夫婦で一緒に仕事をしている“夫婦ユニット”を紹介している本連載。今回は「店舗を持たない魚屋」として活動するご夫婦、浅井和浩(あさい・かずひろ)さんと有美(ありみ)さんに話を聞きました。

〈魚屋あさい〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:助言やアイデア「相手の話をしっかり聞く」こと。
二つ:それぞれがプロ「お互いの領域を干渉しない」こと。
三つ:月に一度「2人で遊ぶ時間を作る」こと。

声がかかれば、新鮮な魚と調理道具を抱えてどこへでも出向き、その場でさばいて提供する。新しい形のノマド魚屋を営むのが「魚屋あさい」です。魚職人である夫の「趣味」を、法人化を目指すまでの「仕事」に変えたのは、バリバリのオフィスワーカーだった妻のある行動でした。

夫の夢が夫婦の夢に

-そもそも夫婦ユニットとして活動を始めるきっかけは何だったのですか?

浅井有美さん(以下、有美):
出産ですね。最初の3ヵ月くらいは目まぐるしく過ぎていったんですけど、徐々に子どもとの生活に慣れてくるとぽっかりと時間ができて、いろいろと考えてしまったんです。もちろん子どもができたのは嬉しいし、育児も楽しいけど、一方で「私のキャリア、人生どうなるんだろう」という不安が沸いてきました。

浅井和浩さん(以下、和浩):妻はもともとバリバリ働いていたので、産休に入って思うように外出もできないことに不自由さはあったと思います。

有美:それは仕方のないことだとわかっていても、夫が仕事に行っている間、私は家で子どもと2人きり。何だか社会から切り離されてしまった感じがして。夫のやりたいことを応援してあげたいのに、100%応援してあげることができない自分がイヤでした。

和浩:そんな時です。仕事から帰ったら、妻が突然「ちょっと、ホームページ作ってみたよ」と。僕が趣味でやっていたお魚さばき教室や、パーティーなどでの解体ショーの宣伝や申込みフォームなどが設置されたホームページでした。

有美:子どもをだっこ紐で抱えられるようになった時、「お、両手があいているから何かできるぞ」と。時間はあったし。何せ暇だったので(笑)。

和浩:それが「ちょっと作ってみた」というレベルじゃないんです。かなりでき上がっている。

有美:夫がしたいことを素直に応援できないことに悶々としていたので、それなら手助けできることをしてみようと思って。もともと夫の活動を見ていてこうしたらどうだろうというアイデアはあったんで、それを形にしてみました。彼も喜んでくれたし、私もまた社会と繋がった気がしました。

和浩:ホームページを作ったことで、魚さばき教室などに参加してくださったお客さんの感想をダイレクトに感じられたり、お客さんが増えれば家計の収入にもなる。趣味だったことが、仕事として見えた感じでした。

夫は生きるコンテンツ。それを広めるのが妻の役目

有美:夫婦ユニットを組むにあたっては、もちろんシビアに見極める必要がありました。どんなに彼がやりたいと言っても、夢だけでは食べていけませんからね。でも、趣味としてやっていた頃から身近で見ていて、彼がやろうとしていることは社会に求められているなと感じていたし、彼の真摯な姿勢も鑑みて、一緒にやろうと思えました。

和浩:妻は僕がこんなことがやりたいと言うと、度外視せずに利益も含めて真剣に考えてくれる。僕は職人なんで、舵は妻にとってもらっている感じですね。

有美:そもそも夫の「魚職人」という部分がなければ、この仕事は成り立たちません。クライアントさんからも「彼は生きるコンテンツだ」とよく言われるんですけど、そのコンテンツを広めるのが私の役目だと思っています。

ユニットを組んで実感した、お互いのすごさ

-夫婦ユニットを組んで、大きく変わったことはありますか?

和浩:仕事と家庭というカテゴリー分けがなくなったことですね。これまで仕事と家庭は相反するところにあった。仕事を優先するのか、それとも家庭を優先するのか、みたいな。

有美:そうそう。バリバリ仕事をしていた時には、仕事とプライベートをきっちり分けていたけど、今はすべてが一つの暮らし。意外にも、それがとても心地いいんです。

和浩:忙しくなるのはいいことだけど、子どもをないがしろにはできない。僕が夜に仕事に出かける時は妻が子どもを見ているし、逆に妻が打ち合わせに出る時は僕が子どもをみる、そのスケジューリングも含めて魚屋の仕事だと思っています。そのへんのバランスも、お互いに違う場所で仕事をしているとコンセンサスをとりにくいですよね。

有美:今は仕事のことを考えるイコール家庭のことを考えること。お互いに責任を転嫁し合うのではなく「どうしていく?」という話ができるのがいいですよね。

和浩:確かに、生活に直結するからこそ頑張れるところはあります。ありがたいことに「魚屋あさい」は軌道にのってきている。これからも夫婦で一緒にやっていきたいし、前向きな気持ちで進んで行く先に、素晴らしいことが待っていると思えるんです。

有美:それと、一緒に仕事をすることで、お互いの見方も変わりましたね。より信頼度、尊敬度が増したというか。

和浩:そうそう、お互いに「すごい、すごい」って誉め合うことが増えました(笑)。もともと妻は会社員時代にサミットの企画・運営など、すごいことをしていると思ってはいたけど、一緒に働くとダイレクトにそのすごさがわかる。「この案件取るの?」「えっ、取れたの?」「これからこんなすごい企業とつき合えるの?」と妻の企画力や営業力のすごさに驚かされる日々です。

有美:それも、夫の魚職人としての知識とスキルの高さゆえ。私たちが価値を感じてやっていることに、こんなお客さんがついたとか、こんな案件が取れたとか、喜びを共有できることがすごくうれしい。まだまだ規模は小さいけど、会社員時代のたとえば1億円のプロジェクト以上の価値があると思っています。

取材協力:Ryozan Park巣鴨