絶景の大自然でスマホをいじるPS VRアプリ『anywhereVR』無料配信。仮想癒やし空間でVRプラットフォームを考える

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音楽レーベルとしておなじみのソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が、奇妙なPlayStation VRアプリ『anywhereVR』の配信を開始しました。

anywhereVR (エニーウェア ヴィーアール)は楽園のような砂浜や一面の花畑に心地よい音楽が流れる非日常的リゾート空間に身を浸しつつ、やることはスマホをいじったりツイッターという、ある意味で身も蓋もないVRリラックスアプリ。SMEではこれを『ライフスタイル密着型VRソフト』と称しています。

9月のプレイステーション カンファレンスで各社渾身のVRゲームが会場を沸かせるなか、「いまの......何?」的な反応で逆に話題となったPVはこちら。



仕事を終え疲れて帰宅したあと、ひとりゆっくりタイムラインを眺める癒やしの時間をPS VRでグレードアップさせるお話。

SMEのPVだけに、仮想リゾートに逃避せずとも十分落ち着けそうな小奇麗なお部屋ですが、見る側は掃除する余裕もなく散らかった自宅を想像せざるを得ない効果的な動画です。

幸せそうな口元。

カンファレンスで流れた映像は短く、スマホを持ち込むあたりの仕組みがはっきりしなかったこと、なによりゲームやアトラクション系が大半のPS VRでは異色で実に ウケた 感銘を受けたため、ソニーミュージックにおじゃまして企画開発担当のかたにお話を聞いてみました。

映像は絶美、巧妙なステッチ処理


まず実際に体験した第一印象は、360度映像が非っっ常に美しく、それだけで十二分に体験の価値があること。大事なことなので繰り返しますが、風景はとても、本当にきれいです。PS VR 以外のVR環境でも背景にしたくなります。

スクリーンショットのような光景が360度、天にも足元にも広がります。360度動画では映像の継ぎ目が気になって没入感を削ぐことがありますが、anywhereVRでは探しても分からないほどにきれいにステッチ処理されています。三脚が見えてしまいがちな足元も綺麗になにもなく、宙に浮いたような処理です。

原理的な話をすれば、VRヘッドセットは目の前の小さなディスプレイを視野に広く引き伸ばすため解像度が厳しく、映像やゲームには向き不向きがあります。またすでに購入したかたならご存知のように、PS VRの解像度はお世辞にも高くありません。

しかし周辺視野に気を配る必要がなく、一か所を注視する必要もない実写の風景ではさほど気にならず、ぼやけた周辺視野も雰囲気として堪能できます。

映像は全周4Kで、数分ごとにさりげなくループする内容。動くものに注目すれば、おなじ光景が繰り返していることに気づくか程度の自然さです。

最近はどこでも360度の写真や動画を見かけるようになりましたが、SMEによるとanywhereVRの映像はアリモノを買い付けたのではなく、撮影機材から独自に工夫し各地で新たに収録したもの。

アクションカメラなどで撮影された360度映像では動きを見るにはよくても風景には画質が荒く、また夕暮れや星空など微妙な陰翳も捉えられないことからの判断です。撮影にはソニーのアルファを独自のマウントで円周に並べたものも使われています。

絶景のなかでできること



その絶景のなかに配置できるのは、自前のスマホの画面と時計パネル、アプリ側にビルトインのツイッターアプリ、ミニゲーム。

気になる「自分のスマホ」部分は、スマートフォン側に無料のキャスト用アプリをインストールして、画面を映像として無線で飛ばすことで実現しています。

つまり自分のスマホに入ってさえいれば、ツイッターでもブラウザでも他社の映像配信アプリでも、なんならゲームでも、画面キャストできるものは原則全てVRに持ち込めます。

一方、映像しかエンコードしないので音はキャストできません。内部的にはGoogleのCast APIを使っているため、アプリによっては不可能な場合もあります。キャストする位置やサイズは何段階かに設定可能。透過も設定できるため、楽園に溶け込む地獄タイムラインを眺めることもできます。

AndroidスマホをPS4にキャスト



キャストアプリはシンプル。残念ながらAndroidのみで、API的な理由からiPhoneには対応していません。

実際にスマホをキャストしてみた印象は、「意外なことにそこそこ読める」。PS VRは顔の真正面で解像度が高くなる設計でパネルの粗さを補っていることもあり、設定でキャスト面をかなり広く調整したり、スマホ側で表示を大きくすれば、くっきり快適とはいわないもののまあまあ読めます。電子書籍リーダーなどは設定しやすいかもしれません。

キャストはAndroid側で映像だけをエンコードしてPS VRに送信する仕組み。スマホ側が超高解像度でも、転送時に圧縮された低解像度になります。そもそもPS VRの視界全体の解像度が高性能なスマホと大差ないか負ける程度なので、ここは妥当な処理です。

転送のレイテンシ(遅延)については、部屋のローカルWiFiの質と、スマホ側の性能に依存します。Androidの機能で画面キャストをしたことがあればおおむねその感覚です。

ミニゲームとPS4ネイティブTwitterアプリ



スマホのキャストのほか、Twitterについてはベーシックなクライアントが組み込まれており、キャストしなくてもサインインすればPS4だけで使えます。ほか6角マインスイーパ的なものや、簡単な釣りゲームもあり。

いかにもオマケ然としたミニゲームですが、コンセプト的にぼんやりしつつ適当に遊ぶ、あるいは単純作業に無心になる癒やし効果と考えれば適任です。

キャストや時計、ミニゲームなどはいくつか仮想空間に配置できますが、スマホからのキャストは同時に一面のみです。マルチウィンドウにはできません (Android 7.0のマルチウィンドウなら、低解像度ながらそのまま飛ばせます)。

anywhereVRのPSストア配信ページはこちら。

アプリは基本無料で2つの仮想ロケーションが選択でき、BGMや別のロケーションをDLCとして購入する仕組みです。

ゲーム時間より長い「ながら」時間狙い



SMEの企画担当者によれば、anywhereVRの狙いは日常の「ながら」時間にVRを持ち込むこと。いわく、日常生活のうち自宅で据え置きのゲーム機に向かう時間はどうしても限られており、VRゲームはさらにその一部を奪い合うことになります。

これに対して、テレビを見ながらスマホをいじる、音楽を聴きながら本を読む、といった時間はその数倍あります。ゲーム会社ではないSMEとしてはこの時間を狙い、短時間の深いVR体験ではなく、日常のぼんやりした時間をVRでよりよいものにすることを目指したとのこと。

「ながら」とヘッドセットの相性



さて、試した範囲でいえば、コンセプトは「おおむね」意図どおりに実現はしています。なにより風景の美しさは有無を言わせぬ説得力です。

しかし日常の「ながら」を考えると、スマホと一緒に楽しむテレビなりゲームなり本を持ち込むことができず、決まったミニゲームと簡易的なTwitterしかないため、ながらというよりスマホを主役にせざるを得ません。そのスマホも、VRゆえの制約が多々あります。

スマホをテレビのかわりに映像配信に使うことも可能ではあります(音はVR側ではなくスマホ側から聞かざるを得ませんが)。また遅延や、手元が見えないため正確なタップができない操作性が許容できるならば、VR空間でいつものスマホゲームを遊ぶこともできます。(が、PS VRならPS VRゲームなりシネマティックモードで映像を見れば良いという話も)。

さらに元も子もない話をしてしまえば、PS VRの装着感は非常に優れているとはいえ、どうしても長時間の着用には難があります。あくまで現時点のPS VRに限って言えば、長時間のゆったりリラクゼーションとは相性がよくありません。

全周映像は実に美しいものの(※繰り返し4回目)、現状ではケーブル付きで身動きも姿勢も制限される大きなヘッドセットで頭を押さえ、操作に難がある低解像度のスマホを視界に大きく広げて、おやつを食べたり飲んだりの「ながら」もできない制約とトレードオフで評価せざるを得ないのは残念です。

(あまり実用的でないワザとしては、スマホのカメラアプリを開いて映像をキャストすれば、手の先に視覚があるような感覚でおやつを食べたり外界を確認できます)



OS標準に欲しいけれど


anywhereVRからは少々外れるものの、むしろ外界から遮断されるVRヘッドセットを使っていて欲しいのは、ゲームなり映像なりというメインの使い方をしつつ、ちょっとスマホを確認する機能。

VRでゲームや映画を楽しみつつ、ちょっとゴーグルをずらしたり、鼻パッドの脇から下を覗いてスマホの通知を確認している人も多いはずです。

このキャストの機能はむしろPS4のOSの機能として、メインのゲームのポーズ中に、あるいはオーバーレイやPinPでスマホを確認できるようなかたちで欲しいところです。そうなれば外界のなにかを確認するためいちいちVR世界からジャックアウトを強いられることがなくなります。

こうしたかたちでの応用についてSMEの担当者に尋ねたところ、OS機能への組み込みは、PS4側の処理性能の制約で厳しいとのこと。

思えばPS4は後付けのVRを動かすだけでも力技や工夫を重ねており、性能を限界以上に使いたいVRアプリと共存するのは、少なくとも現時点では無理な注文だったようです。

VRデスクトップ、VR OS、VRプラットフォーム



PS VRから離れていえば、没入型VRヘッドセットが原理的に外界を遮断するため他のことができない課題については、VRの内部にリッチな環境を作り、そちらでマルチタスクする流れが急速に進みつつあります。

たとえばマイクロソフトはVR / MR環境の Windows HolographicをWindows 10に標準で組み込み、従来の平面アプリを仮想空間に並べたり、3Dアプリと共存できるようにする見込みです。

Oculus Riftを買収したFacebookも、VRはPC・モバイルに続くコンピューティングプラットフォームと称して、新たなフロンティアに橋頭堡を築くことに膨大なリソースを注入しています。

また日本では「VR空間でミクさんが見られます!」デモだったはずのアプリが恐ろしい勢いで進化を遂げ、今まさに次世代VRプラットフォームに化けつつあるところです。

anywhereVR が、将来的なVRプラットフォーム戦争に備えた伏兵というわけではありません。しかしゲーミングに特化することでこの世代のゲーム機戦争を制したプレイステーションも、VRが3Dテレビのような徒花ではなく本物の戦場になりつつあるいま、盟主でいられるか店子になるか、ゲーム機だからと無縁ではいられないのは事実です。

奇しくも anywhereVRの配信と同じ今日、VRの有力プレーヤーである Google、HTC VIVE、Oculus、ソニー(SIE)、エイサー、Starbreeze が、VR業界の発展を目指す非営利のアライアンス Global Virtual Reality Association (GVRA)を結成しました。

GVRAは次世代コンピューティングプラットフォームとしてのVRの発展を促進するため、政治的な働きかけや安全性への取り組み、教材作成やベストプラクティスの共有など、各社利害が一致する部分で協力するための業界団体。技術的なVRプラットフォームを統一するものではありません(今のところ)。

短く言えば、気になるVR / MRコンテンツを試すため OculusとViveとPS VRとDaydreamとHoloLensの「全機種持ち」が必要な状況は当面変わりません。

とはいえGVRAの結成でプレーヤー間の対話と利害調節が進めば、間接的であれプラットフォーム戦争の負の影響を軽減することも可能です。競争はイノベーションを加速しますが、過去の規格争いであったように、企業どうしがコンシューマを棍棒に見立てて殴り合うような状況が少しでも減ることを祈りたいものです。あ、anywhereVRのPSストア配信ページはこっちです。