ケント・ジョーンズ監督

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 「映画の教科書」として長年にわたって読み継がれている「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材にし、マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、黒沢清、ウェス・アンダーソンらヒッチコックを敬愛する10人の名監督たちにインタビューを行ったドキュメンタリー「ヒッチコック/トリュフォー」が、12月10日に公開される。批評家としても活躍するケント・ジョーンズ監督に話を聞いた。

 ジョーンズ監督と「「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(以下「映画術」)との出会いは、なんと12歳の頃。その後のジョーンズ監督の人生に多大な影響を与えた。本ドキュメンタリーはビジュアル版「映画術」というよりも「映画術」を愛し、影響された映画人に関する作品に仕上がっている。

 「そもそも、本のビジュアル化ということには興味がありませんでした。本の映像化で終わってしまうことは、映画としての行き場がありません。この映画では、『映画術』を愛する人や、ヒッチコックの作品に対して繋がりを感じさせる人にコメントを頂きましたが、『ヒッチコックは重要な映画作家です』とか『このショットが素晴らしい』といった感想が欲しかった訳ではありません。ヒッチコックを愛しているということだけでなく、映画作りとは何か? ということについて語れる人が必要でした。インタビューした映画監督たちは、皆そのような方々です」

 本作ではヒッチコック作品のフッテージが多数用いられており、そのカットの長さからはリズムが感じられる。「小津安二郎がストップウォッチを使って演出した、というエピソードと同じということですね(笑)。まずひとつに、この映画を早いペースで見せたかったということがあります。そして、ボールが転がってゆくようなエネルギーが生まれる構成にしたいと思っていました。そうすることで、別々の作品から抜き出したはずのフッテージ同士に関係性が生まれ、そこからヒッチコック作品における共通点を見出せるという意図があります」

 また、自作にミニュチュアを多用するウェス・アンダーソンの発言に、ミニチュアの列車が走るカットを重ねるなど、モンタージュが巧みに使われている。「この映画の中では、特定の映画のことを話している部分もあれば、より広い意味で映画というものを話している部分もあります。なので、ウェス・アンダーソンが話している部分に『第十七番』(32)のカットを使ったことで、そのような効果が生まれたのかも知れませんね。実は、デビッド・フィンチャーが『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でやったモンタージュを意識しながら、この映画で実践しているんです」

 アメリカンニューシネマの監督はトリュフォーらのヌーベルバーグに影響され、そのトリュフォーはヒッチコックに影響された。ヒッチコックもまた助監督時代にドイツ表現主義の影響を受けている。点と点が繋がって線になり、映画史が形成されているということを、この映画で描いた。「芸術というのは、全部が繋がっています。ヒッチコックの影響を語り出すと、おそらく“映画の誕生”にまで話が及ぶと思います。映画は脈々と続くムーブメントなんですね。映画作家は、自身の作品の中にある刻印のようなものを語りたがる傾向にありますが、実は何かに影響を受けているものなのではないか? と私は考えているんです」

 そして、最後に日本の観客へメッセージを寄せた。「私は“古い映画”という表現が、そぐわないものだと思っています。例えば、美術館に行くのに『古い絵を見に行く』なんて言い方はしませんよね。この映画は、古い時代の古い映画監督の話をしている訳ではなく、脈々と繋がる映画文化の話を描いています。若い人で『古い映画は見なくていい』と言う人がいたら、そういう意識は捨てるべきです。この映画をきっかけに映画に対する見方を変えて、まずはヒッチコックの作品に触れて頂けると嬉しいです」

 「ヒッチコック/トリュフォー」は12月10日から、新宿シネマカリテほか全国で順次公開。