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飛行機の話が3回続いたので、艦艇の話も取り上げてみよう。身近なところでも、意外と事例があるものである。ただし、手をつけるのは主として中身だから、外から見てもわからないことが多いのがおしい。

○改修を実施する場面いろいろ

艦艇も戦闘機と同様、センサー・通信機器・コンピュータ・電子戦装置といったあたりの更新は頻繁に行われている。つまり「軍事とIT」の領域に関わる分野が主体である。だから同じ艦の写真でも、撮影時期によってレーダーが違ったり、アンテナが違ったり、ということは日常的に発生している。

一方、エンジンを換装してパワーアップ、なんていうことはほとんどなくなった(昔はあったが)。せいぜい、古くなって整備に手間がかかる、あるいは部品の入手が困難になった、という理由で新型のエンジンに載せ替える事例ぐらいだ。

艦艇も定期的にドック入りして点検・修理を行っているので、それに合わせて改修や機器の換装を実施することが多い。改修のためだけにドック入りさせるよりも合理的だ。この辺の事情も戦闘機と似ている。

そこで、徹底しているのが米海軍の原子力空母だ。想定寿命は50年間で、その中間に1度、原子炉の炉心交換のために数年ほどドック入りする「RCOH(Refueling Complex Overhaul)」というイベントがある。この時、原子炉だけでなく、その他の部位もオーバーホールしたり更新したりするので、当然、その際にはセンサーや通信機器やコンピュータがゴソッと入れ替わる。

時には、アイランド(艦橋などで構成する上部構造物のこと)を載せ替えることすらある。直接的にはITと関係ない話だが、センサー機器やコンピュータ機器や通信機器の器を新しくするわけだから、まるっきり縁がないわけでもない。そしておそらく、電線の引き直しや配管の交換も行われているだろう。海水に接している配管は傷みやすいので、交換しないと困ったことになる。

自衛隊はどちらかというと、大規模な延命改修やアップグレード改修を行わない部類だ(F-15Jの近代化改修、あるいはF-4EJの改修のような事例があるにはあるが)。ただし海上自衛隊は、改修によって延命や能力向上を図る事例が意外と目につく。

そして、イージス護衛艦の弾道ミサイル防衛(BMD : Ballistic Missile Defense)対応改修も行われた。特に「あたご」型のBMD対応改修では、BMD関連機能の追加だけでなく、イージス戦闘システム本体も更新することになっている。第111回〜114回で取り上げた米海軍のイージス艦と足並みをそろえた格好だ。

このほか、他国から中古で購入した軍艦について、そのままでは自国の要求に適合しないとか、陳腐化が早く来てしまった(中古だと建造時期が古いのだから当然だ)、といった事情から、後になって延命や能力向上を目的とした改修を行う事例は少なくない。

昨年に来日したトルコ海軍のフリゲート「ゲディズ」が典型例だ。同艦は米海軍の中古だが、買ったときの状態のままで使っているわけではなくて、レーダー換装などの手が入っている。

○国が違えば手法も違う

海上自衛隊の話を続けると、汎用護衛艦の「むらさめ」型や「たかなみ」型では、艦対空ミサイルを新型化して能力向上を図っている。具体的にいうと、RIM-7シースパローからRIM-162 ESSM(Evolved Sea Sparrow Missile)に替えているが、これには射程延伸だけでなく、ミサイル自体の機動性向上、誘導能力の向上といったメリットもある。

ただし、艦の外見はほとんど変わっていない。対空捜索レーダーもミサイル誘導レーダーも同じである。発射機の手直しや、指揮管制装置などのソフトウェア書き替えは行われているだろうが、それは外から見てもわからない。

一方、オーストラリア海軍では、8隻あるANZACフリゲートに対してASMD(Anti-Ship Missile Defence)改修を実施した。対艦ミサイルの脅威が増してきている状況を受けて、艦対空ミサイルをシースパローからESSMに更新した。これだけなら、海自の「むらさめ」型や「たかなみ」型と同じである。

ところが、元が比較的軽装備の艦だったので、手の入り方が大きくなった。つまり、飛来する対艦ミサイルを探知するための対空捜索レーダーと、艦対空ミサイルを誘導するための射撃管制レーダーの両方を新型の国産品に替えた。さらに指揮管制装置もサーブ製の新型に更新した。

ASMD改修の結果、新しいレーダーを載せるために後部マストを大改造したので、えらくマッシブな外見になった。その模様を撮った写真がWikipediaに載っている。

○システム構築の難しさ

シースパローをESSMに替えるぐらいなら、同じカテゴリーの兵装だから、まだ改修の規模は小さい。しかし、もっと大規模な改修を行う事例も少なくない。ところが、大規模になるほどリスクも増大する。そこには艦艇に特有の事情がある。

戦闘機であれば、レーダーはレーダー、電子戦装置は電子戦装置、と別個に機能する形が多く、搭載するセンサーや武器をみんな連接するようになったのは最近の話だ。ところが艦艇の場合、航空機や車両よりも前から、搭載するさまざまなシステムを互いに連接・連携させる傾向があった。第35回で取り上げた「システム艦」である。

すると、改修の際は、すでに出来上がっているシステムの内容をいじることになる。だから、いざ改修を始めてみると、スペースの取り合いに苦労したり、流用する既存機器と新規に導入する機器のすり合わせに苦労したり、といった問題に直面することが多い。

それで苦労した一例としては、オーストラリアのアデレイド級フリゲートがある。ミサイル発射機を増設して、レーダーを換装して……という内容だったが、予定通りに進まず、スケジュール遅延とコスト超過のコンボに見舞われてひと騒動になった。

カナダ海軍のイロコイ級駆逐艦が1990年代に「TRUMP(Tribal Class Update and Modernization Project)」と呼ばれる改修を実施した際も、搭載するミサイルの変更だけでなく、ミサイル発射機のすげ替えまで実施する大規模作業となり、やはり苦労があったようだ。ちなみに、TRUMPといっても次期米大統領とは関係ない。

だから、カナダがその後にハリファックス級フリゲートの近代化改修を実施した際は、3D CADによる空間の取り合いの検証を行ったり、陸上試験施設を用意してシステム構築に関する事前検証を実施したり、といった手を打ったそうだ。

こうしてみると、艦艇の延命改修やアップグレード改修には、企業向けの情報システムを開発する際にプロジェクトが炎上する事例と似たものを感じる。

(井上孝司)