静かにはじまり、静かに終わっていった。いや、終わっていない。登場人物が少し前を向き、人生を歩み続けていく。「プリンセスメゾン」最終回はそんな物語だった。


大切な人との別れの予感


居酒屋「じんちゃん」を訪れる伊達さん(高橋一生)。飲みに来てくれたと喜ぶ沼ちゃん(森川葵)に、彼らの担当するマンションが完売間近であり、マンションギャラリーも閉めることになると伝える。いつの間にかそこで働く全員と仲良くなっていた沼ちゃんは「一人でも家探しできます」と気丈に答えるが、マンションギャラリーに足が向かなくなっていく。
そんなとき、近所のマンションを購入し越してきた主婦と出会う沼ちゃん。憧れのマンション購入を果たしている彼女は、幸せそうに見えなかったーー。

それぞれのこれから


第6話で、いとこのえっちゃん(深川麻衣)が話す「手に入れてからが、勝負だね」という言葉。それを自分に言い聞かせるように、妊婦に話す沼ちゃん。
そう、この物語は、マンションを購入することがゴールではない。

それは、他の登場人物にとっても同じだ。人生にゴールなどない。最後の瞬間まで生きるだけだ。やがてゴミになるとわかっていても、つくらずにいられない大家さんこと藤堂紅(渡辺美佐子)のように(いや、じつはゴミどころか皆がほしがる作品なのだが)。だからこそ、ドラマの制作陣は彼らをちゃんと一歩ずつ前へ進める最終回を用意した。

伊達さんはじつは合併された町の出身であることが明かされる。だから街づくりをしたくてディベロッパーに入社したのだった。「私なりのベストを尽くすことにしました」と、3年間の営業生活を終えて開発部に異動することを決めたと、沼ちゃんに報告する。
ドラマの前半、あれだけ無表情だった伊達さんは、奥田(志尊淳)に笑顔で感謝の言葉を向けるまでになった。そして何かと衝突していた要さん(陽月華)に正社員をめざしてほしいことを短い言葉で伝える。

伊達さんと要さんのやりとりはこのドラマの魅力の一つだったが、このときの二人もいい。思いがけない提案にきちんとお辞儀する要さん、それに姿勢を正して答える伊達さん。そのほんのちいさな動きが、お互いへの信頼を表している。
そして奥田とマリエ(舞羽美海)はつきあいはじめていた。
そのことを知った伊達さんが「いつからあの二人はそんな関係に」と気にしていたが、私からお答えしたい。第6話、二人はじんちゃんを訪れ、奥田が「ええ部屋やないですか」とマリエの部屋を知っているふうな口調で話していたのだ。たぶんあれがつきあいはじめた時期です、伊達さん。

さいごに、伊達さんは沼ちゃんに言う。「沼越さまが新しいお家で末長く暮らしてくださることが、私の最高の喜びでございます」。こんなにも穏やかな、そしてひそかに情熱的な告白があるだろうか。
二人の関係はこの先も、変わらないかもしれない。けれど互いに、相手のことをこれ以上なく思っている……。
沼ちゃんが「幸」という名前のほうの実印をつくったのもよかった。一人で暮らしてきた彼女だけれども、この先どうなるかは、誰にもわからないのだ。

つづいていく彼らと私たちの物語


沼ちゃんという、家族をなくしひとりで東京での居場所を探し続けていた26歳の女性。このドラマは彼女が一歩ずつ進んでいく物語だと思っていた。しかし、最終回は彼女に触発され、周りが前を向くものだった。ドラマをつくる側が一人で生きる女性を心から尊重し、愛していたからこそ、これだけ穏やかでやさしく、静かに明るい物語が生まれたのだ。
要さんと沼ちゃんがイヤホンをひとつずつわけあって聞いたのは、ブルーハーツの「終わらない歌」。終わらない歌を歌いながら、沼ちゃんは、私たちは今日も生きる。
(釣木文恵)

参考→人気爆発高橋一生主演ドラマ原作「プリンセスメゾン」電子書籍配信中