デジタル上でのコミュニケーションは、企業のマーケティングやブランディングを明らかに変革し、速度と深度を増している。有園雄一氏が業界のキーパーソンや注目企業を訪ね、デジタルが可能にする近未来のマーケティングやブランディングについてディスカッションする本連載。初回は花王にて10年以上デジタルマーケティングを司る石井龍夫氏に、マスマーケティング中心の時代からの変化の潮流と、この先の顧客コミュニケーションの考え方を解説いただいた。後編では主にデータに着目し、データを中心としたコンテンツ開発のプロセスや組織体制に言及する。

■デジタルなら顧客のモチベーションを把握できる
zonari合同会社 代表執行役社長 有園雄一氏(写真左)
花王株式会社 デジタルマーケティングセンター長 石井龍夫氏(写真右)

有園:前編では“スモールマス”と呼ぶコミュニティへのアプローチが重要であること、またマスメディアとデジタルメディアの機能の差をよく理解して設計し、使い分けることが大事だとお話いただきました。

 ここからは、さらにデジタルならではの機能やデータ活用についてうかがいたいのですが、先ほどの「マス×デジタルで広告効果がリフトする」話に関連して、私が参画している電通デジタルの親会社の電通は「STADIA(β版)」という統合マーケティングプラットフォームを最近開発しました。これを利用すると、テレビ番組に関するツイートからテレビ視聴ユーザーを推定して、ネットでリターゲティングするという“テレビリタゲ”ができるようなのです。

石井:それも効果的かもしれませんね。以前行った調査では、ネットでの情報発信が活発な人はテレビ接触頻度も高いという結果が得られました。テレビは情報を集める場として今もきちんと機能していて、だからテレビで何かが取り上げられるとすぐに検索が動くのだと思います。

 そのタイミングもそうなんですが、私たちとしてはやはり、顧客の心が動いた瞬間にアプローチしたい。ヘアケアならヘアケアに、いちばん関心が高まったときに広告コミュニケーションができれば、それは理想ですよね。

有園:そうですね。となると、そのモチベーションの把握にデジタルが役立つと。

石井:ええ。それはマスコミュニケーションでは不可能でした。今は皆がスマートフォンというセンサーを持ち歩いていますから、マーケターは理想の形でのブランド強化が可能になっているといえます。

■デジタル時代のメディアプランとクリエイティブ

有園:確かに。今のお話にはまったく同意なのですが、一方で「デジタルをどう使えばいいのかわからない」というマーケターも多いような気がします。具体的なメディアプランに落とし込めない。

石井:そうですね。私も他社の方から、経営や上長に「デジタルを使え」と言われたがどうしたらいいかと相談されたりします。

有園:各所で話を聞いて考えたのですが、マスコミュニケーション中心の時代とは、そもそも思考のプロセスが違うんですね。テレビCMなら、営業サイドからターゲットやKPI、今回訴求する商品価値やメッセージを加味した大枠のメディアプランが提示され、それをひとつのクリエイティブに落とし込めばよかった。

 一方でデジタルだと、同じようにデジタルの部署からメディアプランが上がってきて、そこにリターゲティングがありYahoo! ブランドパネルがありYouTubeがある。すると、広告クリエイティブは果たしてひとつでいいのか、マス広告の経験が長いクリエイターなどは悩むようなんです。

 本当はターゲット起点、お言葉を借りればスモールマスを定義した上で、彼らに響くクリエイティブを加味したメディアプランを立てるべきなんでしょう。

石井:同感です。商品価値やコンセプトありきのコミュニケーションから、お客様ありきのコミュニケーションへ、設計の流れをがらっと変えないといけないと思います。

高島 知子[著]、有園 雄一[聞]、関口 達朗[写]