「試合に出れば勝つ」状態の松山英樹。これがマスターズ週ならば...
【WEEKLY TOUR REPORT】
■米ツアー・トピックス
「今、世界で最もホットな(勢いに乗っている)選手」
アメリカのメディアはそろって、松山英樹(24歳)のことをこう称賛している。
10月以降、5試合に出場して4勝。そのうち2勝は日本ツアーだが、国内メジャーの日本オープン、三井住友VISA太平洋マスターズと、ともに圧倒的な強さを見せて、そのニュースも世界中で報じられた。
開幕したばかりのPGAツアー2016−2017シーズンでも、マレーシアで行なわれたCIMBクラシックで2位となると、続く中国開催の世界ゴルフ選手権シリーズ(WGC)HSBCチャンピオンズで早くも今季1勝目を飾った。
そして先週は、アンオフィシャルの大会とはいえ、タイガー・ウッズが主催するヒーロー・ワールドチャレンジ(12月1日〜4日/バハマ)で、世界のトッププレーヤー18人がしのぎを削る戦いで頂点に立った。
「(試合に)出ると勝つ。一時のタイガー・ウッズのようだ」と、アメリカメディアがこぞって絶賛されるのも当然のことだ。
「絶好調のヒデキを止めることは誰にもできない」
昨シーズンのツアーチャンピオンで、世界ランク3位のダスティン・ジョンソン(32歳/アメリカ)もそう語って、松山の強さに脱帽した。
それでも、世界屈指の面々がそろうヒーロー・ワールドチャレンジである。最終日のバックナインを迎えると、同組のヘンリク・ステンソン(40歳/スウェーデン)が、首位を走る松山に2打差まで迫った。が、そのプレッシャーをも、今の松山は難なく撥ね退けた。
勝利を決定づけたのは、最終18番パー4。松山はラフからのセカンドショットをグリーン奥にこぼしたものの、グリーン奥からの第3打、緊張感高まる中でのアプローチをカップにピタリと寄せた。松山の勝利がほぼ確定すると、ステンソンは自らのバーディーパットを打つ前に、16歳年下の松山に対して「よくやったな」といった笑みを浮かべ、右手を上げてハイファイブ(ハイタッチ)をした。
ステンソンも40歳とはいえ、昨季は全英オープンで初めてメジャーを制覇。リオ五輪では銀メダルを獲得し、欧州ツアーのシーズン王者に輝いた。今、世界的にもかなりの好調子にある選手のひとりだ。そんな彼を、HSBCチャンピオンズに続いて、今大会でも退けたのだから、今の松山の勢いには恐れ入るばかりだ。
松山自身は、現状の自らの活躍をどう評価しているのだろうか。
今年9月、2015−2016シーズンが終了した際は、ツアー1勝、フェデックスカップ・ランキング13位、賞金ランキング9位(獲得賞金419万3954ドル。約4億7600万円)と、自己最高の成績をマークしたシーズンを振り返って、「自分の納得できるプレーができなかった」と、周囲の称賛とは逆に、松山は不満を漏らした。
その理由は、「思ったショットが打てていないから」だった。さらに松山はこう続けた。
「こんなところでは納得できない。もっともっと練習して、自分の思ったショットを打ちたい。その結果、勝てなくても、僕はそっちのほうがいい」
結果よりも、ショットのクオリティーを重視する松山。当時、彼のそうした考えには少し疑問を抱いたけれども、それが松山の本音なのだ。実際、クオリティーをこだわることによって、今の結果につながっているのだろう。
松山が語る。
「(プレーオフの)ドイツバンク選手権以降、ショットは変わっていないけれど、少しパットがよくなった。それが、好調の要因。パットが決まれば、優勝争いに加わっていける。そうして、自信が生まれたのだと思う」
4位に終わった全米プロ選手権の最終日、あのパットが決まっていたら、という場面が何度もあった。おそらく、それが決まっていれば、また違った展開になっていただろうが、結局決められず、勝利したジミー・ウォーカー(37歳/アメリカ)には及ばなかった。
松山は、そのパットが決まっている。それが、今の強さだ。
「いいストロークができている」と松山が言う。もちろんそうなのだが、重圧の中でそのストロークを遂行できる強さを身につけたことが、本当の強みであり、今の好結果を生み出している要因だ。
「来年は、メジャーに勝ちたい。そして、PGAツアーでも複数勝利を挙げたい」
そう目標を掲げている松山。「今の勢いのままなら、来週がマスターズだったらうれしいか?」と、ヒーロー・ワールドチャレンジの優勝会見で問われると、「いいえ、来週がマスターズじゃなくてよかった。来週だったら、勝てない(笑)」と言って笑った。
この勢いが永遠に続くわけでもない。しかし、世界のトッププレーヤーとなれば、強かったときのウッズにしても、パットが決まる勢いのある時期を経験すると、そういう時期が再び繰り返し巡ってくるものだ。それが、うまくメジャーの週にめぐってくれば......。松山に対して、そんな期待が一層膨らむ。
「来週から、すべてはマスターズに向けて準備をします。マスターズが次の目標です」
松山はそう言って、今年の最終戦を締めくくった。はたして、来年のメジャー開催週に調子のピークを持ってくることができるか。来年は、松山の動向からますます目が離せない。
text by Reiko Takekawa/PGA TOUR JAPAN