写真=アフロ

スピーキングの技術を身につけたいとき、上手な演説を真似るのが一番といわれる。スピーチライターの蔭山さんに、名演説を紹介してもらった。実際に声に出して練習してみよう。

ジョン・F・ケネディ●John Fitzgerald Kennedy
1917年、マサチューセッツ州生まれ。第35代アメリカ合衆国大統領。米ソ冷戦中の就任演説は、初めてスピーチライターを使ったとされている。在任中の63年に暗殺される。
▼演説内容
独立戦争と同じく「人間の権利は国家の寛大さではなく神の手からなるもの」との信念のもと、自由の存続と繁栄のため、いかなる代償、負担、困難にもひるまず、友を支援し、敵と対峙する。国家が自分に何をしてくれるかではなく、自分が国家に何ができるのかを問うてほしい。この地上では、神の所業は我々自身の手で成し遂げなければならない。※下記は演説の後半部分

 

▼大統領就任演説 Inaugural Address Of The President

In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility-I welcome it. I do not believe that any of us would exchange places with any other people or any other generation. The energy, the faith, the devotion which we bring to this endeavor will light our country and all who serve it-and the glow from that fire can truly light the world.

世界の長い歴史の中で、最大の危機を迎えたときに自由を守る役割を与えられた世代はごくわずかに過ぎない。だが、私はこの責務にひるまない。喜んで引き受ける。我々のうちに、他の国の人や他の世代と立場を交換しようとする人がいるなど思えない。この試みに捧げるエネルギー、信念、献身が、わが国とわが国に仕えるすべての人々を明るく照らし、その光が発する輝きこそが真に世界を照らす。

And so, my fellow Americans:ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country. My fellow citizens of the world:ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.

だからこそ、国民のみなさん、国家が自分のために何をしてくれるのかを問うのではなく、自分が国家のために何ができるかを問うてほしい。世界各国のみなさん、アメリカが自分のために何をしてくれるのかを問うのではなく、人類の自由のために、ともに何ができるかを問うてほしい。

Finally, whether you are citizens of America or citizens of the world, ask of us here the same high standards of strength and sacrifice which we ask of you. With a good conscience our only sure reward, with history the final judge of our deeds,let us go forth to lead the land we love, asking His blessing and His help, but knowing that here on earth God's work must truly be our own.

最後に、アメリカ国民であれ、他国民であれ、我々がみなさんに求めるものと同じ高水準の強さと犠牲を我々にも求めてほしい。良心の安らぎを唯一確実な報酬と考え、我々の行為の最終審判は歴史に委ね、神の祝福と助けを求めながら、この地上では神の御業はまさに我々自身の手で成し遂げなければならないと自覚しながら、愛する国を導いていくために前に進もう。

■アメリカのスピーチ文化を理解するよき材料

この演説は、リンカーンのゲティスバーグ演説(http://president.jp/articles/-/20724)を下敷きにしています。「自由の祝福」というテーマも、共産主義対自由主義の戦いの中での言葉です。前半に出てくる「神の手から生まれた信念」という考え方も同じです。

ケネディのスピーチから学ぶべきは、もっとも重要なことを、どのように伝えるかという点です。言葉、表情、身振り、姿勢、振る舞いすべてを駆使し、バーバル、ノンバーバルの両面で、エネルギーを伝えています。スピーチの最初は、抑制しながらゆっくり始め、聴く人だれもが否定しない言葉を並べながら、距離をとって聴衆を巻き込んでいきます。徐々にエネルギーを加えていき、この演説のピーク、「国家があなたに何をしてくれるかではなくて、あなたが国家に何をできるか」のときには、怒鳴り声に近い声で、普通なら決してイエスと言わないようなこと、たとえば「国家のために死んでくれ」ということに対しても、喜んでイエスと言う雰囲気を醸成していきます。

ビジネス上のスピーチで総じて思うのは、「パワー不足」ということ。スピーチは言葉に意識が向きがちですが、歌やダンスに近いのです。ケネディの話し方はそれを教えてくれます。

(野崎稚恵=構成、翻訳 葛西亜理沙=撮影 写真=アフロ)