藤平信一・心身統一合氣道会会長

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■積極的でリラックスした心身の状態を会得できる

【三宅義和・イーオン社長】今回のゲスト、藤平信一さんは世界24カ国で大勢の人が学ぶ心身統一合氣道会の会長として普及と指導をしておられます。武道としてはもとより、精神面での修養、心を静める、ものごとに動じないための指導をアスリートだけではなく、多くの企業経営者など幅広い層を対象に行っていらっしゃいます。

実は、藤平先生は私の合氣道の先生でもあります。そんな合氣道の達人である藤平先生にぜひ、合氣道の基本精神をお聞きしたいと思います。また、それを外国のお弟子さんたちに伝えるために、英語をどのように勉強されたのかということにも興味があります。

【藤平信一・心身統一合氣道会会長】わかりました。いわゆる「合気道」にはいくつかの流派があります。稽古の目的や方法もそれぞれ異なります。私は合気道全般を語る立場にありませんので、私が継承した「心身統一合氣道」に基づいて話をさせていただきます。

【三宅】そもそも心身統一合氣道というのがどのような武道で、その特徴とはどこにあるのでしょうか。

【藤平】心身統一合氣道は私の師であり父でもある藤平光一(合気道十段)が創始した武道で、「心が身体を動かす」という氣の原理に基づき、「相手を導き投げる」ことを稽古します。「投げたい」という自分本位の氣持ちが強すぎると、相手は「投げられまい」と反発し、ぶつかってしまい結果として投げられません。心を静めることによって相手の状態を理解し、相手と共に動くことで、ぶつかることなく投げることができます。つまり、技の稽古で「心を静める」こと、「相手を理解する」ことを実践的に身につけることができます。同時に、積極的でリラックスした心身の状態が養われます。

【三宅】なるほど。それでは「氣」とは何でしょうか。

【藤平】日本語には「元氣」「病氣」「氣が向く」「氣が良い」など、「氣」のつく言葉がたくさんあります。日本人は「氣」という言葉になじみがある一方で、「氣とは何か」となると今ひとつわからないのではないでしょうか。藤平光一は「氣」について、「海の中で水を手で囲うようなもの」と説きました。海中で水を両手で囲います。自分の手で囲っているので、なるほど手の中の水は「私の水」と言ってもいいかもしれません。実際には、海の水を自分の手で囲っているに過ぎません。そして、手の外と手の中の水が交流しているうちは手の中の水が悪くなることはありませんが、何らかの原因によりその交流が妨げられると手の中の水は悪くなってしまいます。

「氣」もまた同じ。天地自然の氣を自分自身で囲っているに過ぎません。そして、天地自然の氣と自分自身の氣が活発に交流している状態が「元氣」、交流が滞っている状態を「病氣」と呼ぶのです。さらに、氣の交流が完全になくなった状態が、生き物で言うところの「死」になります。しかし、死んでも氣がなくなるわけではなく、海の中で水を囲う手がなくなれば元に還るように、氣もまた天地自然に還っていくだけです。

■道を受け継ぐことに葛藤がなかった理由

【三宅】非常に深遠な人間の死生観につながる考え方ですね。氣の大切さ、重要さが感じられます。

【藤平】「氣」は溜めて消費するものはなく、交流することでその力を得ます。本来、氣は常に交流しているのが当たり前の状態であり、不自然な心の使い方、身体の使い方をすることで滞ってしまいます。心身統一合氣道の技は「氣が交流する」ことが土台であり、だからこそ相手の状態を理解し、導き投げることができるのです。

技の稽古でそれを会得したら、今度は日常生活に活用することができます。人間関係においても「氣が交流する」ことが基本なのです。

【三宅】無理矢理投げようとすると、なかなか投げられない。心を静めて、相手と一体となってこそ投げることができる。会社で社員に気持ちよく働いてもらうにはそうでなければなりません。まさに、仕事にも役立つ教えだと、いつも思っています。ただ、それを私が実際に実践できているかどうかは別にしまして(笑)。

【藤平】いえいえ、とんでもないです。

【三宅】ところで、合氣道の「氣」という字は、メではなく、米が使われています。これにはやはり、何か理由があるのでしょうか。

【藤平】漢字の成り立ちには諸説ありますが、「米」の字は「八方に広がる」という意味で用いています。「メ」の字は〆(しめ)るとも読めます。氣はしめたり滞ったりするものではなく、四方八方に交流するものですから、「氣」の字を使っています。

【三宅】先生は若くして道を継承されました。先代は、巨人軍の黄金時代を築いた広岡達朗さんや王貞治さん、長嶋茂雄さんなど超一流のプロ野球選手も教えていたと伺っています。それほど偉大な父親から後を任されるというのは、どのような気持ちでしたか。責任とともに葛藤のようなものはあったのでしょうか。

【藤平】藤平光一の内弟子になってからは師弟関係ですので「父」と呼ぶことはありませんでしたが、私は父が53歳のときの子です。生きている時代が半世紀も違います。当然、父の若い頃がどうであったかは知る由もありません。ただ、私が物心ついた時分には、道場で弟子に教えることは自らが日常生活で実践していました。

いまでもよく覚えていますが、私がいたずらをした際にも、頭ごなしに「ダメだ!」と言うのではなく、とても穏やかな表情で、なぜやったのか、どんな思いでやったのか、よく確認した上で、やさしく「それはいけないことだよ」と丁寧に諭してくれました。ですから、心に染み入るわけです。

そんな環境の中で育ちましたから、父に対して抵抗はなかったのですが、そこはかとない不安はありました。武道の世界は実力社会で完全な縦社会ですから、本当に私が継承者として責務を果たせるかどうかはわかりませんでした。「何を継承するか」を正しく理解してからは、葛藤は払拭されました。

心身統一合氣道を学ぶ生徒さんにも、事業を継承する二代目・三代目の方がいらして、その悩みをお聞きすることもあります。そこでわかったのは、継承がうまくいかない最大の原因は、そもそも「何を継承するか」がわかっていないからです。事業継承であれば、ただ会社組織を継承するのではなく、先代の「志」であるとか「理念」を受け継いでいくことです。

■なぜ世界のアスリートから注目されるのか

【三宅】心身統一合氣道を学ぶのは、メジャーリーグや日本のプロ野球選手ばかりでなく、女子ソフトボールの日本代表メンバー、Jリーガー、格闘家といったように、いくつもの分野のアスリートがいます。さらに、芸能界の方やミュージシャンもおられます。

しかも、日本人だけでなく、外国人も少なくない。その際には英語での指導になるのでしょうが、先生は昔から英語は得意で、大学入試のセンター試験は満点だったとお聞きしています。TOEICのテストでも素晴らしいスコアをお持ちです。私も出席させていただいた藤平光一先生のお別れ会では海外からたくさんの関係者、お弟子さんが何百人も来ておられて、そこで英語で素晴らしいスピーチをされましたね。

【藤平】とんでもありません。

【三宅】英語は得意で、中学・高校としっかり勉強していたのですね。

【藤平】いえ、必ずしもそうではありませんでした。いわゆる学校のテストではいい点を取っていましたが、実際に使う場面はほとんどないわけです。街で外国人に道を聞かれても、何も答えられませんでした。英語が得意という感覚は全くありませんでした。

【三宅】それが典型的な日本人の英語力。

【藤平】まさにそのど真ん中にいたと思います。

【三宅】それが現在では、堂々と英語で指導を続けておられます。そこまで英語力を伸ばした勉強法について教えていただけますでしょうか。

【藤平】海外で指導する立場になって、やはり英語を話せないと本当のところは伝わらないとわかり、先代の元に通っておられたご縁で三宅社長に英語の学習方法をご相談しました。

もう20年も前になるでしょうか。そのときに三宅社長に言われた言葉が衝撃的でした。「最初に申し上げておきますが、英会話学校に来るから英語ができるようになるのではありません。きちんと正しい訓練法を学んで、訓練をするから話せるようになるのです」と。特に最初に教えていただいた「自分が正しく発することができる音は聞き取ることができる」、この教えが深く印象に残っています。

そこで、まずは正しく発音できるように、中学生向けの教材を、しっかり音読することにしました。それを正しく発音できているかどうか、イーオンのレッスンでネイティブの先生方にチェックしていただきました。それから1年くらいはひたすら音読を続けました。

【三宅】お忙しいのに、寝る間を惜しんで音読だけはやっていらっしゃったと聞いています。

【藤平】必要に迫られていましたので、その期間は一生懸命やりました。毎日1時間は音読するのですが、なかなかその時間が取れない。苦肉の策で移動の電車でもブツブツ言っていたので、車掌さんから「あなた、大丈夫ですか」と声を掛けられたことを覚えています(笑)。

【三宅】もちろん、日々のトレーニングが重要であることは言うまでもありません。そのうえ藤平先生は、基礎にある単語力とか文法力が非常にしっかりしていた。これは日本人の英語学習者が絶対に覚えておいたほうがいいことで、何事においても基礎が非常に重要であるということです。

(三宅義和・イーオン社長 岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)