強く持ちどんな時でも気丈に振る舞って来たリサさんは、このほど愛息の臓器が約50人の命を救ったことを誇りに思うと英メディア『Mail Online』に語っている。

「病院から聞いた話」というリサさんによると、トムさんの心臓は60歳の男性へ、肺は21歳の女性に移植された。また、トムさんの肝臓は命の危機に晒されていた2歳の幼児を救ったという。その他、トムさんの腎臓、膵臓などの主要臓器、足の長骨、皮膚、心臓弁や組織などが、多くの人に移植され彼らの命を救ったそうだ。

今年は、家族2人だけのクリスマスを静かに迎えるとリサさんは話す。しかしトムさんの臓器が多くの人の命を救ったという事実は、残された家族にとって誇れることに違いない。

出典:http://www.dailymail.co.uk
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)