食中毒を恐れて「餅つき」を規制する自治体が続出(shutterstock.com)

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 日本の年末の風物詩といってもいい「餅つき」。杵と臼を使っての「餅つき」は、一般家庭では珍しくなったが、自治会や子ども会のイベントとして未だに人気がある、日本の伝統的な食文化だ。

 しかし、その餅つきを禁止する動きがあると伝える記事が、「日本農業新聞」(10月29日)に掲載され、物議を醸している。「餅をちぎったり丸めたりして人の手に触れる工程が多いため菌やウイルスが付きやすく、集団食中毒が発生する恐れがあるとして、一部の自治体が判断した」というのだ。

 縁日祭礼で民間団体が屋外で餅つきをすることを禁止する基準を設けた都市もあれば、「明文化していないが、集団食中毒発生の恐ろしさを説明し、餅つきをやめるようかなり強く伝えている」という自治体もある。そのような動きは、地域によっては10年以上前からあったという。

一度起きると感染者が多く、被害が甚大に

 餅つきを原因とした、食中毒発生件数の統計はない。

 しかし、厚生労働省による「餅が原因の食中毒(餅つきを含む)」の報告では、2011年が2件、12年が6件、13年が4件(1件が桜餅)、14年が1件(桜餅)、15年が1件。このうち13年の1件は「餅つき会」のイベントが原因と特定されている。

 これが全部ではないとしても、発生件数としてはごくわずかに思える。だが、感染者数で見ると1件で38人、6件で768人など、発生すると規模は大きい。これらの主な原因はノロウイルスだ。

 たとえば、2010年1月に東京都杉並区の幼稚園で行われた餅つきで、園児や家族、職員など136人が胃腸炎を発症。また、昨年12月には八王子市の保育園で41人が下痢や嘔吐の症状を訴えた。

 杉並区のケースでは、幼稚園内のキッチンで蒸された餅米をホールに移し、餅つきは園児の父親や園児、返しは職員や母親などが行っていた。つきあがった餅は別室でちぎられバット上で調味し、各家庭が持参した食器で提供された。

 餅つきの全工程は素手で行われており、作業前やトイレ後の手洗いは徹底されていなかった。返しの水は交換されていたが容器の洗浄はなく、他の器具類も途中段階で十分な洗浄、消毒をせずに使用されていた。

 このことから、最初の時点で臼や杵、返しの水が何らかの原因でノロウイルスに汚染され、それらを介して餅を汚染し続けたと考えられている(東京都福祉保健局HPより)。
ウイルス性の「食中毒」は冬場に発生しやすい

 食中毒といえば高温多湿な季節に多いイメージがあるが、実は厚生労働省の統計によると、発生件数は1年のうち1月が断トツに多い。

 食中毒にはさまざまな原因があるが、多くは「細菌性」か「ウイルス性」になる。細菌は高温多湿な環境を好むため、細菌性の食中毒は梅雨や夏の時期に多く発生する。

 一方、低温や乾燥した場所で長く生きることができるウイルスは冬を好むため、ウイルス性食中毒は冬場に発生しやすい。中でもノロウイルスは感染力が非常に強く、感染規模が拡大することも多いため、発生件数も飛び抜けて多い。

 ノロウイルスによる食中毒は、年間の食中毒患者数の半分以上を占めている。

 とりわけ今年の冬は、ノロウイルスを含めた「感染性胃腸炎」の流行が早いようだ。患者は例年、12月以降に増え始めるのだが、今年は11月半ばから急増。厚生労働省は11月の時点で、自治体に対して予防の徹底を呼び掛けている。

しっかりした衛生管理で食中毒は防げる

 楽しいはずのイベントで事故を起こしては、行事そのものが中止に追い込まれかねない。参加者には重症化しやすい子どもやお年寄りも多いため、行政や各団体が慎重になるのも理解できる。

 しかし市民からは、餅つき規制の動きに対して「衛生上、仕方がないのでは」という意見の一方で、「行事がなくなるのは寂しい」「対策をきちんとすれば問題ないのに規制するのは行きすぎだ」という声も数多く上がっている。

 では、どのような対策が効果的なのか?

 餅つきで集団食中毒のリスクを上げるのは「作業人数が多いこと」「手で触れる機会が多いこと」などだ。食品衛生の専門家は、調理器具の洗浄消毒や手洗いの徹底などに加えて次のような対策を呼びかけている。

●作業に関わる人は限定し、一般参加者は餅に触らせない
●数週間前から当日に風邪や食中毒様症状があった人は、作業に加わらない
●ついた餅は、汁粉や雑煮など、再度加熱して提供する
●子どもに体験させるなら、餅は飾り用にして、食用と分ける

 事故を恐れる過ぎるあまり、伝統行事をなくしてしまうのは悲しいことだ。子どもの健康を守ることと、貴重な行事体験をさせることは、どちらも大切ではないだろうか。

 運営者が集団食中毒のリスクをしっかり認識し、衛生管理の基本を守った対策を行うことで、できるだけ多くの餅つきが継承されていくことを願いたい。
(文=編集部)