来日したヴィタリー・マンスキー監督

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 北朝鮮によって徹底して演出された「庶民の日常生活」とその裏側を、隠し撮りで明らかにしたドキュメンタリー映画『太陽の下で -真実の北朝鮮-』の公開に先駆け、メガホンを取ったロシアのヴィタリー・マンスキー監督が来日。12日に都内で、映画『かぞくのくに』のヤン・ヨンヒ監督とトークイベントを行ない、マンスキー監督は「公開後、北の政府は、わたしを『人類のクソ』といった最高の罵詈雑言で形容していますが、でもわたしもソ連邦で育った人間ですので、北に暮らす人々に共感や同情、思いを共にしたいという気持ちがあるんです」と本作の真意を語った。

 モスクワ・ドキュメンタリー映画祭の会長も務めるマンスキー監督。北朝鮮政府から2年がかりで撮影許可を取りつけ、平壌で少女ジンミと家族の日常を追うドキュメンタリーを撮るため、北朝鮮に入ったものの、入国後数日で「自分が撮りたいと申請した作品は、絶対に撮れないと実感した」という。「空港でパスポートを取り上げられ、自由な外出はその時点で不可能になりました。自由にできるのは、部屋の明かりをすべて消して、窓の外を行き交う人々を撮ることぐらい」とマンスキー監督。

 さらに撮影に入ると、ジンミの生活、住まいや両親の職業、クラスメイトとの会話など、すべてにシナリオが用意され、北朝鮮側の「監督」が、理想の家族のイメージ作りのために繰り返し演技を要求。業を煮やしたマンスキー監督は、録画スイッチを入れたままのカメラを現場に置いて隠し撮りを敢行し、北朝鮮の検閲を逃れ、フィルムを国外に持ち出して本作を完成させた。

 「ジンミたちの家族3人は、すべて、北の役人に言われた通りに演じています。彼らがこうしたいと願って行動するということも一切ありません」と続けたマンスキー監督は「(北朝鮮がいかに素晴らしい国かを謳った)スローガンを人々が連呼し、行進すればするほど、内実はスローガン通りでないという逆説を撮るしかなかった」と漏らす。さらには、本作が世界で評判になったことを知った北朝鮮政府は「今では、ジンミちゃんを子どもの英雄として称え、彼女と家族を幸せな家族の象徴として宣伝している」そうで、マンスキー監督は「(ジンミちゃんは)とても有名になったそうです」と現在の状況も付け加えた。

 在日コリアン2世で、政治や国家によって家族が引き裂かれるさまを描き続けるヤン監督が「わたしも自分のドキュメンタリー(『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』)で、北朝鮮に入国禁止になったので、マンスキー監督は同志として尊敬している」と笑ったあと、「カメラに映っている人々をバカにするのでなく、カメラのない一人のとき、彼らがどんな思いか想像しながら、本作を観てほしい」と話し、「そしていつか、この体制が変わったとき、ジンミたち家族が本当はどう思っていたのか、バカバカしいと思って演技したのか、必死だったのか、もう一度マンスキー監督に撮ってほしいですね」と水を向けると、マンスキー監督も「そう願って、生きていきましょう」と会場に語りかけていた。(取材/岸田智)

映画『太陽の下で -真実の北朝鮮-』は2017年1月21日よりシネマート新宿ほか全国公開