神谷浩史「青春映画のいちばん大切なことに気づいた」――映画『好きになるその瞬間を。〜告白実行委員会〜』インタビュー
神谷浩史──ご存知、いまの時代を代表する声優のひとりだ。きらびやかなキャリアに裏付けされた実力はもちろんのこと、高い歌唱力や表現力、キレのあるトークで、声優業だけにとどまらずライブにラジオに引っ張りだこ。そんな多忙を極める彼だが、「神谷です、よろしくお願いします」と、その場にいた誰よりも深く丁寧に頭を下げる姿にまずは驚き、作品のシナリオ分析やキャラクターを把握する過程について、じっくりと、楽しそうに語る彼の話に魅了された。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.



前作で気づかされた“青春映画の定義”とは?



──恋愛青春ストーリーを描く『告白実行委員会〜恋愛シリーズ〜』から、劇場版第2作目となった今作『好きになるその瞬間を。』は、シリーズ前作『ずっと前から好きでした。』とパラレルで展開される、瀬戸口 雛(CV:麻倉もも)と榎本虎太郎(CV:花江夏樹)の恋の物語です。今回、神谷さんは前作に続いて雛の兄、瀬戸口 優を演じられましたが、シナリオを読まれてどんな印象をお持ちになりましたか?



いやもう…40歳を過ぎた僕が、高校生の恋愛について語るのもどうかと思うのですが(笑)、初々しいというか…。前作もそうなんですが、この物語自体が特殊なんですよね、すごく。

──特殊というのは?

恋愛しか描いていないんです。たとえば、多くの作品には主軸となる目的があって、その横道として恋愛があったりするんですけど、このお話は恋愛しか描かれていないんです。




──前作もそうでしたね。

ええ。青春映画であることは間違いないのですが、前作に出演させていただいて、「青春映画の定義って、こういうことなんだろうな」って気づいたことがあって…登場人物たちに責任感が一切ないんですよね。無責任でいられるっていうのが、青春映画の…いちばん大切なことなのかもしれないなあって。

──なるほど。

悪い意味に聞こえるかもしれませんが、そうではなくて…すべての時間を自分のために使って、勉強と恋愛に全力で向き合っているのが素敵なんですよね。



──たしかに! そうでした。

雛と優の食卓のシーンで両親が登場しないということからも、青春映画を徹底して貫いていると思います。

──役をつかむのが難しい作品だったのでしょうか?

高校生の役をやらせていただける機会というのは他の作品でもありますが、かならず使命や目的があるんですよね。でもこの作品に関しては、使命を帯びていたり、目的があるわけでもない。そういう役って、どうやってやったらいいんだろうなあ? って思ったときに…。




──先ほどおっしゃった“青春映画の定義”に気がついた?

そうですね。さらに、僕らの仕事って「相手にこういうことが伝わればいいな」と思いながら、「じゃあ、それはどういう気持ちをセリフに乗せていけばいいんだろう」って考えて、音にしていく作業なんです。つまり、自分の気持ちを整理して、点を線にしていく作業が僕らの仕事だと思っていたのですが…どうも、今回そうでもないなと。

──というと?

そのときその瞬間に、自分でもわからない状態で音が出てしまうことが往々にしてあって、それに理由がないんですよね。キャラクター自身には理由があるのかもしれないけれど、それが説明できなかったりする。

──いまの話をお聞きして腑に落ちました。というのも、登場人物たちの奔放さというか、自分の気持ちに一直線なところが、ちょっとわからないなあって思う部分があったので…。

それはある意味、正しいんだと思います。でも、わからないって言ってしまうと否定することになってしまうから、どうにかして理解したいなあって思って。それで、「僕らが理解できないことは、彼らにも理解できていないんだ。若いときって、そういうもんだよな」って、ちょっと納得した部分があったんですよね。年齢が重なってくると、どうしてもそこに理由が欲しくなってくるので。

──そうですね。「高校生のときってこんなふうだったかな…?」と思いながら観ていました。

僕はこんなじゃなかったですけどね(笑)。そう考えると、この作品って“恋愛の教科書”というか、恋に恋する人たちのお話なんだと思います。つまり、本当の恋愛ではないんですよね。だから、「いやいや、そうじゃないじゃん」って…思う人は当然思うだろうし(笑)。



──特に大人たちは(笑)。

おそらく、思うでしょうね。でも、純粋に…まだ恋をしたことがなかったり、いま絶賛恋をしている中高生のみなさんにしてみたら、自分がお手本にしたい恋と、登場人物たちが描く恋の物語が同義になってくるので、それはたまらない作品だと思いますね。

──前作も中高生を中心に大人気で、小学生も観ていたと伺いました。

恋に恋をしている人たちにとって、「あ、恋ってこういうものなんだ」って思えるような物語ですから。まっさらなところに、このお話が入ってきたら、きっとみんな素直に受け取るんだろうし、いまはそれが正しいんだと思うだろうし…これがいつか違うってことに気づいたときが、もしかしたら大人になったときかもしれないですね。



役づくりで重要視するのは、相手役との関係値



──今作では、中学3年生の優も登場します。中学時代を演じる際に、なにか意識されることなどはありますか?

あまり意識していないと思いますね。そもそも僕は、「幼くしよう」と思っていないので。“妹に対する兄”っていう感覚だから、年齢が重なってきたところで、接し方は変わらないじゃないですか。ふたりの歳は離れていかないし、近づいてもこないので。

──キャラクターの年齢によって声を細かく演じ分けていらっしゃるのですか?

“声優あるある”なのかはわかりませんが…若いときに若い役をやると、がんばって若くしようと思ってしまうんですね。で、何年か経って同じ役をやるときも…やっぱり若くしようとするんです。でもそうすると、前にやったときよりも、もっと若くなってしまうんですよ。

──それはなぜなのでしょう?

最初にやったときは自分と役の年齢が近いから、年齢を下げる幅がそこまで大きくないんですよね。だから実は、すごく大人っぽく作っていたりするんです。

──なるほど。

でも、歳が離れてきて、「若くしなきゃ!」って思うと(笑)、年齢を下げる幅が極端に大きくなるので…猛烈に幼くなるんですよね。それで、「あのときって、実は大人っぽくやってたんだ。若くしようって、あんまり意味ないんだな」って気づくんですけど。

──そういう意味で、先ほどおっしゃったように、年齢ではなく役と役との関係性のほうが…。

重要ですね、どっちかと言うと。声質はそんなに変わらないので、役の年齢感よりは、相手役との関係値みたいなもののほうを僕は重要視します。たとえば今回だったら、雛については対妹、夏樹については対幼馴染、という関係値ですね。



──榎本夏樹(CV:戸松 遥)との関係という点で見ると、今作では“付き合う前の幼馴染”と“付き合ってからの恋人”と2パターン出てきますが、対幼馴染という意識のほうが強いのでしょうか?

幼馴染が恋人に変わったとしても、恋人になってからわずか数カ月とかのレベルじゃないですか。そう考えると、幼馴染の期間のほうが長いから、そちらのほうが優先順位が高い気がします。なので、そこまで“対恋人”という関係値がお芝居に反映するかっていうと、もしかしたら幼馴染としてのいままでと、そんなに変わらないかもなあって思いました。