いよいよ師走。慌ただしさが増す季節だが、皮膚の乾燥と“かゆみ”に悩まされる時期でもある。原因は様々だが、あまりのかゆさに耐えきれず、ついつい掻きむしって皮膚に傷をつけ、細菌による感染症を発症することもあれば、腎不全などの機能障害を起こすこともあるという。
 順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所所長で、かゆみの最新研究を行っている高森建二氏は、自らの著書で「かゆみは重大病のサイン」と記している。

 かゆみを引き起こす主な原因は、肥満細胞から分泌される「ヒスタミン」という物質だ。これが皮膚中にあるかゆみを感じる神経に結合することでかゆくなる。代表的な病に「じんましん」があり、見た目も赤く腫れるなどの異変が起こるが、抗ヒスタミン薬を飲めばほとんどが治る。
 しかし、それでも治らないかゆみもある。
 「それを“難治性のかゆみ”と呼んでいます。主に皮膚の乾燥によって生じますが、保湿剤をいくら塗ってもまったく効かない場合は、重大病を疑わなくてはなりません」(高森所長)

 つまり空気の乾燥が原因ではなく、体内に生じた病の影響により皮膚が乾燥して起こるかゆみが危ないという。その疑われる病は、いくつもある。中でも多くみられるのが、腎不全などの腎機能障害だ。
 「慢性腎不全や尿毒症になると、『オピオイド』と呼ばれる体内物質のバランスが崩れ、オピオイド自身が、かゆみを抑えるオピオイドより多くなるのです。人工透析でも強いかゆさが続き、長年、多くの患者が悩まされてきました。しかし近年、かゆみを起こすオピオイドを抑える薬が開発され、救われた方もいます」

 都内で皮膚科クリニックを開く日本皮膚科学会会員の木下和子院長は、重ねてこう言う。
 「難治性のかゆみとしては、他にも、肝硬変や肝臓を患うことで併発する原発性胆汁性肝硬変もあります。肝臓の中の胆管が炎症によって破壊され、胆汁中のビリルビン成分が全身に回り、激しいかゆみを生じさせるのです。これまでは原因不明とされてきたが、オピオイドの存在の発見により、ナルフラフィン(カッパーオピオイド受容体作動薬)の効用も確認されています」

 木下院長によれば、はっきりしたメカニズムは分かっていないが、胃、肝臓、腎臓、膵臓がんも、かゆみの原因になるといい、症状の報告は多いという。また、がん細胞がかゆみを起こす何らかの問題を起こしているとも考えられ、がんの摘出によって、かゆみが治まったという例もある。
 「難治性のかゆみと診断されたら、内臓悪性腫瘍のチェックも必要です」
 と木下院長は言う。

 他にも、HIV感染症、甲状腺機能異常症、血液の病など、難治性のかゆみを生じさせる病気は数多くある。そのため病気の特定も難しく、医療機関には原因不明のかゆみに苦しむ患者が多く訪れる。
 「難治性のかゆみと病気の関係は、まだはっきりと解明されていないことも多く、世界中で研究が進められています。ただ、いずれにしても、かゆみは身体からの危険信号と言っていいでしょう」(医療関係者)

 ところで、かゆみと言えば、一般的には乾燥肌によるものを指す。これを専門家に分かりやすく解説してもらうと「皮膚から水分が蒸発してしまった状態」だそうだが、因果関係で説明すると次のようになる。
 「肌から水分が蒸発してなくなると、刺激に対するかゆみの“闘値”が低くなります。その要因は、アトピー性皮膚炎などの遺伝的な体質や、加齢からくるもの、あるいは石鹸などの化粧品類からくる後天的なものも考えられます。いずれにせよ、きちんと診断を受けた上で、それに沿った治療をすることが大切です」(同)