「Nintendo Switch | 任天堂」より

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 ついに、待望の次世代ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」を発表したゲーム業界の巨人・任天堂。スマートフォン(スマホ)向けゲームアプリ「ポケモンGO」やリオデジャネイロ五輪閉会式の「安倍マリオ」、さらにスマホアプリ「スーパーマリオラン」などによって、任天堂のコンテンツ力があらためて注目を集めている。

 しかし、いくら新しいゲーム機を発表し、キャラクターが再注目されても、任天堂の厳しい現状に変わりはないという。そこで、任天堂が持つ企業体質をあらためて検証したい。

●任天堂、キャラビジネスに本格進出か

「任天堂の倒し方、知ってますよ」

 これは、かつてモバイルゲームで大きな収益を上げていた企業の面接官が言ったとされるセリフだ。この企業は、スマホ市場のトレンドに乗り切れずに没落した。

 一方、何が起きても山のように揺るがなかった任天堂が、ここにきて大きな動きを見せている。

 今年7月にリリースされた「ポケモンGO」が大ヒットすると、8月のリオ五輪の閉会式では安倍晋三首相がスーパーマリオに扮した「安倍マリオ」で登場、マリオが超人気キャラクターであることをあらためて世界にアピールした。9月には「スーパーマリオラン」を12月に配信することを発表し、「いよいよ、マリオがスマホに進出する」とセンセーションを巻き起こした。

 また、任天堂はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)と提携し、マリオなどのキャラクターを使った新アトラクションを建設することも発表済みだ。

「これらのプロジェクトは、まだ任天堂に利益をもたらしていません。しかし、これまでかたくなに家庭用ゲームだけをつくり続けていた任天堂が、ようやくマリオやドンキーコングなどの版権を開放し、本格的にキャラクタービジネスを展開しようとしている。これは、大きな変化といっていいでしょう」

 そう語るのはゲームライターだ。そして、そんななかで今年10月に発表されたのが、次世代ゲーム機「ニンテンドースイッチ」である。

●ニンテンドースイッチは期待はずれ?

 スペックや対応ソフトなどはまだ明らかになっていないが、ニンテンドースイッチは携帯機と据え置き機のコンバーチブル仕様による、まったく新しいゲーム体験をうたっている。

 しかし、ゲーム業界では、このニンテンドースイッチは任天堂の「終わりの始まりなのではないか」ともささやかれている。たとえば、ゲームアナリストのA氏は、険しい表情で「まったく評価できない」と語る。

「ライトなゲームユーザーはスマホで満足しており、逆にヘビーユーザーが多い家庭用ゲーム機はハイエンドなものが求められている。ニンテンドースイッチの仕様では、どっちつかずの中途半端なものになってしまうだろう」(A氏)

 前出のゲームライターも、「ニンテンドースイッチには目新しさがない」と指摘する。

「モバイルと据え置きのハイブリッド機をうたっていますが、家に置く『ドック』は液晶付き本体への給電、そしてテレビモニターに出力するだけの装置と考えられており、実質的にはただの携帯ゲーム機といえそうです」(ゲームライター)

 ニンテンドースイッチに厳しい視線を向けるのは、株式市場も同じだ。現在、携帯ゲーム機市場は任天堂の「ニンテンドー3DS」シリーズが圧倒的シェアを誇っている。ところが、ニンテンドースイッチはその後継機ではなく、「3DS」との互換性はないというのだ。

 こうした発表が、市場にも「ニンテンドースイッチは期待はずれ」と伝わったのか、任天堂の株価が急落。ファミリーコンピュータ時代の旧作を集めた「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」が多少ヒットしているものの、ただでさえ売り上げの芳しくない現行機の「Wii U」は、新機種発表によって買い控えが加速することが必至だ。「今年の任天堂の年末商戦は絶望的」ともいわれている。

 では、なぜ任天堂はニンテンドースイッチの発表でゲーム市場にインパクトを与えることができなかったのだろうか。前出のA氏は、その原因は「任天堂の旧態依然とした体質にある」と指摘する。

「任天堂は、かつての成功体験から抜け出せず、利権を独占することしか考えていない。これでは、一般のユーザーはもちろん、ソフトメーカーからも見放されてしまうのは当然だ」(A氏)

●任天堂、「スイッチ」でも失敗を再現か

 1889年に京都で創業された任天堂だが、昔はかるたやトランプなどを製作する中小のおもちゃ会社にすぎなかった。

 しかし、1983年に発売した家庭用ゲーム機「ファミコン」が爆発的なヒットとなり、世界有数の大企業に成長する。そこで築き上げたのは、ゲーム機本体を安く売って市場を形成し、ゲームソフトを供給するメーカーからライセンス料を徴収するというビジネスモデルだ。

「任天堂は、メーカーに開発機材を売りつけ、ライセンス料を取り、ソフトの製造まで独占的に受託していました。実質的に、ゲームそのものが売れなくても利益を確保できる構造になっているのです」

 そう話すのは、別のゲームアナリストのB氏である。任天堂は、やがて流通やメディアまでをも掌握。90年に発売された「スーパーファミコン」の時代は、ソフト1本の価格が1万円を超えることも珍しくなく、任天堂は莫大な利益を享受する。

「ニンテンドースイッチも、ソフトは『ゲームカード』という独自規格で供給すると発表されました。ダウンロード版での供給もあるでしょうが、いずれにせよ、これはユーザーの利便性のためではなく、任天堂の利益率を高めるための仕様です」(B氏)

 現行機の「Wii U」の失敗はソフト不足にあるといわれるが、ニンテンドースイッチは発売初年度からかなりの数のソフトを揃えるともアナウンスされている。しかし、それも実現されるかどうかは疑問が残る。前出のゲームライターが語る。

「ニンテンドースイッチは独自仕様なので開発の障壁が高く、多くのソフトを揃えるのは難しい。ただでさえ、任天堂の場合、スポーツゲームやテーブルゲームなど、どの機種でも売れる『定番ソフト』は自社で開発してしまいます。

 アクションゲームも『スーパーマリオブラザーズ』にはかなわず、他ジャンルのソフトもファミコン時代から続くシリーズものがいまだに人気なので、新規メーカーがつけ入る隙がないのです。そのため、斬新なアイディアを持つメーカーは、ニンテンドースイッチではなく、より自由な環境かつヒットしたときの儲けが大きいスマホゲームに流れ込むはずです」(ゲームライター)

 いくらゲーム機本体が真新しくても、そのビジネスモデルやメーカーの顔ぶれが旧態依然としていれば、似たようなものしか生まれない。ニンテンドースイッチは、「固定ユーザーが喜ぶシリーズものが出揃ったら終わり」という、これまで散々繰り返されてきた歴史を再現する可能性が高い。

 任天堂は、このまま「京都の老舗」として昔からの体質を引きずるのか、それとも、新たなエンターテインメントを提供できる企業に“スイッチ”できるのか。その結果は、1年後には判明しているはずだ。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)