ヒッチコックをインタビュー中のトリュフォー
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 巨匠アルフレッド・ヒッチコックの映画技法に、ヌーヴェルバーグの旗手フランソワ・トリュフォーが肉迫した伝説のインタビュー書「定本 映画術」(晶文社)。約半世紀、映画のバイブルとして読み継がれるこの名著を題材にしたドキュメンタリー『ヒッチコック/トリュフォー』の公開が迫る中、メガホンを取ったケント・ジョーンズ監督が、ヒッチコックとトリュフォーの不思議な関係性を独自の視点で語った。

 1962年、『突然炎のごとく』のプロモーションでニューヨークに滞在していたトリュフォーは、ある評論家から「影響を受けた監督は?」と問われ、「ヒッチコック」だと答えた。だが、その評論家から返ってきたのは「冗談でしょう?」というシニカルな言葉。怒りを覚えたトリュフォーは、敬愛するヒッチコックに正当な評価を取り戻すため、本人に直接手紙を送り、インタビューを取り付けた。それは、50時間(1日5〜6時間、1週間)にも上る膨大なもので、映画制作1本分の労力を伴う超大作となった。

 本ドキュメンタリーでは、当時の貴重な肉声も一部使用されているが、ジョーンズ監督は生の声でのやりとりを聴いて、「ヒッチコックとトリュフォーの不思議な関係性にさらに強く惹かれた」と目を輝かせる。だが、いくら敬愛しているとはいえ、トリュフォーはなぜここまで時間を割いてインタビューを敢行したのか。「確かに、この熱意と労力は尋常じゃない。映画1本分、いやそれ以上かもしれない」と称賛しながらも、その一方で「ただ、その原動力には謎が残る」と釘を刺す。

 「当時、トリュフォーは、『突然炎のごとく』(1961)を撮り終えた直後で、一番脂が乗っていた時期。そんな勢いのあるときに、なぜこのインタビューを敢行したのか、トリュフォー自身がわかっていたかも疑問だ。熱い友情なのか、野心なのか、あるいはヒッチコックを評価したことへの自己保身なのか……」と思いを巡らせる。

 例えば、『めまい』(1958)についてトリュフォーが、「スピード感がない」「寂しい映画だ」と否定的な意見を次々に浴びせる場面がある。これに対してヒッチコックは、降板した女優への誹謗中傷など、時折暴言を吐きながら、興行的にも内容的にも失敗したことを赤裸々に語り出すが、「最終的に本として編集されるので、ヒッチコックは音声を聴かれると思っていない。ちょっとした油断から飛び出た言葉」と指摘するジョーンズ監督。これが、本音を引き出すトリュフォーの技なのか、あるいは愛のムチなのかは定かではないが、実像とパブリックイメージを検証する意味ではユニークな試みになっている。

 また、本作で使用されていない音源の中に、2人の不思議な関係性が垣間見られる会話が多数残されているというジョーンズ監督。「例えば、トリュフォーはジャン・ルノワールを父のように慕っており、それはヒッチコックも知っている。なのにヒッチコックは『ルノワールはなぜストーリーを語ることができないんだ?』と揶揄し、これに対してトリュフォーは、『もともと彼はストーリー性に関心がないだけです』と答える。これはルノワールに対するヒッチコックの“父性”からくる嫉妬心かもしれない」と想像を膨らませる。こうした背景を考えながら、2人の関係性を模索してみるのも実に興味深い。(取材・文:坂田正樹)

映画『ヒッチコック/トリュフォー』は12月10日より新宿シネマカリテほか全国順次公開