レーガン氏とは素養もリーダーシップもまったく異なる AP/AFLO

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 世界が注視した米大統領選は、大方の予想に反してドナルド・トランプ氏が勝利した。過激な発言を繰り返すトランプ氏が大統領になることで、世界はどう動くのか? ジャーナリストの落合信彦氏が解説する。

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 大統領選の結果に対し、早くもヒラリー・クリントン支持派が大規模なデモを行って抗議しているが、アメリカの国内的課題を考えても「トランプ大統領」があの国をボロボロにしていくことは目に見えている。

 一番大きな問題は「借金」だ。アメリカの債務は公式なものだけで約23兆ドルに達し、医療保険制度をはじめ社会保障などに今後かかる債務を含めると200兆ドルにのぼるという指摘もある。トランプはそこに加えて、大幅な減税と財政支出拡大を約束している。もしそれを実行に移せば、借金はどんどん膨らんでいくことになる。ひとたび弾ければ、アメリカ発の世界金融恐慌を招きかねない危うさだ。

「格差」も深刻である。トランプは貧困層の白人にアピールして勝利したが、その「格差を生み出した諸悪の根源」と位置づけてきた移民たちは、簡単に追い出すことができるものではない。

 当選後のインタビューでは「犯罪歴のある不法移民など200万〜300万人を炙り出して強制送還する」と発言していたが、現実にそんなことをしようとすれば莫大なカネがかかるだろう。トランプはそんな簡単なことにすら気付いていない。

 長い目で見て怖いのは、「軍」とトランプの関係だ。トランプは軍歴もなければ、軍事的な知識も安全保障に関する見識もない。それにもかかわらず、軍の幹部がトランプ支持を打ち出していたのはなぜだろうか。それは、軍についてまったく知らないトランプのほうが扱いやすいからだ。

 歴史を振り返れば、「Military-industrial complex(軍産複合体)」の存在は、アメリカに数々の悲劇を引き起こしてきた。詳しくは拙著『二〇三九年の真実』に記したが、ジョン・F・ケネディの暗殺も軍産複合体が仕組んだものだ。「戦争をすることで儲かる奴ら」が、アメリカに暗い闇をもたらしてきた。ソ連崩壊に伴い軍産複合体は姿を消したが、トランプ大統領の登場により再びその“亡霊”が甦ることも考えられる。

「外交」についても、彼は何の経験も知識もない。トランプの外交無知は選挙期間中に大きな話題となったが、おそらく、多くのアメリカの若者が血を流したベトナムがどこにあるかもわからないのではないか。

 トランプは「中国にアメリカ人の雇用を奪われている」と叫んで、「就任初日に、中国を為替操作国に認定するよう指示する」ことを打ち出している。さらに、45%もの輸入関税を課すと言及している。

「メキシコの資金負担でメキシコ国境に壁を作る」という馬鹿げた公約は実現不可能だろうが、そのメキシコ製品にも35%の輸入関税を課すと言っている。そうやって世界中を敵に回すのがトランプ流の「外交」だというから笑わせる。

 新聞などではプーチンと良好な関係を築いているから米露関係が進展すると言っているが、私はそうは思わない。プーチンがこれまでやったことを見ればわかるが、彼は本質的に戦争したくて仕方がない男なのだ。ロシアが経済的に逼迫している今、プーチンが考えていることは「アメリカとの戦争」による一発逆転である。トランプとプーチンが“手を繋いで仲良し”になるはずがない。

 不思議なのは、世界から孤立していこうとするトランプを、アメリカ国民が「レーガンの再来だ」などと持ち上げていることだ。世界でリーダーシップを発揮したレーガンとトランプは比べるべくもないが、私は、トランプを「レーガンの再来」と勘違いしてしまうことこそがアメリカの劣化の証拠だと考えている。

 強く美しかったケネディの時代のアメリカは、国民もみな素養があり、世界をリードするのはアメリカなのだという自負を持っていた。しかしいまや格差が広がり、麻薬が社会の隅々にまで蔓延し、「アメリカが世界を引っ張っていく」という意識などなくなってしまっている。だから、「自分たちさえよければいい」というトランプに拍手喝采してしまうのだ。

※SAPIO2017年1月号