素晴らしいラストランだった。前編は小間物屋に扮した強盗団の手引き屋・音吉(谷原章介)に、かつて女郎だった頃に彼から大金を盗んだ前歴のため、体を預ける旅籠・丹波屋の後添えのお吉(若村麻由美)の、愛なき陰鬱な情事が圧巻。後編は一種の義賊である牛久の医師で慈善家の堀本伯道(田中泯)が、異端の剣に堕ちた息子の石動虎太郎(尾上菊之助)と刺し違えて死ぬ親子の哀愁。

45歳の長谷川平蔵を、72歳の中村吉右衛門が演じる困難はわからぬではないが、賊を成敗する時の鬼の形相の火付盗賊改方長官と、普段の慈愛に満ちた知的な役人のボスと、両方に悠揚迫らぬ大人の風格を出せたのは、1人吉右衛門だけだったと思う。これで終了とは誠に残念である。しかし、惜しまれて去るのも、また、よし。

舞台でのスターである田中泯が、吉右衛門との共演場面で、緊張から震えたと言っているのを読んだ記憶がある。それほど、人間国宝・中村吉右衛門のオーラは凄いのだ。このシリーズの終了に当たり是非触れておきたいのは、プロデューサー・能村庸一の功績と、劇伴とテーマ曲のすばらしさ、それで☆1つ(蘭の花)を加える。

時代劇が絶滅危惧種になった今、是非とも、この作品にかかわったスタッフたちのノウハウはどこかで伝承してもらいたい。年寄りだけでなく、若いファンも鬼平には多くついていたのを筆者は知っている。NHK大河ドラマよりはるかに上質だった鬼平よ、さらば。

(放送2016年12月2、3日21時〜)

(黄蘭)