英国ドラマ『ダウントン・アビー』のNHKオンエア、第5シーズンが先週12月4日にスタートした。


第5シーズン第1話、時代は1924年となっている。ジョージ5世の時代。シーズン1第1話からだと12年後となる。

伯爵はご機嫌ななめ


マクドナルド首相率いる初の労働党政権が成立。伯爵家当主ロバートはご機嫌ななめだ。
階下の使用人部屋もこの話題で持ちきり。旧体制に義理立てしたい執事カーソンも、労働党政権に、また階級社会の変貌に、いい感情を持たない。

村の学校の新理事にてっきりなれると思っていたが、伯爵にお呼びがかからない。
郵便局長など村の代表団が、戦没者慰霊碑の建立の件で屋敷を訪れる。伯爵は、慰霊碑の建設委員長を頼まれると思い、自身が大戦の前線に呼ばれなかったことを引け目に感じている。

ところが村人は建設委員長を、村で人望のあるカーソンに頼んできた。これには伯爵も内心がっかりだ。
カーソンは忠義者で、自分の主人である伯爵を差し置いて委員長の座に就きたくない。

イザベルにモテ期に到来! どうするヴァイオレット?


妻を亡くした裕福なマートン男爵は、見とれてしまうほどのハンサムな美老人。
その彼が伯爵の母レイディ・ヴァイオレットに昼食会を開いてほしいと頼んだ。イザベル(伯爵家長女メアリの亡夫の母)に会う機会を作ってほしいのだ。
マートン卿と結婚するとイザベルは貴族になることになる。しかしイザベルは、男爵に友人以上の興味を持てない。

ヴァイオレットは、イザベルと親しいクラークソン医師と、友人のレディ・シャクルトンをたきつけて昼食会に招き、イザベルにクラークソン医師を、男爵にレディ・シャクルトンをあてがって、両者を引き離す。
平民には平民、貴族には貴族というわけだ。ヴァイオレットは、イザベルが貴族になるのが癪なのか? ←と、これは伯爵夫人コーラの推測。

ヴァイオレットは階層の秩序を守ろうとするあまり(←繰り返すがあくまでコーラの推測)、昼食会に縁戚でもない平民の医師を招いて、逆に階層秩序の混乱に揺さぶりをかけてしまう。皮肉な話。
ちなみにヴァイオレットの執事スプラットは平民を露骨に差別待遇する、尊大かつ滑稽な人物で、今エピソードではそのやりかたを主人に何度も窘められていた。

バンティング先生、晩餐会で一同をどん引きさせる


伯爵の従妹の娘ローズは、村の学校の行事に協力している。優秀な生徒の表彰式に、伯爵の次女イーディスとトム・ブランソン(亡き三女シビルの夫で、アイルランドの労働階級出身)も同席する。
伯爵はトムと女教師バンティングとの仲を疑っているので(その情報を悪意的に伯爵に耳打ちしたのは副執事トーマス・バロウ)、彼が学校に行くことを快く思わない。

いっぽうローズはトムとバンティング先生との仲を応援する。
その背後には、前シーズンでローズ自身が、黒人のジャズマン、ジャック・ロスとの身分違いの恋を失った悲しい経験がある。

土曜は伯爵夫妻の34回目の結婚記念日。晩餐会を開くことをメアリが提案すると、伯爵は、
〈だったらお前たちの友だちを呼びなさい。年寄りだけではつまらん。たまには若者と交流したい〉
とうっかりしたことを言う。
それを聞いてローズは、よりにもよってバンティング先生を晩餐会に呼んでしまった。この展開にブランソンは気まずい。

バンティング先生は晩餐会で、つけつけと遠慮のない物言いで、ローズの友人キティや伯爵の不興を買う。とくに、慰霊碑は無意味な出費だと言ってその場を凍りつかせるのは、下品といえば下品な態度だ。

見かねたカーソンが、伯爵の面目を保とうとして、ここである行動に出るのは名場面。
男はプライドで生きたがる哀しくも阿呆な生きものだ。そのガラスのアイデンティティの割れやすさを知るのはやはり同性、しかも貴族社会を守りたいカーソンだったのだろう。

レイディ・ヴァイオレットのひとことも刺さる。
〈信念は祈りと同じ。尊いものだけど、パーティには不適切よ〉

こちらから見たら愚劣なものを、他人が大事にしていて、ときにはそのせいでこちらが不利益をこうむることもあるだろう。それでも、自分が彼らと飯や酒をともにして同席している場面では、その価値を下げる発言を(たとえ正しくても)したくない。それは目も当てられない野暮天のすることだ。

複数の男を天秤にかけ続けるモテ女・メアリ


土曜日にはレイディ・アンストラザーだけでなく、長女メアリに求婚しているトニー・ギリンガムも偶然やってくることになった。
トニー、ブランソンと3人で兎狩りに出たメアリは、まだ彼の求婚に答えを出せない、1度目の結婚と同じくらい幸せになれる確信がほしい、とトニーに告げるが、トニーはその晩、メアリに驚くべき案を提示する──。

トニー本気出してます。モテ女メアリ、さあどうする? いつもの性格の悪さ炸裂か?

デイジーのキャリアアップは成功するか?


何人もの使用人が、伯爵家での仕事をやめて、もっと効率のいい現代的な仕事についてしまった。キッチンメイドのアイヴィも、前シーズンの最後に伯爵夫人の弟ハロルドに雇われて渡米してしまった。
人手が足りず、残った使用人たちは大わらわだ。

アイヴィと犬猿の仲だった料理人助手のデイジーは、忙しくなったぶんイライラ。料理長パットモアに当たり散らしてしまう。

デイジーは亡夫ウィリアム(といっても第2シーズンで、死の床で結婚式を挙げただけで世を去った)の父メイソン氏から、農場の後継者にならないかと誘われている。
だけど、数字が苦手なので経営を引き受ける自信がない。通販で算術と原価計算の入門書を取り寄せるが、うまく内容をのみこめず、「自分は頭が悪い!」とイラついている。
女性の自立、さらにはキャリアアップが、いよいよ主題として浮上してきた。

ジミーの旧悪


第1話では、使用人たち──とくにジミー、バクスター、ベイツ──の過去が、現在の使用人たちを苦しめる。
ハンサムで軽薄な下僕のジミーは、前の雇主レイディ・アンストラザーからのしつこい手紙に悩まされている。前の家で彼は、この〈美しいが思慮に欠ける女性〉(伯爵の評)とちょっとした「火遊び」をやらかしたのだ。

ダウントンに転職してからも、ジミーは彼女に気を持たせるような手紙のやり取りをやめることができないでいた。
レイディ・アンストラザーはぐいぐい迫ってくる。土曜にドライヴで村を通るから、その途中で寄りたいと、伯爵家に電話してきたのだ。

当日やってきたレイディ・アンストラザーは、車が壊れたと嘘をついて村の宿に泊まると言うが、伯爵夫人が晩餐会に誘い、屋敷に泊まるように言う。ジミーにとっては気まずい再会だ。
レイディ・アンストラザー「ジミー、お仕置きが必要ね。私の手紙を無視するなんてホントに悪い子」

どうするジミー!?
……
……結局そうしたかジミー……。
〈美しいが思慮に欠ける女性〉にはハンサムで軽薄な下僕がお似合いなんだな……。

ベイツを陥れたいトーマス・バロウ


伯爵の従者ベイツと長女メアリの侍女アンナの夫婦は、前シーズンでの危機を乗り越えているように見える。
しかし副執事トーマス・バロウは相変わらず、彼ら夫婦の弱みを探っている。グリーン(メアリの求婚者トニーの従者)の急死がベイツとなにか関係があるのではないかと嗅ぎつけているのだ。

グリーンは前シーズンで、ダウントン滞在中にベイツの妻アンナをレイプした。この件はメアリなどごく一部の人しか知らない。そしてグリーンはロンドンで急死した。ベイツに殺害されたのだろうか……?
今回、なにも知らない執事カーソンは、ダウントンにやってきたトニーの従者役をベイツに担当させる。

モウルズリー、バクスターを守る


トーマスは邸内の動静を、伯爵夫人コーラの侍女バクスターに探らせている。そもそもバクスターは、トーマスの口利きでダウントンに転職した。トーマスに弱みを握られていて、脅されながらいやいやスパイのようなことをさせられている。でも、もう限界だ。

バクスターがトーマスに脅されるたびに、下僕モウルズリーが助け舟を出す。この展開が、前シーズン終盤から繰り返されている。
モウルズリーは第3シーズンではマシュー(長女メアリの夫)の執事だったが、マシューの死で失職したあとしばらくは肉体労働に就いていた。

要領が悪く、いつも間が悪い。そのくせプライドばかり高いせいで、下僕としてダウントンに復職するにあたっても、いろいろとみっともない言動を繰り返すコメディリリーフ担当だった。

しかし恋というのはすごいものだ。トーマスの脅迫からバクスターを庇おうとするモウルズリーはなかなかカッコいい。
肉体労働の経験でものすごい筋力を身につけてしまったことも前シーズン終盤に判明。

バクスターは、言うことを聞かないと奥さまに旧悪をバラすぞトーマスに脅されていた。しかしモウルズリーに励まされて、奥さまに自分の〈恥ずべき秘密〉を告白する。

バクスターは前の雇主の宝石を盗んで、服役していたのだという──。
伯爵夫人はバクスターを責めず、逆に、その経緯を隠してバクスターを推薦したトーマスの責任を追及する。トーマス株、急落!

イーディスの隠し子問題


次女イーディスは、前シーズン、娘マリゴールドをスイスで密かに出産した。
いまは知人の娘という触れ込みで密かに小作人のドリュー夫妻に育てさせている。
イーディスはドリュー家までマリゴールドにちょいちょい会いに行く。あまりに頻繁なので、ドリューの妻マージーはイーディスが夫に気があるのではないかと勘ぐってしまう。

最近消防団長になったドリューは妻に、自分の知人の遺児だと説明していた。
しかし彼はマリゴールドがイーディスの隠し子であることを見抜いていた。息子が学校で成績優秀者として表彰された日の翌日、彼はそのことをイーディスに告げる。

家政婦長ヒューズは掃除をしていて、イーディスの部屋の片隅で、編集者グレッグソンの署名のあるドイツ語の教科書を発見する。
グレッグソンの妻は重い精神疾患で離婚の意思表示ができず、英国の民法では離婚できない。隠し子の父である彼は、イーディスと結婚するため、ドイツ国籍を取得しに渡独したまま、どうやらトラブルに巻き込まれたらしく、消息を絶って久しいのだ。
ヒューズに恋人の遺品を渡され、イーディスは深く動揺する。

これが伏線となって、映画『風と共に去りぬ』の火事シーンのようなシークェンスとなるのだ。


(第5シーズンの予告篇でここを一瞬見て、第5シーズン最終回が火事?と思ってたから、いきなり第1話で出てきたのでびっくりした)

この前後、性的マイノリティに属するトーマス・バロウの下僕ジミーへの思い、そのジミーのスキャンダラスな解雇、バクスターの一件で急落したトーマス株の偶然による急騰、消防団長ドリューの活躍と、まるでピタゴラ装置のように「仕掛け」が連動していく。今シーズンもジュリアン・フェロウズ脚本の精妙な作劇に溜息が出ます。

今週の名場面


毛染めをしたモウルズリーは、意中の人バクスターとシリアスな会話中に頭を変に傾けて不審がられる。気づいてもらえないんだなー。
モウルズリー「私はどう見える?」
バクスター「湿疹でもできたの?」
モウルズリー「そうじゃなくてさ……私は、いくつに見える?」
バクスター「そうねえ。52とかそのくらい?」
モウルズリー「うーむ……」
バクスター「ねえ、いくつなの?」
モウルズリー「51だ」
年相応!

気づいてほしい人には気づかれないが、カーソンやヴァイオレットには毛染めがバレバレだ。

伯爵「モウルズリー、なんだか急にラテン系に見えるが…先祖はイタリア人か?」
モウルズリー「いいえ旦那さま、違います」
伯爵「スペイン人? アイルランドか?」

急にラテン系に見えるってwww。

ご機嫌斜めの伯爵(カーソンに)これ以上髪が変色しないうちに、「モウルズリーを引っ込めろ」

ちょっとシリアスも担当できるようになったモウルズリーは、コメディリリーフも手放さない。
(千野帽子)