デザイン研究所所長 杉浦博明氏

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■CASE1●三菱電機
課題)まったく新しい製品を生み出すには?

新しい製品を生み出すことは、多くの企業が直面している課題だ。特に伝統的な大企業の製品開発部門では過去の成功体験を繰り返しがちになる。

「イノベーションはまったく違う文化が出合うことで生まれやすくなる。そう考え、私たちとは正反対の文化を持ったIDEOと一緒にやろうと提案したのです」

そう語るのは三菱電機デザイン研究所所長の杉浦博明氏。杉浦氏は実際に米国カリフォルニアのIDEO本社を訪れている。人が交ざり合うフラットな組織構成、至るところで交わされる闊達なディスカッション……、「新しい発想が生まれる環境とはこういうものか」と体感したという。

同研究所では、「未来のスマートホームリビングを考える」というテーマに、14年からIDEOとともに取り組む。「スマートホーム」とは、省エネを行いつつ、より快適な住まいを実現しようとすることを言う。3つのサービスのアイデアが生まれ、その開発に着手しているところだ。IDEOから得た視点がアイデアのもとになったという。

「IDEOはまったく関係ないものを観察し、商品開発に生かしている。私たちも家電製品をつくるために、家電製品を観察することをいったんやめました。今回、私たちがスマートホームの製作で注目したのは、『茶道』でした」

しかし、なぜ茶道なのだろうか。「お茶の世界も、道具の佇まいや所作に美しさがあり、無駄がありません。使い手に良質な体験を提供するという意味では、家電に生かせる部分もあるはずです」

■CASE2●資生堂
課題)アイデアを量産する組織に変えるには?

「コンセプトづくりから協力できるパートナーを探していたんです」

そう語るのは資生堂の漆畑好美氏。漆畑氏は、最初に資生堂とIDEOを引き合わせた人物だ。当時、リサーチ手法などを提供する部署にいた。

11年、東京オフィスの設立と同時に、一緒にブランディングやコンセプト開発をしないかと社内に提案したが反応は芳しくなかった。

そこで、漆畑氏はIDEOとの2日間の社内研修を取り入れた。

その反響から、IDEOの存在は社内で徐々に知れ渡るようになる。14年には、同社の中西裕子氏がIDEOとの協働をスタートさせる。

「それまでの技術ありきで何ができるのかを探っていく方法に限界を感じていました」(中西氏)

中西氏が最も刺激を受けたのは、IDEOの「問いの変換」という考え方だ。たとえば、化粧品開発であれば「どうしたらシワが消えるのか」とはじめてしまいがちだが、その「問いかけ」自体が正しくない場合もある。「より本質的に人間が満たしたい感情は何か」という問いに変換すると、新しい発想が広がりやすい。

「お客様に体験いただきたいことから研究を提案する、というように発想が転換しました。私自身も常に新しく、本質的なことがないかを探っていくようになり、仕事そのものが楽しくなりました」(中西氏)

IDEOとの協業を経た今、前出の漆畑氏はこう考える。

「マネジメント層こそ、IDEOの実践していることを体験して、考えを柔軟にしていく必要がある。担当者が楽しいことをやろうとしても、決裁者の常識的な判断でいいアイデアの芽がつぶれる可能性がある。失敗を恐れず新しいことに挑戦する風土づくりが大切です」

■CASE3●明治
課題)前例のない企画を社内で通すには?

「我々にとって大きな刺激となりました」

IDEOとのプロジェクトについて明治の宇都宮洋之氏は話す。同社の佐藤政宏氏も「今まではコンセプト自体が曖昧だった」と言葉を重ねる。

14年秋、明治は「ザ・チョコレート」という高級嗜好の板チョコを発売したが、期待していたほどの市場からの反応はなかった。それから半年後、IDEOの門戸を叩く。

「高級嗜好のチョコレートを日本で定着させるためにはどうすればいいかをIDEOとディスカッションしました。今までは、新商品を出し続けることがお客様の関心を引く手段になっていた。それでは限界がある。『モノ』から『コト』に軸足を変える必要性に気づかされたのです」

そう語るのは同社の山下舞子氏。ビジョンを再設定することから、「ザ・チョコレート」のリニューアルプロジェクトははじまった。

「この商品を起点として、日本のチョコレート文化を進化させていきたいと思った。もっと言えば、チョコレートが人の癒やしや健康、喜びとなるものにしたかった。会社だから売り上げ目標は達成するにしても、その先の将来を考えていくことができました」(宇都宮氏)

これまでは情報発信の仕方も上手くいってなかったという。

「パッケージ一つとっても、商品の魅力をすべて伝えようと、情報量を詰め込みすぎていました」(山下氏)

ビジョンや情報発信など多くの気づきを得た。しかし得たものは、それだけではない。

「パッケージリニューアルに難色を示す役員に、『あなたはターゲットではありませんから』と佐藤が言ったときはびっくりしました(笑)」(宇都宮氏)

「企画を社内で通すために、市場や顧客の価値観の変化を示す資料をつくりました。そこに客観的なデータを盛り込むとしても、これまでは消費者調査が精いっぱい。しかし今回は、IDEOと一緒にサンフランシスコのチョコレート市場を見にいったり、カカオやチョコレートのエキスパートに意見を聞きにいったりして、そこで拾った声やデータを資料に盛り込みました」(佐藤氏)

(玉田光史郎=構成 河西 遼=撮影)