“現代の魔法使い”落合陽一氏(右)とアニメーション作家のシシヤマザキ氏(左)

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『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、“現代の魔法使い”落合陽一の「未来教室」。最先端の異才が集う最強講義を独占公開!

シシヤマザキは、東京藝術大学デザイン科在学中にデビューして以来、有名ブランドや人気歌手との仕事を続けている若手売れっ子アニメーション作家だ。

学生時代にPRADA主催の映像コンペで入賞し、ブランドのプロモーションに起用。卒業後はルミネカードのキャンペーンCM、YUKIの楽曲『好きってなんだろう』のミュージックビデオ、そして昨年のNHK『紅白歌合戦』では星野源の背景演出を手がけた。

最近では資生堂とのコラボで免税店限定キャンペーン『トラベル&ハッピネス』のCMアニメーション、さらにキャラクター関連の派生グッズなども手掛けている。(彼女の仕事や作品は公式サイトで見られます)

シシヤマザキの制作スタイルは一風変わっている。まず実写動画を撮影し、それを1秒12枚のコマ数でプリントアウトし、それから1枚1枚、手でトレースしてアニメの原画をつくる。これ自体は「ロトスコープ」と呼ばれる古くからある手法だが、彼女の場合は自分自身が動画の被写体となって、動き、踊りまわり、それをもとにアニメがつくられていくのだ。

こうして出来上がる彼女の作品は、自身をモデルにしたキャラクター「シシガール」もろとも、内外で多くの人に愛されている。

そんなヤマザキがこの日、講義のために用意してきた特製のプロフィールはきわめてユニークだった。「1996年(小二) うさぎ、バイキン、魔女などに扮し登校」「2000年(小六)カエルに扮し登校」…早熟なコスプレイヤーだったようだが、それが作家としてのキャリアにどう関係しているのだろうか。

前編(「シシちゃんって、カメラが回ったときになんか人類を超越する」)に続き、お送りする。

* * *

落合 (ダンスの)フリは覚えてる?

シシ フリつけを覚える才能は全然なくて…。いろんなジャンルの音に合わせて、その場でアドリブで踊るのはできるんです。

落合 全部アドリブなんだ。じゃあ今、なんか音楽かけてみよっと

シシ え!?

落合 (音楽をかけて)すいません、無茶ぶりで! お願いします!

* * *

「えっ恥ずかしい!」と人類に未練を残すような言葉を口にしつつ、講壇の中央に堂々と歩いていき、シシヤマザキは即興のダンスを踊りはじめた。「人類を超越する」圧倒的な迫力で、筑波大学情報メディアホールにこもった熱気を攪拌する。

落合 拍手〜!

シシ こんなの初めて。すごい恥ずかしい!(場内笑)

落合 そりゃあ初めてでしょ(笑)。でも俺、この人はいつ舞台に立つのかなあって思ってるんだけど。生身のシシちゃんの迫力って半端ないから。別にアニメで迫力を薄めなくてもいいんじゃない?

シシ いえいえ、やっぱりアニメーションにすることに意義があると思うので。表現として伝える時に、色と形の情報量を絞ったほうが、逆にダイレクトに心に響くような気がするんです。

落合 これまでのゲストの方々は、まだ「マネできる」という感じがあったと思うんです。でも、シシヤマザキはマネできない(笑)。それは開始5分くらいでみんな気づいたんじゃないかと思うけど。

シシ でも、今日は皆さんに何を盗んでもらったらいいのかと思って…。

落合 いや、ヒントになるものはいっぱいありますよ。マスクを毎日描いて自分の手癖を知ることもそうだし、「現象をつくる」と説明してくれたことは何をするにも大事なことですから。

これ聞いておきたかったんだけど、シシちゃんってデザイン科出身だよね。そこで学んだことがアーティストとしての活動に影響してると思う?

シシ デザインの考え方にすごい囚われてる感じはあります。それが良く出るときと悪く出るときがあるんですけど。

落合 確かに、ルミネのCMを見てても、星野源さんのステージを見てても、いい意味でデザイン的に要素が配置されているな、と思うんだよね。じゃあ、悪く出るときは?

シシ 悪く出るときは、それを意識しすぎて、色も形も構成の仕方も、すべてにおいて表現が固くなっちゃうというか…。

落合 ああ、なるほど。表現が滑らかにジャンプしていかないと。

シシ そこからどう逃げるかっていうところで、いつも葛藤があります。

落合 演じる時のシシちゃんが超人すぎるから、そこの葛藤があるっていうのを今、初めて知りました。僕も作家として作品をつくるときにインスタレーションを完璧にしすぎちゃうと、それでデザイン感が増しちゃうんだよね。

シシ なんかちょっといやらしくなっちゃうんですね。

落合 そうそうそう。なんかいやらしく構成して、「建築かよ!」みたいな話になっちゃうより、ちょっと崩したりとか予定調和じゃないような時とか、ギリギリのラインに作家性が発揮されると思っていて。そこは僕も気をつかいますね、いつも。

特にメディアアートの場合、予定調和を守るのか、それとも崩せるかが、より顕著に表れると思います。予定調和に動きすぎると、すごく広告的になるんですよ。逆に広告っぽくならず、機械のくせに機械感がない、みたいなバランスを達成できた時が一番……。

シシ 一番なまめかしい

落合 そう、なまめかしい瞬間です。でも、それって壊れやすいから、展示としてはまた難しいんだけど。

進路の話に戻すと、デザイン科から、大学院でアニメーション専攻に行くわけだけど、この頃にはもう仕事として制作を始めてるわけだよね。大学院はどうでしたか? 行ってよかったと思う?

シシ それはすごく思います。学部の時は、どちらかというと講義よりも周りの友達が面白くて、そこからたくさん学んでいたと思うんですね。でも、大学院でアニメーション専攻になってからは、講義がもう、全部なんでも面白くなって。

落合 自分がやりたいことを教えてくれる先生がいっぱいいたっていうこと?

シシ というよりは、アニメーションの世界っていったいなんなのか、あらゆる角度から学習できたんです。テレビアニメをやってらっしゃる方の講義もあったし、短編アニメの講義もあったし、アニメーションという表現の世界が、どれくらいの範囲まで広がっていて、そこに何が存在しているのかがよくわかったので、本当に刺激的でした。もちろん、院の友達も面白かったし。

落合 なるほど。あと、表現欲について聞きたかったんですけど、シシちゃんの場合はデビューが早かったから、作品でお金をもらうようになる前後の変化ってあまりないよね。

シシ ありがたいことに、そうなんです。

落合 もっと戻って、バイキンの格好して小学校に行ってた頃と、大学で絵を描くようになった頃と、単純な表現欲求って違うものですか?

シシ うーん、全然違うような気がします。小学校低学年くらいまでは不満や怒りに満ちていて、「もっと面白くなるだろー!」みたいな感じで、どうしたら主張を多くの人に聞いてもらえるかをすごく考えていたんですけど。大学生になる前、受験の時に「ここまで描いてもダメなんだ…」と、散々思い知らされて。

だから、大学生になってからはデザイン的な考え方、構成をどう決めるか、テクニックを学んで戦略的に入れていこうっていう意識が強くなりましたね。

落合 今はそんなに社会に対してストレスフルな状態じゃないんだ。

シシ そうですね。それに、もし社会に対してはっきり言いたいことがあったとしても、それを直接言っても説得力がないと思ってるんですよ

落合 僕も幸せなことに大学3年生くらいから仕事が来るようになって、それから制作を続けていられているんだけど、社会に対する不満や怒りでモノを作るみたいなことはしないですね。

シシ でも、アーティストは怒らないとダメだって…。

落合 ってよく言うけどさ、あれウソだと思うよ!

シシ 確かに、怒っていても「怒ってるぞ!」っていう風に言わないほうが、かえてわかってもらえるかなと思います。CMの仕事をやっていることもあって身近に感じるんですけど、「女性」についての表現で広告が炎上したりすることが最近目立つようになってきて。そういうのがあるたびに、みんな怒りが溜まってるんだなあって。

落合 俺は炎上したら炎上したで、儲かるからいいんじゃない?って思ってるけど。そういえばシシガールも、誤解されかねないよね。「ブルマー」に「乳首」だもん(笑)。

シシ よく実現できたなあと思うこともあります(笑)。でも、そういう抗議とか規制に対してはっきり何か主張するよりも、最初から「気にしてませんよ♪」っていう感じで、自由に踊っているだけの態度を見せたほうが、物事がよくなっていく気がするんです

落合 シシちゃんはポジティブだよね。軽やかに軽やかにジャンプして、問題を克服するってことだと思うんだけど。さっき、キャラクターは記号だっていう話がありましたが、シシガールは最終的にどんな記号になっていくのかな。

シシ 究極的には、ミッキーとかキティちゃんみたいに、できるだけ多くの人に見てもらって、ハートマークみたいな、手っ取り早く愛を伝える手段になったらいいのになって思っています。究極を言えば、ですけど(笑)。

◆「#コンテンツ応用論」とは?

本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。現代の魔法使いこと落合陽一助教が毎回、コンテンツ産業の多様なトップランナーをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)

1987年生まれ。筑波大学助教。コンピューターを使い、新たな表現方法を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得。デジタルネイチャーと呼ぶ将来ビジョンに向け表現・研究を行なう

●シシヤマザキ(しし・やまざき)

1989年生まれ、神奈川県出身。水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立。東京藝術大学在学中から自身をモチーフにしたアニメーション映像が国内外で評価され、PRADAや資生堂といった世界的ブランドのプロモーションにも起用されている

(構成/前川仁之)