2016年の最終戦アブダビGPは、まさしく今季のマクラーレン・ホンダを象徴するようなレースになった。予選9位、決勝10位フィニッシュ。年間300億円を超すと言われる3強チームに匹敵する莫大な予算を投じながら、成績面では彼らに遠く届かないどころか、その3分の1ほどの予算で戦うフォースインディアにも及ばず、その後方のポジションをやはり同程度の予算しか持たないウイリアムズと戦う......。マクラーレン・ホンダの2016年は、最後までそんなシーズンだった。

「我々が掲げていた目標という意味では、かなりのレベルで達成はできましたし、技術的な進歩や信頼性の向上という点では、『HRD Sakura』のスタッフたちがよくやってくれたと思います。ただ、今の成績は我々が望んでいるレベルに達していませんから、そういう意味では全然満足できないどころか、フラストレーションの溜まるシーズンでした。レースに来る前から好成績が期待できない状況で戦わなければならないというのは、やはり非常に厳しいですよね......」

 シーズン開幕直前の2月末にホンダF1総責任者に就任した長谷川祐介は、この9ヵ月間をそう振り返った。

 思い返せば、開幕当初のマクラーレン・ホンダは"苦手"ばかりが積み重なった状態だった。

 ホンダのRA616Hは、ICE(内燃機関エンジン)のパワーも不足していれば、ターボとMGU-H(※)からの回生もまだ完全に開発目標を達成できたとはいえず、そのせいで、長いストレートや全開率の高いサーキットでは苦戦を強いられた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heat/排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 加えて、車体面でも想定どおりの空力性能が発揮できず、中高速コーナーで悪戦苦闘。ダウンフォースが少ないせいで、タイヤの発熱も悪ければ、保(も)ちも悪いという二重苦に苛(さいな)まれた。

「ブレーキングの安定性が大きな長所」とチームは言うが、言い換えればそれは、車体に当たる風向きが変わらない直線走行時はいいが、風向きが常に変わるコーナリング時には風洞やCFD(電子風洞)のシミュレーションどおりに空力性能が発揮できない、ということだ。

「まさにそういうこと。風向きが変わらない状況下でしか、シミュレーションどおりに安定して機能していない状況なんだ。開発チームも当初から薄々は気づいていたはず。しかし、日本GPであの惨状を突きつけられて、いよいよ認めざるを得なくなった。そこから見直しが始まったんだ」(マクラーレン・ホンダのあるエンジニア)

 鈴鹿翌戦のアメリカGPからフリー走行で確認のためのさまざまなデータ収集作業が始まり、それは最終戦アブダビGPでも続いていた。ジェンソン・バトンのマシンには360度撮影が可能なカメラを搭載し、マシンの各部がシミュレーションと異なる動作をしていないかという情報収集も行なわれた。裏返せば、アメリカGPからの4戦をかけて調査をしてもまだ結論が見えないほど、マクラーレン・ホンダは自分たちの真の姿が見えない状態で走り続けてきたということにもなる。

 予算の少ないフォースインディアやウイリアムズ、トロロッソは、シーズン折り返し地点のドイツGPよりも以前に今季型マシンの開発を終了し、後半戦は"ありもの"のマシンから性能を引き出しながら戦っていた。それに対し、マクラーレン・ホンダは最終戦まで毎戦のようにフロントウイングにフロアにと、さまざまな改良パーツを持ち込んできていた。それでも、彼らに追いつくことはできなかった。

 幸いなことに、アブダビGPのヤス・マリーナ・サーキットにはMP4-31が"苦手"とする高速コーナーはひとつしかない。長いストレートは2本あるものの、サーキット全体の全開率は45%ほどでそれほど高くはなく、シーズン中に進化したRA616Hの性能ならば大きな不利にはならなかった。フェルナンド・アロンソはQ3に進出し、予選9位。しかし、やはりフォースインディアには及ばず、ウイリアムズを食うのがやっとだった。決勝でもそれは変わらず、最後はタイヤの性能低下に苦しむセルジオ・ペレス(フォースインディア)に追いついたものの、抜くことはできず10位に終わった。

「ここ数戦に比べると割といい仕上がりでしたし、パフォーマンスとしては、今の我々に望めるなかでいいレベルにいたと思います。特に波乱もないなかで堅調なレースをしましたけど、フォースインディア勢には届かず、ウイリアムズといい勝負をしたというところで、ほぼ実力を表したレースでした。今シーズンの我々のパフォーマンスを象徴するようなレースだったと思います」(長谷川総責任者)

 ホンダとしては、所期の開発目標はおおむね達成できたという。

 シーズン前半戦はライバルメーカーに後れを取ったが、カナダGPでターボ周りを改良してMGU-Hからのディプロイメント(エネルギー回生)を大幅に進化させた。イギリスGPで吸気系、ベルギーGPで燃焼系を改良し、ICEもスペック3へと進化するころにはパワーの差もそれほど大きくないところまで縮め、燃費の厳しさも解消できた。

 それでも、このポジションにとどまってしまったのは、そもそもの開発目標設定値が低すぎたからだ。言い換えれば、ライバルチームの"伸びしろ"を読み誤っていたのだ。もちろん、車体とパワーユニットはすべてが一体のパッケージとなって初めて評価されるべきものであり、その両面において見通しが甘かったと言わざるを得ない。

「開幕前テストの段階では、『(当時のパフォーマンスレベルなら)ちゃんと完走すれば、そこそこポイントは獲れるだろう』と見込んでいました。そういう意味では、我々の見通しが甘かった、我々が設定したターゲット自体が甘かったと言わざるを得ません。結局のところ、自分たちが設定したターゲットを達成したとしても、ライバルと比べたときに相対的な競争力がどうかということが重要ですし、チームからの評価やモチベーションは変わってきてしまいますからね。そこがレースの厳しいところです」(長谷川総責任者)

 結局、シーズンの最後までその差が埋まることはなかった。開発をストップしたライバルたちに対して、最後まで追いかけても追いつくことはできなかった。2016年のマクラーレン・ホンダが手にしていたものには、これ以上に引き出すことのできる速さは残されていなかったのだ。

「特定のサーキットには合うけど、合うサーキットと合わないサーキットの差がハッキリしていたんだと思います。鈴鹿のように苦戦を強いられたレースというのは、完全にセットアップを外してどうしようもないというよりは、やれるだけのことはやったけど(車体に合わないがために)やっぱり遅かったんだ思います」(長谷川総責任者)

 10位でアブダビGPのチェッカードフラッグを受けたアロンソの晴れ晴れした表情には、やれるだけのことはやり切ったという達成感が浮かんでいた。しかし、コンストラクターズ・ランキングでもフォースインディアとウイリアムズには遠く及ばず6位。昨年の9位よりは浮上したとはいえ、こんな場所で満足しているわけにはいかない。それはチーム全員の一致した思いだ。

「ドライバーズ・ランキング(10位)ではメルセデスAMGユーザー(フェリペ・マッサ/ウイリアムズ)よりも上に行けたし、コンストラクターズ・ランキング(6位)もトロロッソから順位を守ることができた。(最終戦で)やりたかったことはすべてやれたよ。でも、僕らはチャンピオン争いがしたいんだ。そこまではまだまだ遠い。未来をコンペティティブなものにするために、冬の間にしっかりと努力をしなければならないんだ」(アロンソ)

 こうしてマクラーレン・ホンダ2年目のシーズンは終わった。来季こそは必ず、本来いるべき場所へと飛躍しなければならない。2年間の苦しみのなかで、その準備が整っていると信じたい。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki