コメダの看板メニュー「シロノワール」

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国内各地に700店以上の店舗がある「コメダ珈琲店」の看板メニューといえば「シロノワール」です。温かいデニッシュパンの上に冷たいソフトクリームとチェリーがのった、熱烈ファンも多い商品です。これが生まれた背景を紹介しましょう。

■「大手が真似できない」商品

シロノワールが生まれたのは1977(昭和52)年。もう40年になるロングセラーブランドです。その誕生には「危機感」がありました。

「1968年に名古屋市西区で開業したコメダ珈琲店の新店舗を、石川橋(同市瑞穂区。現在のコメダ珈琲店 本店)に出す時、周囲に相談したら『絶対に失敗するよ!』と猛反対されました。あまりにも反対されるから心配になって、『じゃあパンのメニューを増やそう』と決め、日清製粉の主催するパン教室に習いにも行きました。この時に、製パンメーカーのフランスパンにシロノワールのデニッシュパンを開発してもらったのです」

コメダ創業者の加藤太郎さん(現・珈栄舎代表取締役)は、こう明かしてくれました。いまでこそ当たり前のデニッシュパンは、当時はまだ国内に出始めた時期。「新しいもの好き」の加藤さんは、「大手が真似できない」手法をいろいろ考えていったそうです。食パンなど、パンは四角が普通だった時代に、丸いデニッシュパンにしたのもその1つだとか。

その後、星乃珈琲が類似商品「ホシノワール」(当時)を投入しましたが、マーケティングの世界では「商品は真似できても、ブランドは真似できない」ともいわれます。

なお、長年の取引先だったフランスパンは2013年にコメダが買収。現在は直営工場としてコメダ珈琲店に納入するパンを製造しています。

■「アイス」でなく「ソフト」にした理由

シロノワールの上にはアイスクリームではなく、ソフトクリームを載せたのも加藤さんのアイデアでした。

「アイスクリームディッシャーで載せるアイスよりも新鮮なソフトクリームの方がおいしいですから。今にして思うと、既存のやり方が面白くなかったのでしょうね」(加藤氏)

実は、シロノワールのデニッシュパンは64層だそうです。一般的なデニッシュパンは24層や36層だとか。そこまで多層のきめ細かさにしたのも理由があります。

「温かいデニッシュパンの上にソフトクリームを載せると、徐々に溶けて浸してきますが、その時のおいしさにもこだわりました」(加藤氏)

パンを製造するコメダ千葉工場長の野口浩二さんによると、「味については、ソフトクリームがあっさりめなので、デニッシュパンはコクみを出しています」とのことです。

近年、コメダ珈琲店ではシロノワールの派生商品を積極的に投入しています。2016年秋には「キャラメルリンゴ」として、リンゴを用いてキャラメルソースをかけたシロノワールを期間限定(11月下旬までを予定)で販売しています。

同年のバレンタイン時期には、「チョコ色に染まれ! コメダのチョコ祭り」と題したイベントを開催。各店舗でクリームソーダやアイスココアなどソフトクリームを使ったメニューを、バニラソフトからチョコソフトに変えました。シロノワールもチョコソフトの「クロノワール」となり、好評だったそうです。

こうした手法は、「ロングセラーブランドの活性化」と呼ばれます。時代とともに消費者の好む味は変わりますから、進化を続けないと取り残されてしまいます。

とくに、シロノワールが位置する「デザート(スイーツ)市場」は大激戦区。ライバルは他のカフェだけではありません。コンビニスイーツやネットのお取り寄せで「うちカフェ」をする人も多いからです。年数の長さだけでは勝負できない時代、伝統の上にあぐらをかいた企業や商品は淘汰されてしまいます。

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高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。著書に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)などがある。

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(経済ジャーナリスト 高井尚之=文)