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●半導体に新たな価値をもたらす実装工程が登場
コネクテックジャパンは12月6日、同社が開発した低温低荷重フリップチップボンディング技術「MONSTER PAC」などに関する記者発表会を、同社つくばR&Dセンターで開催した。同社代表取締役の平田勝則氏が登壇し、同技術の説明などを行った。

「MONSTER PAC」は、ICチップを基板上に実装する際の接合温度・接合荷重を下げることができる半導体実装技術。従来の半導体実装工程では、フリップチップボンディングを行う場合、240℃程度の高温で1バンプあたり2.4グラム重(gf)という荷重をかける必要があった。多数のバンプに同時に圧力をかけて接合を行うためには、重さ約3tのボンディング装置やディスペンサなどの巨大な装置と、そのための工場面積が必要だった。

同社では、このプロセスを接合温度170℃以下、接合荷重0.12gf/バンプにまで下げることにより、製造装置を卓上サイズまで小型化することに成功した。また、高温高荷重によるダメージに耐えられないため、これまでフリップチップボンディングの適用が困難だった最先端のデバイスにも対応できるようにした。

装置を小型化し、プロセスを簡素化することで、半導体製造のコストを下げることが可能となる。同社ではこのアプローチを「デスクトップファクトリー(DTF)」と呼んでおり、すでにバンプ印刷機、絶縁樹脂塗布用のディスペンサ、フリップチップボンダといった一連の製造装置の卓上化を実現。製造プロセス自体も既存の34工程を3工程にまで簡素化した。

これによって、大型クリーンルームを備えた100m×200mサイズの工場が必要とされてきた半導体組立工程が、装置周りの局所クリーンブースと3.5m×1mという設置面積で可能になった。面積で比較すると既存工場の1/5700で済み、設備投資コストは1/40程度に下げられるという。また、製造過程でのCO2排出量も、既存工場の月500tから、月500kg程度にまで削減できるとしている。

すべての装置の電源を一般用100V電源から取れるようにしたこともDTFの特徴である。これにより、設置場所を選ばずどこにでも導入できるようになった。半導体製造では装置の機械振動も大敵となるが、DTFでは装置自体の除振性能を高めることにより、装置を載せるための特殊な架台なども必要なくなった。

コネクテックジャパンは、パナソニック セミコンダクター社を退職した平田氏が2009年に設立。国内の拠点は新潟本社工場とつくばR&Dセンターがあり、海外拠点としては、中国・蘇州市、韓国・ソウル、米国シリコンバレーに営業所、台湾・新竹の工業技術研究院(ITRI)内にR&D拠点と営業所を置いている。現在の同社の主要事業は研究開発中心の実装受託開発(OSRDA:Out Sourced Research & DevelopmentAssemble)であり、MONSTER PACやDTFなどの自社技術だけでなく、日本全国多岐にわたる分野のパートナー企業と技術協力関係を結ぶことによって、様々な課題・プロジェクトに即応できる体制を構築しているという。

受託開発事業に加え、2018年をめどに、DTFによる多品種変量生産体制の確立や、製造装置・プロセス販売事業といった量産側の事業にも乗り出す。このため資金力の強化にも注力しており、2016年11月にはリアルテックファンドから増資を受けた。現在の資本金は7億7500万円。今後は株式上場による市場からの資金調達も視野に入れていくとしている。

国内大手メーカーの多くが半導体事業から撤退したことにより、リストラされた多くの技術者が力を発揮できない境遇に置かれているのが、現在の日本の状況であると指摘する平田氏。「半導体業界の環境変化によって、技術力を持った30万人のリソースが今、国内にある。これは我々のようなベンチャー企業にとっては大きなチャンス」と語り、そうした人材の積極的登用を行っていることも同社の特色であると強調する。

●先端半導体デバイスやMEMSにも適用可能なMONSTER PAC
○最先端の半導体実装課題を低温低荷重接合で解決

フリップチップボンディングは、ICチップを実装基板上にはんだなどで直接接合する技術。チップと基板をワイヤ接続するワイヤボンディングと比べて、実装面積を小さくできるのが特徴である。従来の技術ではチップ側にはんだや銅錫共晶でバンプを形成し、高温・高荷重をかけることによって実装基板に接合していた。一方、MONSTER PAC技術では、バンプ材料に銀の導電性ペーストを使用し、チップ側ではなく実装基板側にスキージ印刷法でバンプ形成する。

バンプ形成後は、ディスペンサで非導電性ペースト(NCP:non-conductive paste)を塗布する。NCPは熱硬化性樹脂の一種であり、フリップチップボンダで軽く押さえてチップとバンプを接触させた状態で熱をかけると、NCPの硬化収縮力によってチップと銀バンプの接触が固定され、接触部で電気を通すようになる。チップとバンプは物理的に接触しているだけなので、はんだ接合と比べると抵抗は大きくなるが、実用上は問題ない電気的接触を確保できるという。

接合前にペースト状だったNCPは、接合時に温度を下げる操作によってまず液状化し、その後170℃の温度条件で硬化する。硬化前にいったんNCPを液状化させるのは、チップとバンプの間にNCPが残って導電性を損なうことを防ぐためである。このように材料設計と温度制御レシピをきめ細かに作り込むことで、これまでにない低温低荷重が実現でき、接合時にデバイスへ与えるダメージの軽減と装置小型化につながった。

低温低荷重、低ダメージでのフリップチップボンディング技術は、10〜20nmプロセスで製造される先端半導体デバイスには不可欠となってきている。デバイスの絶縁層が多層化しているため、上層と下層で同じ材料の絶縁層を使うと下層に行くほど電気抵抗が増大し、信号遅延の原因となる。これを防ぐため、下層の絶縁層には低誘電率材料(ultra low-k材料)を使うことで、結果的に上層と下層で同じ抵抗になるように調整することになるが、ultra low-k材料とは、言い換えれば空気の比誘電率(=1)に近いスカスカのスポンジのような材料であり、高い荷重のような物理的なダメージに対してはどうしても脆弱になってしまう。このため、従来のフリップチップボンディングの適用が困難になっているのである。

もうひとつ、従来のフリップチップボンディングが使えない例として、MEMSデバイスがある。スマートフォン、ウェアラブル端末、IoTデバイスなどの増加でMEMSを使ったセンサの利用はこれからますます増えていくと予想されるが、複雑な段差構造や立体構造が形成されているMEMSデバイスでは、チップ側にバンプを作ることがそもそも困難である。これは段差構造によってバンプの高さがバラついたり、レジスト剥離中に立体構造が破損してしまうという問題があるためで、MEMSデバイスの実装には今もワイヤボンディングが使われている。しかし、ワイヤボンディングでは、チップの周りにたくさんのワイヤを接続する必要があり、実装面積の小型化が難しい。これから機器に搭載されるようになるMEMSデバイスの増加を考えると、MEMSにもフリップチップボンディングを適用できるようにすることが望ましい。MONSTER PAC技術であれば、バンプを形成するのはチップ側ではなく実装基板側になるので、上述したような問題はなくなる。

また、デバイスの微細化が進むにつれて、基板側の配線ピッチがチップサイズを律則するという問題も出てくる。ITRSのロードマップでは、フリップチップボンディングによる配線ピッチは35μmで底打ちとされているが、同社では接合温度を130℃に下げることにより、10μmという狭ピッチでの配線とバンプの同時形成に成功している。

○低温低荷重接合でこれまでなかったアプリケーションが可能になる

同社ではさまざまな企業から寄せられる受託開発の課題をMONSTER PAC技術などを使って解決している。以下、そうした事例をいくつか紹介する。

MEMSデバイスの実装にMONSTER PAC技術を適用した例として、超音波診断装置プローブヘッド部のフレキシブルプリント配線板(FPC)へのMEMS実装がある。従来のワイヤボンディングでは、FPCを折り曲げたときにワイヤが外れたり、人体にヘッドを押し付けて使用するときの圧力でワイヤが切れたりしていた。フリップチップボンディングに変えることで、ワイヤを使用する必要がなくなり、こうした不具合が解消された。

複数枚のチップを狭い間隔で並列して実装したいという要求もある。本来24mm□のチップ1枚として機能させたいのだが、ウェハ上に最初から24mm□のチップを形成するよりも、その1/4サイズの12mm□のチップを多数形成し、基板実装時に4枚並べて1枚のチップとして機能させたほうが、ウェハ上での歩留まりが良くなるためである。この場合、並列させるチップ間の間隔は30μmという狭ギャップ接合が必要になる。

フレキシブル基板上に従来法で実装するには、導電フィルムかはんだを使うことになるが、導電フィルムは高荷重で押し付けたときチップの周りにフィルムが押し出されるため、ギャップを300μm以下にできない。はんだの場合は接合温度が260℃必要なため、熱で基板が反ってしまい、やはり狭ギャップ接合は不可能である。低温低荷重のフリップチップボンディングが可能になり、はじめて30μmでの狭ギャップ接合が可能になった。これにより、ウェハの歩留まりは50%から90%に上がったという。

MONSTER PAC技術で使用する熱硬化性NCPの硬化温度を現在の170℃よりも下げることができれば、フリップチップボンディングの適用範囲はさらに広がることになる。同社ではより低温のプロセスの開発に取り組んでおり、実際に120℃のプロセスで磁気センサモジュールを作製した例もある。

下の写真はセイコーNPCが開発したリチウムイオン電池非破壊検査用の磁気センサモジュールであり、実装にはMONSTER PAC技術が使われた。表側には1.5mm□の磁気センサチップ600個(20×30列)が高密度接合されている。裏側にはアンプIC60チップとコンデンサ441個が高密度実装されている。センサの耐熱温度が120℃なので接合温度260℃のはんだ接合は使えなかった。

プロセス温度をさらに下げ、80℃にできれば、PETフィルム基板を含むほとんどすべての材料にフリップチップボンディングを適用できるようになる。このため現在は、接合温度80℃のプロセス開発を進めている。低温で確実に硬化する熱硬化性樹脂の開発がカギになるが、実現の見通しは立ってきているとしている。

(荒井聡)