覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された歌手のASKA容疑者と執行猶予中の清原和博氏。若くして栄光を極めた二人が、覚醒剤に手を出してしまったのはなぜでしょうか。“おカネ”の観点から読み取ります。

「いけないとわかっていてもクスリに手を出してしまう気持ちはわかる。若い時に何千、何万人の前で浴びる喝采。自分の一挙手一投足を羨望の目で数万人が見ている。あの時の快感を経験した人間には、その後の人生は長すぎる」

 知人の舞台俳優の言葉には、若くして注目された人間の悲哀が含まれています。先日、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された歌手のASKA容疑者と、現在執行猶予中の清原和博氏――。若くして栄光を極めた二人が、人生のピークが過ぎた後の寂しさやプレッシャーから逃れようと、覚醒剤に手を出してしまったことは想像にかたくありません。

 若くして成功した人間の「その後」についてファイナンシャルプランナー(FP)の筆者が“おカネ”の面から考えたいと思います。

キーワードは「税金」と「派手な生活」

 ミュージシャンやプロスポーツ選手の成功には、おカネがついてきます。彼ら彼女らは若くして大金を手にしますが、その後、数年で困窮する人も少なくありません。一般論として高収入の時期はそう長くは続かないため、ピークの後に備えて貯蓄をしておく必要がありますが、これが意外と難しいのです。

 その要因は「税金」「派手な生活」の2つで両者は密接に関係しています。よく「野球選手や芸能人の年収の半分は税金」と言われますがこれは真実です。日本の所得税と住民税の最高税率は55%(所得税45%、住民税10%)。しかし、これがまるまる年収にかかるわけではなく、個人事業主扱いであるプロスポーツ選手やミュージシャンは年収から経費を差し引いて、残った部分に課税されます。

 たとえば年収3億円の場合、経費を2000万円とすると残りの2億8000万円に税金がかかる計算(2億8000万円×55%=1億5400万円)。つまり、年収3億円に対して半分が税金なのです(簡略化のため各種控除は考慮せず)。私たち一般人は「それでもすごいおカネが残るじゃないか」と思うかもしれませんが、年収の半分も税金で取られるのは本人としては嫌なものでしょう。

使うおカネの半分は「補助」?

 野球選手であれば、打った球や投げた球の半分、ミュージシャンならばアルバムや楽曲の半分は税金のため。そこで「節税」を試みるのですが、一番手っ取り早いのは「経費を増やすこと」です。先ほどは経費2000万円としましたが、これを増やせばその分、税金が減ることになります。たとえば経費が1億円であれば残りの2億円に税金がかかり、税金は1億1000万円。経費2000万円の時より4400万円も安くなることになります。

 そうなると「どうせ税金で取られるのなら使ってしまおう」という発想が生まれます。それまでは「仕事の半分は税金のため」だったのが、使えば使うほど税金が安くなるので「使うおカネの半分は税金が補助してくれる」感覚に陥るのです。そして、せっせとおカネを使います。

「年間1億円を使う生活」は当然派手で、結局のところおカネは残りません。少し感覚的な話ですが、収入の1〜2割が残ればまだ“優秀”なほうではないでしょうか。年収3億円の人であれば3000万〜6000万円ほどです。中には貯金ゼロどころか借金の方が多い、という人もいるでしょう。

 有名人であっても、実際には周りが思っているほどおカネを持っていない、ということがよくあるのです。高収入が長続きするわけではなく、収入が減れば当然、派手な生活を維持することはできません。

覚醒剤が成功の“代償”であるならば…

 一方で、プロスポーツ選手とミュージシャンでは少し事情が異なります。プロスポーツ選手は引退の翌年から無収入になりますが、ミュージシャンは基本的に引退がなく「何となく稼げる」特徴があります。ヒット曲があれば、コンサートやイベントのお誘いがあり、それなりの収入を得ることもできます。

 そして何よりも大きいのは印税です。ASKA容疑者もご多分に漏れず、逮捕後もカラオケの印税などで2000万〜3000万円程度の収入があったといいます。つまり「権利」を持っているミュージシャンはピーク後も稼ぐことができると言えます。しかし、冒頭の話のように「その後の人生」は長く、おカネさえあれば満たされるという話ではありません。

 活躍の場を失い、人から注目されることもなくなった人が、過去の栄光を思い出すために覚醒剤に手を染める――。同情の余地はありませんが、それも成功の“代償”であるとすれば、「切ない」としか言いようがありません。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)