大きくなると、近くなる。

10年以上、遠隔授業の教務設計や講師に従事してきて最近感じるところがあります。遠隔授業はパソコン上の小さなウィンドウに講師の顔が映し出され、受講者に語りかける画面レイアウトのシステムが多くあります。

パワーポイントなどの資料を映すエリアにレイアウトの大半が割かれ、顔が小さくなっています。せっかく相互の顔が見えているインターフェイスであるにもかかわらず、ウィンドウが小さいことで話し手の「人の気配」があまり感じられず残念です。ウィンドウが小さいと、相手が少し遠いですね。

一般的な遠隔授業システムのレイアウト(講師は12年前の筆者)


しかし最近は大きなスクリーンを利用した遠隔システムも登場し、テレワークや遠隔授業のシチュエーションでも活躍しています。大きなスクリーンで行う遠隔授業は既存のシステムと比較して話者同士の「親和性」が高まるように感じています。

生徒同士も休憩時間に自然と会話が弾み、すぐに友達のように親しみを感じている様子です。

私自身も以下のCMで紹介しているNEC製SmoothSpaceを使って島根県と宮崎県をつないで授業をしています。接続先の飯野高校の梅北先生とスクリーン越しにすっかり仲良くなってしまい、11月に実際にお会いしたときに「我々が対面で会うのは実は二度目ですね」と言われ驚きました。

確かに11月の前は6月に一度会ったきりだったのですが、すでに何度もお会いしているような気がして打ち解けてしまっていたんですね。ともに新しい遠隔授業に挑戦している同志のような意識が芽生えていたことも影響していると思いますが、梅北先生にご指摘いただくまで「まだ会うのは二度目」とは全く気付いていませんでした。そのぐらい画面の大きなシステムは親和性を高めるのです。

SmoothSpaceを紹介したCM。遠隔授業当日の生徒同士の「つながり」が感じられる。

遠隔(インターネット)から対面(リアル)へ

さて大人同士は出張にかこつけて親睦を深める場があるのですが、生徒同士は未だ一度も対面を果たしておりません。SmoothSpaceでの遠隔授業の回を重ねるごとに生徒たちは「宮崎にいってみたい」「隠岐を訪れたい」という気持ちが高まっていると感じます。

この「親和性」「親近感」はウィンドウが小さい既存のシステムではあまり感じられない現象でした。むしろ「親和性」を感じてもらえないので、予防策として「講師と生徒が事前に対面で一度会っておくことが大切」と言われていました。しかし今や逆の流れです。ネットで先に会って、リアルでも会いたくなる。そんな社会がすぐそこに来ているのかもしれません。

実際に生徒たちを会わせることが出来なくとも「なんとかもっと距離を近くに感じる方法はないものか」と最近思案を重ねています。その一つの切り口として「タンジブルUI」というキーワードがあるのではないかと期待しています。

※タンジブルUI…既存のコンピュータの概念を一新し、形のない情報を直接触れることができるようにした、より実体感のあるインターフェイス。MIT石井裕教授が提唱している。(Wikipediaより)

例えば以下のような室内で天気がわかるデバイスをつかって、接続先の天気を知ることが出来るだけでも心が近くなります。

また、TRANSFORMを相互の教室に置くだけでノンバーバルコミュニケーションが始まりそうでワクワクします。このデスクの上になんとなく腕をかざすだけで、遠隔地に存在を感じさせることも面白そうですし、動画のように実際にiPadで作業をしていると「お。向こうにも頑張ってる人がいるのか」と心の支えになります。

しかし、いかにも意匠を凝らしたこのシステムが教室に設置されるのはずいぶん未来の話でしょう。現実的に設置したいシステムとして最も現実味のあるのはSonyの「T」です。

デスクの直上にカメラ付きのプロジェクタがついており、プロジェクションマッピングの技術をつかって、デスクの上に置かれたオブジェクトを認識します。

オブジェクトの底面を認識するだけではなく、カメラとの距離から高さもわかるようなので(動画中に各オブジェクトの”depth”が表示されている)直感的には「算数の立体の体積を求める問題」に使えそうだと想像できます。

かざした指の向きも認識していますから「数学のベクトル問題」でも活躍しそうです。しかし、すぐ教科に結び付けて考えてしまうのは数学講師の悪い癖ですね。

つながりを活用してアイデアをグルーピング

もっと単純にたのしむ方法を考えたいところですが、想像力が貧困な私には「遠隔地と将棋をする」程度しか思いつきませんでした。双方にこの「T」を置き、自分の駒を並べて将棋をします。自軍にリアルな駒がある状態で指す将棋は、ディスプレイ上のインターネット対戦とは異なり、実戦により近い心理状態になるのではないでしょうか。

遠隔地の駒の配置はマップに投影します。動画から文字の認識も可能なことがわかるので、「8六銀成る」などもしっかりと投影してくれそうですね。しかし惜しいかな、相手の駒はプロジェクタで投影されている以上「駒をとる」ことが出来ません。そうなるとチェスのほうが向いていますね。名人ならどのように指すか、示唆してくれると上達も早そうです。

授業での活用に話を戻しましょう。「T」を用いた場合、ワークショップ形式の授業が遠隔でも実現可能になりそうです。例えばブレストにおいてとにかく付箋にたくさんアイディア出しをするとします。こちら側の付箋はリアルにたまっていきます。接続先の付箋は「T」がキャプチャして、こちらのデスクに映し出されるでしょう。

こうすることによってこちら側のリアルな付箋が半分と、接続先のバーチャルな付箋が半分出来上がります。そのアイディアをグルーピングするのも容易です。

出てきたアイディアが書かれた付箋をAとBにグルーピングするのも、双方が同時に付箋をグルーピングすれば「T」が半分マッピング表示ながらも見事に付箋を分けてくれますね。遠隔地であっても同じように付箋が配置されたデスクを見ながら議論も深まりそうです。

このSony「T」は発表はされているものの、まだ発売はされていません。リリースがとても楽しみですね。

おまけ:記事中に登場する宮崎県立飯野高校の梅北先生が登場する動画はこちらからどうぞ。
https://www.ntt-west.co.jp/shs-case/20/

<プロフィール>

大辻雄介

大手進学塾・予備校に勤務したのち、ベネッセコーポレーションでICTを活用した教育の事業開発を担当。日本初の無料インターネット生放送授業を行い、当時最大15,000人が同時に受講した。その後、隠岐にある海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。海士町から離島中山間に遠隔授業を配信しており、リクルート「スタディサプリ」数学講師、ベネッセ「受験算数ウェブ授業」算数講師もつとめる。2016年度、島根県情報化戦略会議委員。

テレビ東京系列「クロスロード」2016年10月8日(土) 出演

【連載】大辻雄介の「教育のIoT思議」
第5回:タンジブルな遠隔授業を。

第4回:AIのある教室

第3回:電子黒板は黒板のIoTではない。

第2回:つながる教室

第1回:教育の未来はIoTにある。
 

 

筆者:大辻 雄介