今では世界中の人々が宿泊先を探すときに使うようになったAirbnb(エアビーアンドビー)。そんな身近になったAirbnbが、最近奈良県の吉野町で自ら家を建てるプロジェクトを完成させました。コミュニティハウスであり「吉野杉の家」と呼ばれるこの家は、もちろんAirbnbのリスティングに載せて訪れる旅行客が滞在するための場所。

でも、あくまでプラットフォームであるAirbnbが自ら家を建てた理由とはいったい何なのでしょうか? 今回、実際にこの家を訪れたレポートと合わせてお伝えします。


※ この記事は交通費の支給を受けたうえで執筆しています。

過疎エリアにおける地域活性化の取り組み


吉野杉の家」は地域活性化の取り組みとしてAirbnbが企画し、吉野町と協力して作り上げた建物で、国際的にも著名な建築家、長谷川豪氏によって設計されました。吉野町における林業の強みを活かし、材木をふんだんに用いているところが特徴的で、中に入ると豊かな木の香りが広がります。


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2Fの寝室。木に囲まれたシンプルな空間。


家は2階建てになっており、ゲストは2階にあるロフトスペースのような2部屋、「朝日の間」と、「夕日の間」に宿泊できます。正三角形のシンプルなデザインが非日常感を与えてくれます。


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1Fのリビングスペース。窓からは吉野川を臨む。


1Fのリビングは地元の人たちが気軽に立ち寄れるカフェのようなスペースで、窓側が開放的な縁側になっているのが特徴的です。


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「吉野杉の家」は、地元の人が行き交う歩道沿いにあり、地元の人との交流が生まれやすい工夫がされていた。


今後、近日中に2017年1月中旬以降の予約を入れられるようになる予定です。

宿泊でもたらされた収益は、Airbnbのプラットフォームを使用する通常のサービス料を差し引いた上で、吉野町のホストコミュニティに寄与されます。


「吉野杉の家」は、Airbnbの主力商品なのではない


「吉野杉の家」のプロジェクトは、吉野町のような過疎化が進む地方コミュニティを活性化させる手段として重要な先例になるのかもしれません。このプロジェクトを率いたAirbnbソーシャルイノベーション事業統括責任者であるキャメロン・シンクレア氏は、このプロジェクトについて「過疎化が進む地域を活性化するという課題において、企業が地方コミュニティと協業するモデルケースになる」と語りました。


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Airbnbソーシャルイノベーション事業統括責任者、キャメロン・シンクレア氏。


ただ、Airbnbが作った家だからといってみんなが目指すべき理想の家だと言いたいわけではない、とクギを刺します。


「吉野杉の家」はAirbnbの主力製品だと言いたいわけではないし、Airbnbが示す理想の家だと言いたいわけでもありません。この家は、地域コミュニティ主導で地域活性化をするモデルケースであり、企業が地方コミュニティとどう関わったらいいかというモデルなのです。

Airbnbはプラットフォームであり、テクノロジー企業です。そして、多くのテクノロジー企業は効率を追求しています。このような企業にとって、「人よりも機械に重点を置くこと」は自然なことです。でも、Airbnbは逆の方向を大切にしたいと思っています。つまり、「機械よりも人に重点を置くこと」です。

このプロジェクトで示したいのは、そんなあるべき未来の方向性なのです。


シンクレア氏が言う方向性は、「吉野杉の家」の運営方法にも表れています。Airbnbが企画し、投資したのにも関わらず、Airbnb自体は運営には関わることはありません。つまり、「吉野杉の家」が今後成功するかどうかは、運営を任された吉野町のホストコミュニティにかかっているということです。シンクレア氏は次のように続けます。


「吉野杉の家」の運営は吉野町のホストコミュニティに任されました。これはつまり、運営において問題が起きても、ホストコミュニティが自分たちで解決することを求められるということです。コミュニティ主導で運営する家だからこそ、問題に対する最適な解決策はコミュニティが持っていると考えています。

同時に、「吉野杉の家」の活用方法を考えて、改善していくのもホストコミュニティの役割です。今後、全く想定していなかったような使い方がされることもあるかもしれないし、家のデザインが変わっていくこともありえます。「吉野杉の家」は吉野町のコミュニティに合わせて、進化していくということです。


Airbnbは吉野町のようなプロジェクトを他の地域でも進めていきたいという意思を示しました。先日、岩手県釜石市がAirbnbと提携したように、過疎化が進む地方では、Airbnbのようなサービスが地方活性化に大きな役割を果たすのかもしれません。


(文・写真/大嶋拓人)