2016年12月12日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)DeNAのキュレーションメディア事業「パレット」が事実上頓挫した。この事件には、大きく2つの問題点がある。それは、1)他者のコンテンツを盗用し、不正確な情報を撒き散らしたこと2)Googleの検索エンジンのアルゴリズムを解析しハックしたこと 1)について言うと、僕が思うに彼らの罪深さは、不正確で質の悪い情報をネット上に撒き散らしたことにある。詳述すると、DeNAは、トラフィックを大きくするためにコンテンツの大量生産したが、コンテンツ内容を精査せず、あるいはオリジナルコンテンツの所在を隠す目的で複数コンテンツをマッシュアップしたため、不正確な情報をネット上に拡散してしまった。

仮に記事を盗用したとしても、それが正確で正しいものであれば(どちらにしても許されない行為である)消費者にとっての被害は小さい。しかし、不正確なコンテンツを大量にばらまくことで、ネットの水質を著しく汚染してしまった。この罪は大きい。

実際に同じような行為をしていたのはDeNAだけではなく、多くのキュレーションメディアや、SEO業者、コンテンツマーケティングを標榜する組織や企業の多くが同様にネットを汚染している。これは水源に猛毒を混入させるに等しい行為であるが、インターネットという原則として誰でもメディアを作り、コンテンツを配信できるプラットフォームがある以上、なかなかこれを止める手段は見当たらないのが現状だ。 次に2)だが、出どころの怪しい粗悪なコンテンツを消費者に届けるための手段として、DeNAはSEOを選択した。優秀な人材を揃えた彼らは、Googleのアルゴリズムを徹底的に分析し、付け入る隙を発見して実行した。もちろん、これ自体は違法ではない。仮に彼らのメディアが消費者に有益で正確な情報を配信してくれていたとしたら、検索エンジンの裏をかいたとて、それは彼らの技術者の優秀性を証明することになる。Googleの慌てさせる技術者なら、僕らも雇いたい。

とはいえ、この行為(いき過ぎたSEO)自体、僕は好きでない。検索エンジンの弱点をつき、自分たちの都合に合わせて検索結果に改竄することであるから、本質的にはスパムと同じと個人的に思っている。言ってみれば、フォースを磨き上げたが(正義の守護者たる)ジェダイではなく、(ダークサイドに堕ちた)シスとして、せっかくのノウハウや技術を悪事に使ってしまった哀しさを感じてしまうのである。 DeNAの行為によって、Googleのアルゴリズムもフィルターも万能ではないということが証明されてしまった以上、頼るは口コミかと思いきや、実はこちらも汚染から無縁ではいられない。FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワーク、ソーシャルメディアにおいても、同じように不正確な記事やデマの氾濫を止められない。Facebookの語感から、こうした不正確な(単なる誤謬というよりも悪意を持って制作された意図的なデマである)記事を、フェイクニュースと呼び、最近非常に大きな社会問題として捉えられている。 今回のDeNAの「パレット」が引き起こした騒動と、Facebookらソーシャルメディアが直面するフェイクニュース問題は、共にネット上のコンテンツやニュースの信ぴょう性を著しく貶めており、はっきりとした汚染問題として早期の解決が求められる事件だ。 GoogleはDeNAによって暴かれたアルゴリズムの弱点を一刻も早く補正しなければならないし、Facebookもまたニュースフィードの水質改善に必死に取り組み始めている。しかし、結局のところ、消費者が信ずるに足る情報源として、各メディアが正確なコンテンツを制作し、配信し、内容を保証し、間違っていればすぐに修正する努力を続けなければならない。自助努力によって、消費者に「コンテンツの配信者」としてオーソライズされることを目指さねばならないのである。 例えば、本来バイラルメディア、キュレーションメディアの頂点というか、代表格であったはずのBuzzFeedが、今回のDeNAの問題を暴くことになった張本人であることは皮肉でもあり、 BuzzFeedがすでにオーソライズドメディアになりつつある、ということを意味する。逆にいえば、BuzzFeedの記事をして、「お前が言うな」という声は聞こえなかった。よって、彼らを消費者が認めた、ということになるのである。 インターネットは、消費者全てに情報発信者になる自由と権利を解放した。それと同時に、不正確な情報や悪意あるデマが拡散しやすいという、非常に脆弱で危険な状況を生んでしまった。この状況を改善するには、自由を制限するか、正しい情報や質の良いコンテンツを見極めるための環境を作る他ない。自由を奪われたくなければ、良い環境を作る努力を皆でする必要があるだろう。 DeNA が引き起こした今回の騒動は、まさしくインターネットユーザー全員における他山の石であり、対岸の火事ではない。優秀な頭脳と才能を持つ企業でさえ、簡単にダークサイドに堕ちる、そういう危うさを今のインターネット社会は有している。過度に束縛されることを望まないのであれば、いまこそ全員が襟を正し、今後のDeNAと一緒になってより良い環境づくりに取り組もうではないか。
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おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。

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