写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●売り手も買い手も変わる
オンラインショッピングの代名詞となっているアマゾンが、コンビニを出店する。そんな驚きとともに登場したのが、シアトルでベータテスト中の「Amazon Go」だ。しかも、チェックアウトレス、すなわち、レジがない店舗を実現したのだ。このAmazon Goがもたらす、3つの変化を示してみたい。

○ショッピング体験を変える

アマゾンは、Amazon Goについて紹介するビデオを公開している。このビデオでは、我々がAmazon Goでどんな体験をするのかを知ることができる。

単純に紹介すると、スマートフォンにバーコードを表示させてゲートで読み込ませ、好みの商品を選び、選び終わったら店を出る。これだけだ。途中で商品を棚に戻せば、その分はきちんとキャンセルされる。

背後では、店内で誰がどんな商品を手に取ったり、カバンに入れたかを認識し、店を出るときに商品の金額をAmazonアカウントで決済する。こちらも非常にシンプルな説明で片付くことをしているに過ぎない。

しかし、このショッピング体験は、非常に自然なものだ。顧客は、ショッピング中にスマホを商品にかざしてバーコードを読み取ったり、専用の買い物カゴを用いて商品のRFIDを読み取らせたり、商品の重さをレジに認識させる、といった面倒な、あるいは慣れない行動を取らなくて良いのだ。

新しいことといえば、「万引きっぽい」というばつの悪さに慣れること程度だろう。

○小売店を変える

米国で24時間営業の店を見つけることは、いくら治安が良い都市でも難しい。米国で暮らしていると、日本の都市部では終夜営業が当たり前のコンビニには、本当に感動するのだ。犯罪のリスクはもちろんだが、夜通し営業するだけのコストを、売上で賄えないことが原因だろう。

全米で床面積あたりの売上トップの小売店は、長年アップルがその地位を確保してきた。そのアップルも、Apple PayとApple Storeアプリを用いたセルフチェックアウトを採用している。未来のショッピングの風景のようにも映るが、そもそもApple Storeは既にレジを廃しており、店員が各自のiPod touchで決済をしてくれる仕組みを採用している。

Apple Storeでのモバイルセルフチェックアウトは、店員がやっていた商品のバーコードスキャンと決済部分が、ユーザーのアプリにも機能として備わっただけだ。裏を返せば、訪れる全ての顧客に対応するだけのスタッフがいないことを表しており、未来のショッピング体験というのは厳しい。

Amazon Goは、商品の陳列やサポートの要因は必要かもしれないが、それ以外のオペレーションをすべて、テクノロジーによって解決している。しかも、できるだけ自然な(しかもおしゃれさがある)小売店の店舗デザインを踏襲しており、作る方も使う方にも、ストレスが少ないだろう。

●テクノロジーがより身近に
○テクノロジーを実生活へと変える

Amazon Goを実現する技術は、アマゾンによると「自動運転車のものと同じ」だという。

コンピュータビジョンは、ユーザーが入店してバーコードを読み取ってから、カメラで顔を認識し、どこにいるかを、何をしているかを追跡する。

センサーフュージョンは、ユーザーが何の商品を取ったかを認識するのに使われているようだ。そして、深層学習アルゴリズムによって、これらが解析され、正確なユーザー行動、すなわち何を手に取り、何を戻したか、という情報を認識する。

個別の技術がトレンドであり、未来の生活に役立つ要素技術になることは頭では理解できる。そしてその存在も知られてきた。しかしそれがどのように利用されるのか、という実例がなければ、なかなか理解しにくいのも事実だ。技術そのものは、既に我々が知っている恐れるべきものではない。 こうした点でAmazon Goは、これらのテクノロジーによって、我々の生活がどのように変わるのかを提示してくれた。

これが、米国のメディアが大きく注目した理由でもあり、未来への理解を助ける貴重な実例なのだ。もちろん、Amazon Goを利用する顧客のデータはアマゾンに集まるだろう。

顧客データは、「データ史上主義」となっているシリコンバレーのスタートアップも収集している。ただし、実店舗がある点が、決定的に違うのだ。ただショッピングを快適にできれば良い。より直接的なゴールがそこにあるからで、データを顧客体験の向上へと読み替える必要はないのだ。

●アマゾンが身近な存在に変化
○アマゾンの着実な進化

筆者は米国カリフォルニア州バークレー市で暮らしているが、アマゾンに関する変化を経験している。まず、街のカフェなどには、アマゾンのロゴが描かれたロッカーが置いてある。昼間留守にしていることが多い学生が、カフェのロッカーでオーダーした商品を受け取れるようにするための工夫だ。

ついには、カリフォルニア大学バークレー校のキャンパスの中にも、アマゾンが出店し、同様のロッカーとKindleシリーズの展示販売が行われるようになった。あるいは、こうしたキャンパス内にAmazon Goができれば、学生の興味を引き、優秀な人材集めにも一役買うかもしれない。また、バークレーにはアマゾンの配送センターが既に設定されており、配送についても、これまで非常に評判が悪かったOnTracから、「Amazon」のトラックとスタッフによる配送へと切り替わった。

Amazon Goは、本社があるシアトルに2017年に開店する予定だが、サンフランシスコのショッピングセンターにはKindleのポップアップストアの1号点ができ、周辺のCostcoなどの商品を配送してくれるAmazon Freshも利用することができる。

さらに、Amazon Booksという実店舗は、オンラインで人気の書籍を面出しで展示し、オンラインと同じ価格で販売する非常にトレンドに敏感な書店を打ち出した。これまでの書店を閉店に追い込んできたアマゾンが本屋を出すことには、批判的な見方もあるが。

Amazon Goは、これまでテクノロジー業界が、決済のスマート化に注力してきたトレンドを、きちんと「ショッピング体験のスマート化」へと推し進めた点を評価すべきだと考えている。また、こうしたチェックアウトレスの技術は、書店や衣料品などの店舗にも利用でき、既存の顧客データとの組み合わせは、さらに新しい購買体験へと開花するだろう。

(松村太郎)