大連外国語大学の劉秋艶さんは、日本人の化粧に対する意識に感じるところがあったのか、作文に思いをつづっている。資料写真。

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日本を訪れた中国人が驚くことの一つに、街中の日本人女性が年齢を問わず完璧な化粧をしていることがある。中国では中年以上の女性は化粧をすることはかなり稀で、個人差はあるが若者も日本人ほど頻繁に化粧はしない。大連外国語大学の劉秋艶さんは、日本人の化粧に対する意識に感じるところがあったのか、作文に次のようにつづっている。

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かつてNHKは「パウダールーム」というドキュメンタリーを放送したことがあります。「パウダールーム」とは、個別に仕切られたスペースを使用できる化粧室のことです。深夜まで営業しているこの部屋には、一日中絶え間なく女性たちが出入りします。化粧と生活が切り離せない日本人女性に比べ、中国人女性はあまり化粧に関心を持っていないのは事実でしょう。

中国には、古来より「女性は自分を好きになってくれる人のために自分を飾る」という言葉があります。化粧に工夫を凝らし過ぎれば、男性を引きつけるためだと思われかねないのでできないという人も少なくないです。そのため、中国人の目には、日本の女性が化粧にこだわり、化粧室ビジネスまでも盛況となる事態は不思議に映るはずです。しかし、日本の女性は化粧にこだわる理由は、単にこの言葉のとおり、男性の目線を気にしているためだけなのでしょうか。この現象から日本の女性を取り巻く社会の変化が読み取れると思われます。

時代の変化にともない、社会から求められる女性の役割も多様化してきました。異なる場面に、適切な身なりで対応するのは、女性にとって重要な能力になってきています。以前、私は塾の講師のアルバイトに応募したことがあります。面接は順調だと思ったのに、「外見がやや年齢よりも幼く見えるので、学生から信頼されないのではないかという点が気になりました」と担当者に断られました。その時初めて、自分の立場に相応しい身なりをすることも社会に出たら大切な能力だということに気づきました。そして、正式な服を着て、薄化粧もして次の面接を受け、やっと採用されました。このように、身なりを整えることにより、異なる役割を演じる時の心構えの切り替えをすることこそが化粧の最も大切な機能だと思います。

現代の女性は、仕事と私的な生活の両方ともに細心の気を配らなければなりません。NHKの番組の中でも、金曜日の夕方、仕事のストレスから解放され、週末は気軽に過ごせるように、女性たちはみんな念入りに化粧をし、少し派手な自分に変身します。月曜日はまた、リラックスした状態から気分を立て直し、薄化粧の真面目な会社員の姿に戻ります。そして、1日の仕事が終わった後は崩れたメイクを拭い去り、仕事の悩みも捨て、優しい母親の顔になります。こうして、化粧は単に異性のために留まらず、日本の女性が自分の社会的役割をしっかりと分担し、仕事と生活とのバランスを取るための一つの手段だと考えられます。臨機応変な化粧からは、仕事にも生活にも妥協せず、完璧な女性になりたいという日本の女性の向上心を垣間見ることができます。

そして、日本の女性が化粧に対して抱く深い関心は、女性の自意識の高まりも反映しているように思われます。そう考えると、日本の女性の化粧は、自分と対話し、理想的な自分を探す営みだと言っても過言ではないでしょう。番組の中で「パウダールーム」を利用する女性の中には、初めて薄化粧を試し、大人の世界に入る高校生がいる一方、子どもが離れ、自分の生活が楽しめるようになった50代の女性もいます。化粧を通し、大人の世界に踏み込んだり、今までと違った新たな自分に挑戦したりします。日本の女性たちは鏡を見ながら、今の自分自身を見つめ直し、化粧を通じて理想の自分に近づいていくことができると思います。

繊細な日本人と異なり、より豪快でナチュラルな感じを好む中国人から見れば、日本の女性が化粧にこだわることは奇妙に感じるかもしれません。しかし、これは決して男性の目線を気にしているからだけでなく、女性でも社会的役割をちゃんと担いたいという向上心を持ち、目に見えぬ自意識と戦いながら、理想的な自分を追求しているからなのだと思います。(編集/北田)

※本文は、第十一回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「なんでそうなるの?中国の若者は日本のココが理解できない」(段躍中編、日本僑報社、2015年)より、劉秋艶さん(大連外国語大学)の作品「化粧―自分との対話」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。