深海の資源を探れ!日本が世界に誇る調査船「白嶺」は最新テクノロジーの塊だった

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『白嶺』に注がれた先進テクノロジーの数々

日本の排他的経済水域内、その深海には多くの資源があることが分かってきました。関連するニュースが世間をにぎわせることがありますね。

皆さんは、この資源探査のために活躍している船があることをご存じでしょうか?それは海洋資源調査船の『白嶺(はくれい)』です。JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が保有しています。白嶺は海洋資源調査船としては三代目(初代は白嶺丸、二代目は第2白嶺丸)で、2012年から運用が開始されました。この船はまさに海洋国家・日本の誇る新鋭船で、数々の先端テクノロジーが投入されています。

白嶺は約6,200トンとかなり大型で、これは先代船『第2白嶺丸』(1980年-2012年)と比較して約3倍。この大型化には、大型の調査装置を多数搭載するスペースを確保するという狙いがありました。またIT関連機器の進化などにより、多くの電力供給が求められ、そのための発電・変電設備を搭載する必要もあったのです。

電気推進にはワケがある!


▲『白嶺』に搭載されたエンジン。電力は船尾のアジマス推進器(後述)に供給されます。

普通の船はエンジンからシャフトが伸びていて、動力をこのシャフトで伝え、先に付いているスクリューを回します。これが船の推進力になるわけです。しかし、白嶺の場合には、まずエンジンで発電を行い、その電力で発動機(モーター)を動かしてスクリューを回転させるのです。これを「ディーゼル・エレクトリック方式」といいます。

白嶺がこの推進方式をとっているのは、まず静粛性を確保するためです。海底探査のために超音波を使用したりしますから、雑音をできるだけ排除しなければなりません。ハイブリッドカーでもそうですが、電気モーターの駆動音は静かですね。白嶺ではさらに大型回転機等の音源に防振対策を施し、高い静粛性を確保しています。

また、電気駆動には「ゆっくり進むことができる」「推進力を変化させるのが簡単」という特徴があります。通常の船では推進速度を自在に変えるというのは非常に難しいことです。エンジンの出力を抑えるなど機械的な工夫を施さなければなりません。

しかし、電気モーターであれば電力の周波数等のコントロールにより推進力を変更できます。海底探査では、観測機器を曳航(えいこう:引っ張ること)するなどのため、調査海域をゆっくり進むことができないとなりません。そのため白嶺は最適な電気推進を選択しているというわけです。

機動性を高めるための推進器 なんと横に動ける!

白嶺の推進器は特殊な形をしています。これは「アジマス推進器」と呼ばれ、360度回転させることが可能です。

▲船尾のアジマス推進器。360度旋回することが可能で、船首のバウスラスターと共に使用することで通常の船にはできない動きが可能になります。

また船首(バウ)には「バウスラスター」という特殊な推進器があります。トンネル型2基と昇降旋回型1基の計3基です。

▲『白嶺』を船底側から見たところ。船首側にはバウスタスターがあり、底にはムーンプール(後述)の開閉扉があります。

トンネル型では、船首部分に船体の左右に通じるトンネルを設け、そこにスクリューが配されています。昇降旋回型では、必要なときに船体からスクリューが海中に出され、それを回転させて推進力とします。しかも360度旋回可能なので、どの方向にも向けることができます。

これらの推進器を備えた白嶺は高い機動性を持っています。通常の船では、船尾の舵を操作することで船の針路をコントロールしますが、海流が強かったりすると舵の利きが悪くなり、またゆっくりとしか方向転換ができません。

白嶺では推進器を一斉に横に向けるなどの操作ができるので、通常の船ではあり得ない「真横に動く」といった操船が可能なのです。深海探査を緻密に行うためには、探査ポイントに正確に移動しなければなりません。白嶺は「もうちょっと右!」といった指示にも対応できる驚くべき船なのです。

洋上で自動静止できる能力がある!

「ここを探査しよう!」なんて決定をしても現場は海。風や波、また海流などの影響で船が流されてしまえば探査はうまくいきません。探査したい場所にとどまる力が必要になります。そのため白嶺にはDPS(Dynamic Positioning Systemの略で自動舶位保持装置と訳されます)を装備しています。

これは、自船の位置を高度なGPSで測位し、自動で推進器を動作させて指定したポイントにとどまれるようにする装置です。もちろん洋上ですのでピッタリその位置というわけにはいきませんが、それでも誤差数メートルほどでとどまる力があります。探査に絶対必要なこの能力は、上記の推進器を自在に動かすことによって確保されているのです。

また深海探査の場合には、海中に下ろされた調査装置の上下動をも抑えなければならない場面があります。波や海流によって上下の揺れが生じるのですが、白嶺に搭載されたケーブルウインチには、これを抑え込むための機能もあります。台風などのあまりに大きな揺れ(うねり)には対応できませんが、約2m程度の上下動であればウインチによるコントロールができるのです。


▲洋上で静止できる能力があるため、『白嶺』はこのようなポインティングデバイスで操縦することもできるのです。

船体の中央にある調査用の穴


▲ムーンプールを上甲板側から見たところ。船底側の扉を開ければ、ここから海底に調査機器を投入できます。ちなみに上甲板が木になっているのは滑りにくくするためです。

白嶺の外見上の大きな特徴は、船体の中央部分に「ムーンプール」と呼ばれる穴があることです(上甲板側のハッチが閉じられているときは見えません)。これは上甲板から船底までを貫く7.5m×7.5mの穴で、ここから大型調査機器を海中に投入します。

なぜ船体の中央部分に設けられているかというと、揺れの影響を極力抑えるためです。船の中央部分は、船首・船尾と比べてさほど揺れません。この配置のため、白嶺ではより過酷な環境下でも調査を行うことができるのです。ちなみに船底側には観音開きのハッチがあって、航走しているときは閉じています。

海底をボーリングできる!

白嶺は船上設置型と海底着座型のボーリングマシンを同時に搭載した世界初の船でもあります。白嶺に与えられた大きな課題の一つは「サンプルを採取してくること」です。そのため、海底の表面だけではなく、海底の下、その地中を掘ってサンプルを回収する能力が備わっているのです。

船上設置型ボーリングでは、掘削用のドリルを約10mのパイプを連結しながら海底にまで送り込みます。サンプルはパイプ内部を通じて船上に上がってきます。

海底着座型ボーリングでは、海底着座型掘削装置(BMS)を海底にまで送り込み、このBMSが海底をドリルで堀ってサンプルを採ります。BMSを海中から引き上げてサンプルを回収します。

今回お話を伺ったJOGMECの金属資源技術部長の塩川智さんによると「例えば1,600mまでパイプを下ろすだけでも約12時間もかかります」とのこと。ケーブルであっても5,000m〜6,000mといった深さになると、着底するまでボーリングマシンを下ろすだけでも想像を絶するような手間になるのです。

鉱石サンプルをぐわっとつかむパワーグラブがある!


▲六本爪のパワーグラブ。海底からサンプルをつかんで海上に持ち上げます。


ボーリングマシンはドリルで掘削する装置ですが、海底のサンプルをまるで手でつかむように採取する「パワーグラブ」という装置もあります。その名のとおり6本の爪を持つ「6本爪形」と、土砂採取船と同様な形状の「シェル型」の二種類の装置を搭載しています。6本爪形では採取できるサンプル容量は1立方メートル、シェル型では2立方メートルになります。

こちらはシェル型グラブです。

『白嶺』に搭載された調査機器の数々

白嶺には各種調査を行うために以下のような機器が搭載されているのです。

●音響調査用
マルチナロービーム音響測深機:MBES
ナロービーム表層断面探査機:n-SBP
サイドスキャンソナー:SSS

●物理探査
船上重力計
船上3成分磁力計
2D反射法地震探査装置

●海底観察
ファインダー付き深海カメラ:FDC
遠隔操作無人探査機:ROV
据置型深海探査機「江戸っ子」

●サンプリング
船上設置型ボーリングマシン:海底下400m
海底着座型ボーリングマシン:海底下20m/50m
ファインダー付きパワーグラブ:FPG
各種ドレッジ
有索自航式深海底サンプル採取システム:NSS
大口径コアラー:LC(5m)
マルチプルコアラー:MC
ロゼッタ式採水器

●その他
電気伝導度、温度、水深測定装置:CTD
流向流速計(船体付、曳航式)
採掘要素技術試験機


このような技術をつぎ込み、各種の調査機器を搭載、深海の資源調査に特化した白嶺は、世界でも類まれな存在です。

その能力の高さゆえに、白嶺は大車輪の活躍を続けています。JOGMECによれば、年間に1航海30日ほどの調査を10回、つまり300日は調査のために洋上にあるとのこと。資源が乏しいといわれてきた日本ですが、白嶺の調査によって日本の排他的経済水域内の深海には手つかずの莫大な資源が眠っていることが分かってきました。今日も白嶺は日本の未来のために活動を続けています!

取材協力:JOGMEC
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