SMAP最高の名曲「夜空ノムコウ」が言い当てた“かったるい未来”

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 この12月でとうとう解散してしまうSMAP。1日に行われた『SMAP×SMAP』の収録では「世界に一つだけの花」を歌い、中居正広が涙したとの報道もありました。21日にはファンが選んだ50曲が収録されたベスト盤もリリース。25年の歴史に終止符が打たれようとしています。 

◆ミリオンヒット史上唯一、静かな倦怠感を歌った曲

 そこで改めて、やはり「夜空ノムコウ」(作詞:スガシカオ、作曲:川村結花)は特別な1曲だと思うのです。

 筆者は特別SMAPのファンではないので、この曲がグループとファンにどんな意味を持つかは不明です。

 しかし、日本のヒットチャート、とりわけミリオンヒットを記録した246曲の中で、唯一“明日はかったるい”と明言している「夜空ノムコウ」の価値は計り知れません。

“がんばれば上手くいく”とも“愛があれば大丈夫”とも言わなければ、“世界を変える”とも“壁をぶっ壊す”とも歌わない。その場しのぎの希望や、子供じみた不平不満を叩きつけるのではなく、日々生活する人にとってもっとリアルなのは静かな倦怠感だと言い当てたからこそ、「夜空ノムコウ」は特別なのです。

<全てが思うほど うまくはいかないみたいだ>
<このままどこまでも 日々は続いていくのかなぁ>
<夜空のむこうには もう明日が待っている>

 「明日」を「もう」来てしまうもの、あまりありがたくないと捉えざるを得ない世の中の空気。絵空事ばかりのJポップにあって、スガシカオがようやくその“当り前”を描くことに成功したのです。

◆“なんかモヤモヤするなぁ”という気分

 こう言うと、“「およげ! たいやきくん」(1975年のミリオンヒット)を忘れてないか?”と思うかもしれません。しかしあの曲にはプロの作家による慎重な寓意が込められたうえ、オチまで付いている。“世の中とかシステムとはこういうものである”というある程度の断定がなされている点で、聴き手の入りこむ余地が限られてしまうのです。

 それからすると、「夜空ノムコウ」には明確な結末がありません。スガシカオ自身にも職業的な作詞家より、シンガーソングライターの立ち位置から聴き手に丸投げしてしまうラフさがある。“なんかモヤモヤするなぁ”との共通認識までは描いても、原因が何なのかは明らかにしないし、そんな不具合に対して具体的なアクションをうながすわけでもない。

 結果、聴き手は自分なりの解釈や感じ方をもとに物語の続きを考えさせられてしまう。言ってみれば、地に足を着けて聴ける唯一のミリオンヒットが「夜空ノムコウ」なのですね。

 さて、こんなことを考えていて思い出したのが村上春樹のある文章でした。ブルース・スプリングスティーン(アメリカのロック歌手。「Born to run」や「Born in the U.S.A.」などの大ヒットがある)とレイモンド・カーヴァー(アメリカの作家。代表作に「頼むから静かにしてくれ」や「大聖堂」など)の共通点を論じたこの一節。

<その物語に込められたbleakness=荒ぶれた心は、我々の内なる部分のどこにあてはまっていくものなのだろう?
そしてその心は我々をどのような場所に連れて行こうとしているのだろう?
我々はその閉じられていない物語を前にして、そう考え込むことになる。それはほとんど当惑に近い感情である。>
(村上春樹『意味がなければスイングはない』文春文庫p148、改行は編集部)

 SMAPが<歩き出すことさえも いちいちためらうくせに つまらない常識など つぶせると思ってた>と歌うとき、妙に決まりが悪いと感じたことはないでしょうか。“ああ、これワタシ(オレ)だわ”と心を見透かされた気がする瞬間。この「ほとんど当惑に近い感情」を描く点で、スガシカオはこの両者とつながっているのです。

◆SMAPなき後も「夜空ノムコウ」は歌い継がれてほしい

 そこでまた面白いのが、『意味がなければスイングはない』にはブルース・スプリングスティーン論とスガシカオ論が収録されていること。これは全くの偶然なのでしょうか?

 というわけで、「月とナイフ」(スガシカオ)と「The Promised Land」(ブルース・スプリングスティーン)にほぼ同じ言い回しがあることに驚きます。

<ぼくの言葉が足りないのなら ムネをナイフでさいて えぐり出してもいい>
(「月とナイフ」 作詞・作曲:スガシカオ)

<Take a knife and cut this pain from my heart
 Find somebody itching for something to start>
 (ムネをナイフでさいて この痛みを取り除いたら
とにかく何かやってやろうとあがいてる俺と同じアホどもを探すんだ 筆者訳)
 (「The Promised Land」ブルース・スプリングスティーン)

 スガシカオがこれまでにスプリングスティーンを聴いてきたかどうかは分かりません。全くの偶然かもしれないし、もしかしたら参考にしたかもしれない。それはどうでもいいことです。

 大切なのは、ただの知的関心や娯楽としては音楽と付き合えない“困った人たち”がいて、ここ日本でスガシカオはそんな希少種なのです。だから「夜空ノムコウ」は誰かが歌いついでいかなければならない。リリースから18年経ちましたが、いまだJポップが“終わっていない”現状にその思いは強くなるばかりです。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>