参議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会に出席する安倍首相(「首相官邸 HP」より)

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 9日、TPP(環太平洋経済連携協定)関連法案が野党の反対を押し切り賛成多数で可決され、成立した。これで日本はTPPを批准したことになる。しかし、米国のトランプ次期大統領がTPP離脱を明言しており、TPPが発効する見通しはない。TPPは、域内12カ国全体の国内総生産(GDP)の85%を超える、6カ国以上の承認がなければ発効されない規定となっている。米国は同60%を占めており、米国がTPPを承認しない限りTPPは発効しないのである。

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http://biz-journal.jp/2016/12/post_17439.html

 では、このトランプ次期政権との日米FTAで、日本はどうなるのであろうか。それを考える上で重要なことは、トランプ次期政権がTPPは最悪な貿易協定であるとし、TPPではなく二国間自由貿易協定で米国の国益を最大限にするとしている点である。日本は、トランプ新政権の誕生によって、日米FTA交渉に直面することになる。

 日米間の貿易では、米国としては小麦、トウモロコシ、大豆、牛肉、豚肉、コメなどの戦略的農畜産物輸出と、自動車、トラック、自動車部品などの輸入が基幹的貿易関係となっている。米国の国益を最大限にするならば、トランプ次期政権はTPPで約束した以上の農畜産物の輸出拡大と、それを担保するための日本の重要農畜産物にかけられている高関税率の引き下げ、さらに自動車、トラックおよび自動車部品ではTPPに定められた関税率の引き下げ撤回を要求してくることになる。

 このことは、日本にとっては牛肉、豚肉、コメの関税撤廃を求められ、日本のコメ生産、牛肉や豚肉の畜産生産が深刻な打撃を受けることになるであろう。それは、日本の農・農村の存立を大きく脅かし、食料自給率のさらなる低下、水田などの耕地荒廃の進展で、国土の保全にも脅威を与えることになるであろう。

●食の安全やサービスにも大きな脅威

 問題は、それだけではない。日本の食の安全やサービスにも大きな脅威となるのである。米国通商代表部は、毎年「外国貿易障壁報告書」を出している。ここで米国政府は、貿易相手国の関税および非関税障壁を絶えずチェックし、その障壁の撤廃を相手国政府に求め続けている。それは当然、日米FTAのような貿易交渉で要求されるものである。2016年の同報告書(出典:16年4月衆議院調査局農林水産調査室)で日本について見てみる。

(1)食品添加物

「日本の食品添加物の規制は、いくつもの米国食品、特に加工食品の輸入を制限している。米国および他の市場で広く使用されている数多くの添加物が、日本では認可されていない」

(2)収穫前・収穫後に使用される防カビ剤

「日本は、収穫前に使用される防カビ剤を農薬に、収穫後に使用される防カビ剤を食品添加物に分類している。(略)それは、さまざまなかたちで米国の生産者に影響を与える。(略)米国は、また、日本が、収穫後の防カビ剤で処理された製品について、各化学物質の記載や販売時にこの種の処理がされたことを示す文言の表示の義務を課すことを憂慮しており、これらは、当該製品についての需要を阻害する」

(3)共済

「協同組合が経営する保険事業、すなわち『共済』は、日本における保険業界において相当な市場のシェアを保有している。『共済』の中には、すべての民間保険会社を規制している金融庁(FSA)に代わり、当該組織を所管する省庁(例えば農林水産省や厚生労働省)によって規制されているものがある。これらの別々の規制スキームは、各規制環境を生み出すとともに、競争相手の民間企業に対して重大な業務上、規制上、その他の優位性を『共済』に与えている。米国政府は、また、『共済』に対する金融庁の監督権限が限定的であることに引き続き懸念を有している」

●「TPP以上」に厳しい要求

 では、以上の内容がどのような意味を持っているのか、以下にみていきたい。

(1)食品添加物

 米国では食品添加物数は2553品目あるのに対して、日本は1497品目であり、1000品目以上の差がある。日本で使用を認められていない食品添加物を使用した加工食品は、日本に輸出することができない。米国政府は、米国で使用を認められている食品添加物で、かつ日本で使用を認められていない食品添加物を認可するよう求めており、日米FTAでも重要なテーマになることは必至である。

(2)収穫前・収穫後に使用される防カビ剤

「OPP」や「TBZ」は、輸入レモンや輸入グレープフルーツなどに表示されている防カビ剤である。米国から輸出される際に散布され、レモンやグレープフルーツに輸送中カビが発生することを防いでいる。OPPやTBZは米国ではポストハーベスト農薬だが、日本では食品添加物扱いで、表示義務が課せられている。米国政府は、その表示が輸入レモンや輸入グレープフルーツの売れ行きを阻害していると考えており、表示義務撤廃を求めている。これも日米FTAでは重要なテーマとなる。

(3)共済

 共済は、日本の保険市場の契約件数で約2割を占めている。米国の保険会社は、共済との「競争条件の同一性」が確保できれば、共済分野にも自らが進出し巨額な利益を確保できると狙っている。

 当然、TPPで日本政府が米国政府に対して示した関税撤廃と非関税撤廃の水準は、日米FTAの出発点になる。つまり、日本にとってTPPより緩い水準になることはあり得ないのである。それだけ、日本の農林水産業と食の安全にとって、日米FTAは脅威なのである。
(文=小倉正行/フリーライター)