「君の名は。」を日本の映画館で見た時、これは中国の若者を引き付ける要素が全て満たされていると感じた。写真は中国の大学の日本語学科の休み時間風景。女性率が非常に高く、20歳を過ぎても素朴さが残る。筆者撮影。

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中国で2日に公開された「君の名は。」の最初の3日間の興行収入はそれぞれ1億元(約16億円)を突破したという。4日目は2000万元(約3億3000万円)ほどに落ちたらしいので、今後も快進撃が続くかは分からないが、中国の映画のチケットの実勢価格は30元(約500円)ほどということを考えると、大した数字である。

教え子の中には、すでに2回観に行った学生もいる。「君の名は。」を日本の映画館で見た時、これは中国の若者を引き付ける要素が全て満たされていると感じた。つまり美しいアニメーション、リアルな描写、そして恋愛、純愛である。

日本とは比較にならないほどの学歴主義の中国では、大半の中学、高校で恋愛が禁止されている。ある学生の出身校には「男女は30センチ以上の距離を取らなければならない」という校則があったという。男女2人で帰宅しただけで、停学処分を受けることすらある。

大学新入生のうち、交際経験があるのは10%もない。大学に入学して恋愛が始まることはあるが、大学の教員たちが、学生たちの誰と誰が付き合っているかを把握できるほどケースが少なく、青臭く、ばたばたしている。

筑波大学への留学を控えたある女子学生は、「日本に行って何がしたいですか」と聞かれ「恋愛です」と即答した。大学入試まで勉強しかしてこず、高校の先生たちは「大学に入ったら自由が待っている」と言っていたが、日本語学科の生活は高校時代とそれほど変わらず、しかも女子ばかりで思っていたのと違ったらしい。

別の学生は、作文の授業でこんなことを書いていた。中学時代、隣の席の男の子が好きで、本の交換などをしていた。ある日、机に彼からのラブレターが入っていた。しかし、学校は男女交際を禁止していて、見つかったら1週間の停学になる。当時は先生や親を疑うこともなく、「あなたが嫌いです」と返事を書いて相手の机に入れた。

大学に入って、日本の恋愛アニメを見た。主人公は好きな男の子に会いに行くため、電車やバスを乗り継いで、旅をする。その時に、私はおばあちゃんになった時に、自分が若い頃に恋愛をしていないことを悔やむのではないかと悲しい気持ちになった。

恋愛への憧れは、日本人には想像もつかないほど大きく、そして切実だ。そして大学に入って晴れて恋人ができても、恋愛を含めた社会経験の少ない彼らは、初めての交際相手に舞い上がり、消耗し、1、2カ月で破たんしてしまうことが多い。

「君の名は。」の公開当日、私の中国のSNSは映画の感想で埋め尽くされていた。男性主人公の「ずっとなにかを、誰かを探している」というセリフと共に、キャンパスの風景を毎日投稿している男子学生もいる。

リアルな街の描写と、リアルな若者の生活、そして非リアルな恋愛。高校時代の純愛の相手を、その記憶はほぼ失われているのに、長年かけて探していく「君の名は。」。中学、高校時代は勉強しか許されなかった中国の大学生たちは、10代に落としてきた何かを探している自分と、主人公を重ね合わせているのかもしれない。

■筆者プロフィール:浦上早苗
大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。