名古屋っ子のソウルフード「鉄板イタリアン」って?

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みんなが大好きなナポリタン。みんなが大好きな卵焼き。何と、この2つが合体した料理があった! しかも鉄板で熱されて、食べ終わるまでアツアツが続く。名古屋っ子のソウルフード、「イタリアン」の謎に迫ります。

食に関し、洗練とは逆の方向に突っ走る名古屋は力強く、独特だ。食文化を支えるには場が必要で、一つには“家庭”というものがある。家めしは土地柄だとか味つけの好みなどが凝縮され、どの地域でも味覚の屋台骨を支えている。もう一つが“外食”。名古屋ではここで喫茶店が幅を利かせ、小倉トーストなる独自メニューや、過剰なサービスで知られるモーニングセットを生んできた。

そしてさらに忘れてはならないのが、喫茶店の定番メニューとなっている鉄板イタリアンだ。知ったふうなことを書いているが、今回、僕は初めて食べたのだ。どうやらスパゲッティらしい。B級グルメみたいな感じかなという予備知識。といって、油断はしていなかった。名古屋には独自の進化を遂げた食べ物が幾つもあるからだ。手羽先など全国的に流行するものもあるが、多くは地元に根づいたローカルメニューだ。きしめんや味噌かつ、味噌煮込みうどんでさえそうである。

なぜなのか。とにかく味噌推しがすさまじいのだ。八丁味噌を混ぜたり、ソースにしたり煮込んだりしながら、ほかにはない濃厚さで地域を一つにまとめてきた尾張の伝統があるのかもしれない。だが、あの味噌は全国どこにでもあるものじゃないので、いまいち広まっていかないが。

あと、隙あらば合わせたがる傾向も窺える。味噌は当然のようにケーキだろうと何だろうと合わせるし、小倉トーストも合わせた結果、和洋折衷ならぬ名古屋味に進化したもの。ひつまぶしは一度の食事で3種類の食べ方を試みる合わせ技料理だ。

写真を見ると案の定、鉄板イタリアンも合わせている。どういうわけか鉄板に卵を敷き詰めているのだ。スパゲッティはナポリタン。赤と黄色、鉄板の黒で食欲をかき立てる名古屋トリコロールなのか。違うか。麺が焦げつくのを防ぎつつ熱も逃さない、W効果を狙ったのかもしれない。

名古屋圏以外の方にもう一つ知らせておきたいのは、過激なまでの鉄板好きである。嫁入り道具に鉄板持参は珍しいことではないという。熱いものは最後までアツアツで食べたい。だから家でも普通に鉄板を使うという。整理すると合わせ好き、鉄板好き、喫茶店好きな名古屋人がこよなく愛するソウルフードが鉄板イタリアンだということだ。取材先として白羽の矢を立てた「カフェタナカ本店」に向かうタクシーの運ちゃんも、小学生の頃から食べていると証言。「それ、名古屋だけだと思いますよ」と言ったら、驚いた顔をしていた。

厨房を見学させていただいた時点で、旨いであろうと確信できた。1963年創業の同店では、オープン後5、6年目からの定番メニュー。動きに一切無駄がなく、鉄板イタリアンを知り尽くしているシェフの手つきもさすがだったが、アツアツと“合わせ”へのこだわりが並じゃないのだ。フライパンで調理に入ると、すぐ鉄板温めますからね。待ち構える態勢ができている。

仕上がったナポリタンは鉄板上にこんもりと盛られ、卵の投入を待つ。当然、このとき鉄板は火の上。そこへ牛乳で溶かれたクリーミーな卵が注がれる。注目は、麺の上から回しかけていくことだ。この発想には唸った。アツアツ確保のためを思えば、直接鉄板に注げば良い。でもきっと、それでは名古屋的にはヌルいのだろう。合わせずにはいられないのである。

味の決め手となるソースに、カゴメの特級トマトケチャップを使用するのも、食べてみて納得できた。ナポリタンらしい甘味強めのパンチ力は、洗練されたトマトソースでは生み出しにくい。ケチャップが卵とからまったとき、名古屋人が納得する濃厚さが生まれるのだ。僕はこれ、ケチャップを味噌に見立てているなと感じた。

こういう料理は気取って食べても旨くない。グイッとフォークに麺をからめて口に放り込むと、卵のとろみが程よい熱冷まし効果を発揮。食べ進むにつれ左右に崩れるスパゲッティを卵ごと食べれば、違う食感が訪れる。後半はこの卵を、オムライスを包むような感じで利用。この間ずっと、熱は冷めない。見事だ。食後は「カフェタナカ」が誇る自家焙煎珈琲。余分な油分はすっと消え去った。

鉄板イタリアンの発祥は昭和30年代。名古屋市の喫茶店組合がイタリアへ研修旅行に出かけたとき、本場のスパゲッティが最後には冷めてしまったのを見て鉄板の活用を思いついたものだとされる。工夫するうちに卵を使うようになり、ご当地名物として定着していった。広めたのは、喫茶店に出入りするおしぼり業者などだったそうだ。組合までつくられるほど喫茶店が普及していたことにも驚かされるが、アイデアを特定の店で独占しなかったのが正解だったと思う。

卵の溶き方とケチャップの選択、流し込みと火を止めるタイミングなどによって各店の味が決まり、好みによって客層が分かれる。レストランより喫茶店が似合う鉄板イタリアンは、名古屋めしのエキスが詰まった日常食だ。

(文・北尾トロ 撮影・小栗広樹)