役者を天職にするために――廣瀬智紀「一段一段、階段を上がってきた」
公式サイトの役柄の紹介文では計3か所にわたって「超がつくほどのお人好し」とある。“丸井くん”と自然と“くん”を付けて呼びたくなってしまうこの役柄を、廣瀬智紀は、2015年公開の映画『羊をかぞえる。』に続き、『天秤をゆらす。』でも演じているのだが、「意外と、普段の僕の素のままで演じてます」と笑う。いやいや、ホントに? と突っ込みたくなるが、話を聞いていくうちに、どこか納得させられてしまう、まさに丸井くん的な不思議な魅力がこの男には確かにある。2.5次元から映像作品まで、引っ張りだこの29歳の思いもよらない過去、そして素顔に迫る!

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



「周りに大丈夫? って心配されます(笑)」



――本作は、染谷俊之さんと赤澤 燈さんを主演に製作された映画『カニを喰べる。』、『羊をかぞえる。』に続くシリーズ第3弾にして、前作から登場した、廣瀬さん演じる丸井くんを主人公にしたスピンオフ作品です。



田宮 治(染谷)と青島豪志(赤澤)のふたりを中心に展開していて、前作もあくまでも、ふたりが丸井くんに出会った回という感じで、僕としてはゲストの感覚だったんです。だから、第3弾にキャスティングされるってこと自体、びっくりしました。

――田宮と青島は出てきますが、今回、主人公はあくまでも丸井くんです!

さらにびっくりですよ(笑)。ただ、自分の中でもこの丸井くんというキャラクターは、すごく面白かったので、正直、1回だけで終わるにはもったいないなという気持ちはありました。だから、すごくうれしかったです。




――染谷さんと赤澤さんは、常々、田宮と青島の性格や関係性について「演じているというより、素のままでやってる」とおっしゃってます。ふたりと比べて、丸井くんは、明るく、お人好しで天然ボケのところもあり、なかなか日常で見ない個性的なキャラクターのように思いますが…。

でも僕も、案外、ふたりと同じ感じです。意外と、素のままの自分で現場にいたし、すごくやりやすいんです。

――あの丸井くんが廣瀬さんの素!? あまりイメージできませんが…。

意外と…なのかな? 結構、抜けてたりして、周りによく心配されやすいんです。「この人、大丈夫?」って(笑)。演じてて、丸井くんの思考や行動に対して、違和感がないんです。「丸井くんは、こういうとき、どうするのかな?」って考える必要がほとんどなくて、「うん、丸井くんはこうだよね」ってすんなり演じられるんです。

――染谷さん、赤澤さんとの関係性も、映画の中の3人と似ていますか?

近いものはあると思います。まず、染谷くんと赤澤くんは、お互いにこの世界に入ってすぐに知り合って以来の仲だそうで、とにかく仲がいいんです。僕は、染谷くんとは何度も共演してますが、赤澤くんとは前作が初共演。あのふたりの中にスーッと入って、仲良くなって…という感じはありました。

――カメラが回ってないときは、3人でどんな話を? そこも映画の中の3人と同じように騒がしいんですか?

そこは、そんなにワイワイガヤガヤって感じではなく、落ち着いてるかな…? 静かな空気の中で、面白いことを言う感じというか。うまく言えないんですけど、笑いのポイントが似てるんです。くだらない笑いが好きなんです、3人とも。淡々と、くだらないことを言う感じで(笑)。居心地はすごくいいです。




落とし穴に落ちる快感! 「声を出して笑いそうに…」



――今回、3人は温泉に向かう中で、事件に巻き込まれるわけですが、撮影は全編、長野でのロケだったそうですね。

自然の中での撮影がすごく気持ちよかったし、できあがった作品を見ても、あの環境がすごく活かされてて、すごくキレイな映像に仕上がっててよかったです。苦労もありましたけど…。

――どんな苦労が?

きちんと整備された山道ではなくて、そこから少しそれた、茂みだったり、木の枝が散乱しているようなところでの撮影だったんです。ちょうど初夏の頃で、気温が上がり始めて虫も出てくる時期で…。あと、白樺アレルギーなのか、目や鼻がすごくかゆくなりました(苦笑)。

――もともと、花粉症なんですか?

鼻炎持ちで、ホコリとかにも弱いんです。ただ、最近になって「これはもしかしたら、花粉症なのか…?」と思い始めてて…。花粉症って、いままでそうじゃなかった人もいきなりなるって聞いて、戦々恐々としてます(苦笑)。




――丸井くんが落とし穴に落ちるシーンがありますが、CGでも代役でもなく、廣瀬さんご自身が本当に落ちてるんですよね?

落ちてます(笑)。現場に行ったら、すでにスタッフさんが掘ってくださった穴があって「ここに落ちますので」って(笑)。結構な深さなんです!

――俳優の仕事でも、落とし穴に落ちるってめったにない経験ですね。

すごく貴重です。しかも2回も! 喜びを噛みしめながら落ちました(笑)。

――人を疑うことを知らない丸井くんらしさが存分に出ているような、見事な落ちっぷりでした!

やってみると結構、怖いんです(苦笑)。芝居としてはもちろん、そこに穴があることは知らないことになってるので、下も見ないですし。しかも、普通に歩いてて落ちるんじゃなく、1度目はスキップ、2度目は走りながらだったので…(笑)。ロシアンルーレットみたいな感じで「そろそろかな?」と思いつつ、「キタ!」と思ったら落ちてる(笑)。

――落とし穴って、単純だけど面白いなぁと改めて思いました(笑)。

そうなんです! 僕も、他のキャストの方が落ちるのを横で見てて、本番中でカメラが回ってるのに、声出して笑いそうになりましたもん。




――ストーリーに関しては、どのような印象を持たれましたか?

シリーズを通じて変わってきた部分も感じます。最初はタイトル通り、カニを食べに行くっていうロードムービーで、その中でいろんな出会いやファンタジー要素も入ってきて、楽しくほんわかした中にホロリとするような話もあって…。それが今回は、結構、ぶっ飛んだ要素も入ってくる(笑)。

――死体に銃、札束、殺し屋、熊…と非日常的な危険なものがいっぱい出てきますが、あいかわらずのゆる〜い雰囲気で、危機感をまったく抱かせません(笑)。

そこは、あいかわらずなんですけど(笑)、キャラクターの深みはどんどん増していて、すごく面白かったです。あえて、丸井くんのバックボーンを作りこまずに臨んでいたんですが、こんなことがあったんだ! と驚くようなことがあり。

――主役ということもあって、丸井くんのいろんな面が見えてきます。

お人好しで、いろんなことに頭を突っ込んで、アホだなぁってところもあるんだけど、意外と博識で、星についてすごく詳しかったり。もしかして、丸井くんはすごく勉強のできる子だったのかなって。まあ、もともと銀行員って設定ですから。