「Thinkstock」より

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 日本では、最良の体の栄養指標である血清アルブミンと健康変数との関係に着目した、幅広いライフステージの疫学研究が極めて少ない。この領域の実践的な研究者が少ないことに加え、医学教育において栄養が健康の総合的な規定要因であることを過小評価している素地が、少なからずあるためである。医療の専門家の多くが、血清アルブミンを治療中の病気が栄養状態の低下につながっていないかチェックする項目として扱っているのは、その典型である。いわば病気の“結果”として体の栄養指標をみているわけである。

 ミドルエイジ以降は軽微なたんぱく質栄養の低下でも(血清アルブミンのわずかな低下)、健康リスクがかなり高まることに注意を払わなければならない。そして、一生涯にわたって健康リスクを回避するためには、たんぱく質栄養を相当程度に良好にしておく必要のあることは本連載前回記事で詳しく解説した。

 今回は、これまで医療現場や健康づくり活動で見過ごされてきた、たんぱく質栄養がわずかに低く、老化による心身の虚弱化(要介護化)が早く進むタイプの人口割合に着目する。健康リスクが高いこの“隠れ虚弱者”の最近の出現トレンドを正視し、今起きている健康問題の深刻さを再認識したい。

 血液中で循環するたんぱく質は数多くあるが、その60%程度を占める血清アルブミンは臨床医学の基準では正常域とされていても、わずかに低下するだけで健康リスクはかなり高まる。この正常低値(ローノーマル)の域帯(レンジ)は3.8〜4.2(4.3)g/dLである。ちなみに、筆者はこの域帯をノーマルとは認識していない。

 この正常低値の域帯判断は、信頼性が保証された国際レベルの研究論文と筆者らがかかわる研究フィールドのデータを総合評価した結果である。ミドルエイジ以降、健康リスクは総合的に高まるが、シニアエイジでは認知機能障害、がん、循環器疾患、感染症など日本の主な死因のリスクが上昇する。この血清アルブミンレンジに属するたんぱく質栄養が低い集団の割合は、国民健康・栄養調査結果で確認することができる。

●隠れ虚弱者

 2011年と最近公表された14年データで各年齢層の“隠れ虚弱者”割合の数値をグラフ化してみた。まず、11年調査データである。年齢階級の区分は20代から10歳間隔で60代まで区分し、70歳以上は一律に含めている。男性では20〜30代は2%台で気になる数値ではなく、大半は血清アルブミンが4.4g/dL以上のレンジに属している。40代から4.5%、60代は25.6%、70歳以上になると43%に跳ね上がる。

 このような年齢差は女性も同様で、20代は11.1%、30代は17.6%、40代は17%、50代は14.6%、60代は22.7%、70歳以上は41.7%となる。年齢を増すと出現割合が上がるのは、老化による栄養失調の者が増えるためである。数値割合を男女、年齢階級別を絡め総括すると、50代以上では男女とも出現割合はほぼ同じであるが、20代、30代、40代では女性が男性の数倍の割合になっている。出産可能年齢の女性では健康リスクを抱えたたんぱく質栄養が低い“隠れ虚弱者”が、相当程度いることがわかる。当然、出産リスクは高まる。

 次に、この割合を3年後の26年データと比較しトレンドを見てみる。各年齢の隣のグラフ棒が26年データの割合である。男性は20代を除いて増加している。女性は、20代は11.1%から8.2%と減っており状況は良くなっているように見えるが、実際はグラフでは示していない血清アルブミン3.8g/dL未満の極めてたんぱく質栄養が低い者の割合が3倍(3.5%新たに出現)に増えており悪化である。30代以上はすべての年齢層で増加しており、特に40代は16%、50代は10%程度急増している。

 この血清アルブミンがわずかに低くなった“隠れ虚弱者”がミドルとシニアが急増しているのである。これは、血清アルブミンが4.4g/dL以上の健康リスクが回避できている者の割合の減少によるものである。

 からだの虚弱化は老化が顕在化するシニアの健康問題ではない。働き盛りのミドルの健康問題でもある。日本人の虚弱化ははっきりとしてきた。“隠れ虚弱”ミドルの老後が心配だ。
(文=熊谷修/人間総合科学大学教授)