By Charis Tsevis

もしひょんな事から一生働かなくても十分なほどの巨額の富を手にした場合、「一生働かずに暮らす」という想像をする人は少なくないはず。シリコンバレーでは成功したスタートアップに勤めていたことから、持っていた株式が巨額の現金となって舞い込んだという実話が多く存在しますが、実際に一夜にして億万長者になった人は最終的に仕事を続けてしまう、という心理についてBBCが解説しています。

BBC - Capital - If you get rich, you won’t quit working for long

http://www.bbc.com/capital/story/20161208-if-you-get-rich-you-wont-quit-working-for-long

シリコン・バレーで起業家として勤めるキースさん(名字非公開)は、昔働いていたIT企業が株式公開を行ったことで、数千万ドル(数十億円)という配分を得ることになり、一夜にして億万長者となった経験を持っています。人生を変えるほどの富を手にしたキースさんは「もう一生働く必要はない」と確信し、しばらくしてから会社を退職しました。キースさんは各地を旅行しながら1年ほどを過ごしたのち、キースさんいわく「くだらないもの」にお金を費やしたそうですが、「このまま人生を楽しむのは難しい」と気付いたそうです。そうしてキースさんは一生分の貯金を持ちながらも再就職を行い、現在は起業家としてバリバリ現役で働いているわけです。

キースさんは当時について「私は組織から外れたことで、自分の人生の目的がなんだったのかわからなくなり、不幸だと感じました」と話しています。日が経つにつれて自分のスキルが低下していき、知人と知的な会話をするのが困難になっていると感じていたとのこと。Amazonのジェフ・ベゾス氏やFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏など、世界のトップに立ってなお現役から退かずに働く億万長者の経営者も存在しますが、自分で会社を経営していなくても、キースさんのように仕事に戻る人は多いことがわかっています。

その理由については、以下の3つのことが考えられます。

◆「仕事の満足度」は非金銭的な理由で向上する



By tec_estromberg

「お金」と「仕事の満足度」の関係性は非常に弱いということが、フロリダ大学ビジネス・スクールのティモシー・ジャッジ教授のメタ分析による研究で明らかにされています。「お金」と「仕事の満足度」という2つの要因にはわずか2%の重複しか認められず、長期的な仕事の満足度は「肯定的な仲間関係」「意義あるプロジェクトに取り組む能力」「リーダーシップを発揮する機会」など、貨幣以外のリソースから生み出されることがわかっているとのこと。

「このような傾向はキースさんのような極端な経済状況に直面するまで気付くことが難しいのです」と、世界中にクライアントを持つWealth Legacy Groupの創業者で、セラピストでもあるJamie Traeger-Muney博士は語ります。Muney氏いわく、働かなくとも経済的に十分な余裕があるMuney氏の患者の98%は、何らかの形で仕事を続けているそうです。

◆社会的身分の喪失



By Aran Burton

コペンハーゲン・ビジネス・スクールのブルック・ハリントン教授は「働くお金持ち」について、「とても大きな仕事を成し遂げて富を築き、何もせずに時間がたってから『何の仕事をしていますか?』と聞かれた時に、答えられない状況を想像してみてください」と話しており、「社会的身分がなくなること」も仕事を続けるひとつの理由になると述べています。仕事や業績はアイデンティティーにも強く結びつくため、ステータスを失うと自分がどんな立場にいるのか正確に把握するのが難しくなるというわけです。

◆予期せぬ喪失感



By Max Boschini

Muney博士によると、突然の富を得ることによるネガティブな影響があるとのこと。巨額の富とともに仕事をやめると、余暇の増加が幸福や満足感をもたらさないだけでなく、数カ月以内にうつ病になる可能性があるそうです。Muney博士は「彼らは予想もしていなかった喪失感に襲われるのです」と話しており、このような悪影響は特に若い人ほど現われやすく、喪失感に襲われた場合は人生の目標を再評価する必要があるとのこと。

キースさんの場合、仕事に戻ることで人生の目的を再び得ることができたわけですが、同じように突然裕福になった人は、最初の成功を収めた時と同じような、やりがいを感じる社会的目標を見つけるまでに1年を要するとのこと。キースさんは「仕事をしていると、そこにはミーティングがあり、プレゼンがあり、締め切りがあり、業績評価や同僚とのおしゃべりがあります。あなたがやりたくないタスクばかりに見えますが、それは自分のために乗り越えるべき壁なのです」と話しています。