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 デジタル上でのコミュニケーションは、企業のマーケティングやブランディングを明らかに変革し、速度と深度を増している。有園雄一氏が業界のキーパーソンや注目企業を訪ね、デジタルが可能にする近未来のマーケティングやブランディングについてディスカッションする本連載。初回は花王にて10年以上デジタルマーケティングを司る石井龍夫氏に、マスマーケティング中心の時代からの変化の潮流と、この先の顧客コミュニケーションの考え方を解説いただいた。前編では、同社が注目する“スモールマス”とその捉え方を紹介する。

■マスマーケティングが効きにくくなった二つの背景
zonari合同会社 代表執行役社長 有園雄一氏(写真左)
花王株式会社 デジタルマーケティングセンター長 石井龍夫氏(写真右)

有園:これから持たせてもらうことになった対談連載のテーマに、「近未来のマーケティング」という大きなお題を掲げてしまいました。ただ、変化が激しいからこそ、何が起きているのかを大局的に捉えた上で、将来の方向性を見定める必要があると感じています。

石井:確かに、大きなテーマですね(笑)。

有園:深い知見をお持ちの方から私が学びたい、というのも裏テーマにあります(笑)。石井さんはブランドマネジメントの仕事を経て2003年から花王のデジタルマーケティングセンター長を務められ、マスとデジタルの両方をつぶさに見てこられたと思います。まずは、今注目されている大きな変化、潮流をお聞かせいただけますか?

石井:前提として、花王は年間百億円単位の売上をベースに、何十億円の予算を持ってマーケティングをしています。顧客の課題に基づいて商品を開発し、大量のテレビCMで特長を周知して販売する、マスマーケティングの王道をずっと歩んできました。当社だけでなく、日本の大手メーカーの多くがそうだと思います。

 そのマスマーケティングが今、効きにくくなっています。その背景は二つあると思っていて、ひとつは「暮らしがよくなったことで製品の機能差が伝わりにくくなった」こと。以前はひどい汚れも落ちる、と謳っていた洗剤も、ワイシャツを2日着る人や泥だらけになる子供が少なくなった今では、他の製品との差を感じてもらいにくいですよね。

 もうひとつは「生活者が多様化している」ことです。単身者やDINKS、あるいは旦那さんが亡くなって奥さんの独り住まいなどが増えて、テレビCMでよく描かれる「家庭=両親と子供」の構図に共感を得にくくなっています。

■そもそも今“マス”って存在しているのか?

有園:いわれてみれば、そうですね。

石井:厚労省の調査によると、今いちばん多いのはDINKSで30%、次に一人暮らしが25%で、親と未婚の子供の世帯は20%と全体のわずか5分の1。いってみればレアケースになっています。にもかかわらず、相変わらずマスでそこへめがけていたら、それは効きにくくもなります。

 そもそも、今“マス”って本当に存在しているのかというと、そう呼べる人たちはもういませんよね。とはいえターゲティングしていかないと、商品価値を具体的な使用シーンで伝えられない。ならば年齢や属性ではなく「週1回はハンバーグを食べる人」にヘルシアを訴求するとか、そういう嗜好性や行動で区切るべきでしょう。その上で、この情報過多の中でしっかり届くクリエイティブやチャネルを設計する必要があります。

有園:情報過多という点も、企業のコミュニケーションに大きな影響を与えていますね。

石井:ええ。生活者が情報の「必要/不必要」を瞬時に判断している中で、私たちのブランドや商品の情報を「必要」なほうに仕分けてもらいたい。ここで機能差が響かないとしたら、このブランド・商品が好きだから知りたいと思ってくれるファンを育てることが得策だと考えています。

 現状、マスマーケティングの多くが新規ユーザー獲得を狙っていて、既存ユーザーの5〜10%が全体の売上の3〜4割を占めるような消費材の状況ともマッチしていません。これも改めて、ロイヤルティの高いユーザーを見つけてレリバンシーの高いコミュニケーションを図ることをゴールとし、そのための広告企画やメディア選択をすべきだと思います。

高島 知子[著]、有園 雄一[聞]、関口 達朗[写]