クリエイティブな人たちはなぜ、シェアオフィス「WeWork」を選ぶのか

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凡庸なオフィスからは革新的なアイデアは生まれてこないー。

シリコンバレーを中心に、多くの先進的な企業でそんな考えが広がっている。クリエイティブな人たちがこぞって入居するという、話題のオフィスを訪ねた。

イーストリバーに程近いニューヨーク・マンハッタンの高層ビル。約束の30分ほど前にオフィスを訪ねた我々取材陣は、意表を突かれた。

そこにいたのは、どこかのテレビ局クルー。広報担当者(1週間前に入社したばかりだという)はしきりに時間を気にしている様子で、スケジュールが書かれたメモを何度も見返している。その紙には、なんと国内外の有名なテレビ、雑誌、オンラインメディアなどとの面会予定が分刻みで記されていた。この日だけでいったい何件の取材が入っているのか……。

世界中からメディアの取材が今”殺到”しているこの企業こそ、WeWork(ウィーワーク)だ。おそらく同社ほど、知名度と企業価値が一致していないスタートアップも珍しいだろう。

WeWorkはシェアオフィス事業(いわゆるコワーキングスペース)を展開するアメリカのスタートアップ。だが、ただの会員制のレンタルオフィスか、と侮るなかれ。企業価値は160億ドル(約1兆6,000億円)に達し、今をときめくLyftやStripe、Slack、Warby Parkerを合わせた額よりも多いーといえば、きっと読者も驚くのではないだろうか。

創業からわずか6年で、世界30都市以上に進出し、会員数は6万人超(日本は未進出)。ニューヨーク市内だけで32カ所もあるそうで(10月中旬時点)、まさに破竹の勢いといって過言ではない。

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なぜWeWorkはここまで顧客たちに支持されるのか。

ロックンローラーのような風貌をしたカリスマCEOのアダム・ニューマンはこの日、あいにく不在。代わりに対応してくれたのは、共同創業者で大学時代にバスケットボール選手として活躍したという長身のチーフ・クリエイティブ・オフィサー、ミゲル・マケルビー(42)だ。今回はWeWork流の「クリエイティブなオフィス環境」について話を聞きたかったので、むしろ適任だろう。

ミゲルと1分でも会話をすれば、WeWorkがただの不動産会社ではないことに気づく。顧客サービスを説明するのに、彼は「UX(ユーザー・エクスピリエンス)」なる言葉を持ち出すのだ。

UXというのはソフトウェアの用語ですよねー?

「私たちはソフトウェア会社のように業務を行っています。たとえばオフィスの物理的空間を制御するオペレーティング・システム(OS)の開発にも日々改良を加えています。これが、我々と他社が大きく違う点ですね」

あらゆる企業のビジネスがデジタル化しつつあるとはいえ、不動産会社の経営者の口からテクニカルな用語が次々に飛び出すのには、多少の違和感を覚えなくもない。だがWeWorkは自らを”テクノロジー企業”だと認識しているようだ。

ミゲルによると、同社ではオフィスの建設、デザイン、開発のすべての工程で、自社開発のソフトウェアを活用している。これによって「すばやく事業を拡大し、効率的に運営できる」のだという。

たとえば、マンハッタンでは従業員一人当たり250平方フィート(約23平方メーター)ほどのオフィススペースが一般的だが、同社が提供するオフィスでは無駄なスペースを排除した結果、その5分の1程度に縮小できているという。当然、面積当たりの売り上げは高くなる。

「それまで使われていなかったリソースを有効活用したという点では、Uberなどと共通点があるかもしれませんね」とミゲルは胸を張る。

確かに、オフィススペースはそれほど広いとは言えない。だが共有スペースにはソファなどが置かれ、息詰まるような感じもしない。まるで人気のカフェのように、やや賑やかで熱気がありつつも、仕事に集中できそうな空間だ。

利用料金はロケーションによって異なるが、不動産価格が高騰するニューヨークにあっても、かなり高額だ。ウォール街にある同社オフィスを例にとると、共有デスクを使うプランなら月額575〜600ドル、3人用のプライベートオフィスなら2,000〜2,580ドルもする。

いったいどんな客が利用しているのだろうか。コワーキングスペースといえば、賃貸料を安く済ませたいスタートアップやフリーランス向けというイメージがある。実際、オフィス内を歩いて回ると、スタートアップと思しき企業名が多く目についた。

だがミゲルは「最初は小規模のテクノロジー系スタートアップを対象にしていたが、今ではフォーチュン500社の企業も入居している。あらゆる業界のあらゆる企業が顧客です」と話す。

彼らが公表している顧客リストを見せてもらうと、マイクロソフトやアメリカン・エキスプレス、レッドブル、ガーディアン(英紙)などの大手から、AirbnbやUber、Yelpといった話題のスタートアップまで有力企業の名前が並ぶ。数百人単位で入居し、複数のフロアを占有する大手企業もあるという。

なぜ、自社ビルを持っている大企業までWeWorkと契約するのだろうか。

ミゲルによるとその理由はさまざまで、たとえば「本社が郊外にあり、都市のど真ん中に拠点を置きたい」「オフィスが手狭になった」「クリエイティブやイノベーション関連の部署を新設したが、他の部署とは人材のタイプが異なるので別のオフィスに配置したい」「WeWorkのようなオフィスで働きたいと思っている人を採用したい」など千差万別だ。

WeWorkの顧客の中からは、企業価値が1,000万ドル超のスタートアップもいくつか出始めているという。「創業から6年経つといっても、我々が急成長したのはここ1〜2年のことです。だからまだ結論を出すには早いですが、これから数年のうちに成功するスタートアップがもっと出てくると思います」と、ミゲルは自信をのぞかせた。

都市がもつ「強み」を活かす

となれば、ますますその人気の理由が知りたくなる。クリエイティブな人たちはなぜWeWorkを選ぶのか。そのための空間づくりの秘訣とは。ミゲルはこう答える。

「重要なのは、最初から顧客の気持ちを正しく導くこと。彼らが初めてオフィスを訪れた瞬間からモチベーションを高め、インスピレーションを得られるようにするにはどうすればいいか。それをずっと考え、さまざまなアイデアに投資してきました。これが我々のビジネスの根底にあります」

モチベーションやインスピレーションを得るのに、同社の洗練されたオフィスデザインが大きな役割を果たしていることは疑いようがない。

創業当初は、差別化を図るため、あえて「一般のオフィスビルとは反対のことをやろうと思った」とミゲルは語る。

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「いわゆるオフィスではなく、ブティックホテルのような空間を意識しました。たとえば照明なら、部屋の隅々まで照らすような強い光ではなく、居間にいるような温かみのある光に。普通のオフィスデザイナーが見たら、『照明レベルが低すぎる』と文句を言うくらいです」

とはいえ、仕事場である以上、顧客にとって働きやすく、また生産性向上につながる環境でなくてはならない。その点についてはどんな工夫をしているのかと問うと、ミゲルは、まずオフィスがガラスのパーティションで区切られていることを挙げた。これによって、部屋が分かれていても、働く人同士で熱意が伝染し、共有されるのだという。

「ほかの人たちと一緒に仕事をしていることがわかれば、モチベーションが上がるし、興奮を分かち合うこともできる。こういう小さなオフィスでは、全員が友達みたいなもの。誰かが契約を勝ち取れば、みんなで祝福したくなります」

実際に会社の垣根を超えて、会員同士がハイタッチする姿は日常的に見られるという。同社がとくに大切にしているのが、この会員同士の「つながり」だ。

同社には「コミュニティ・マネジメント・チーム」と呼ばれる専門スタッフがいて、つながりの強化に努めている。彼らは日常的に会員たちと接して、問題があればすぐに対応するだけでなく、仕事で関係しそうな人を紹介したり、交流イベント(「雨の日にホットチョコレートを飲もう」など)を企画したりしている。

驚かされるのはそのイベントの数だ。どのオフィスでも、週に10〜15くらいのイベントが開かれているという。前述のチームが企画する場合もあれば、会員が自主的に主催する場合もある。

イベントの種類もさまざまで、「テクノロジー業界で働く女性」や「レバノン人起業家の集まり」といった勉強会・交流会的なものから、ヨガやフィットネスなどビジネスとおよそ関係ないものまである。

こうしたイベントは他のコワーキングスペースでも少なからず行われているものだが、WeWorkが同業他社と異なるのは、会員同士のネットワークが国境を越えて構築されている点だ。

先に述べたとおり、同社は世界30都市以上に進出している。海外展開に力を入れる理由として、ミゲルは「グローバルなリソースが使えれば、顧客はビジネスを加速度的に成長させられる」と語る。

具体的に、顧客企業はどのようにして同社のグローバルなネットワークを活用しているのかというと、WeWorkには会員専用のSNSのようなシステムがあり、他のオフィスに通う会員ともオンラインでつながることができる。たとえば「Xの市場のYについて教えてほしい」とオンライン上に質問を投げかけると、世界のどこかの都市の誰かがすぐに返答してくれるという。

「ニューヨークならメディアやファッション、広告関連のビジネスが強いし、ロンドンなら金融やフィンテック、ロサンゼルスならエンターテインメント、サンフランシスコならテクノロジーといったふうに、都市によって強みが違う。だからグローバルなリンクがあれば、ローカルでは得られないようなリソースが得られます」とミゲル。

もちろん、ロンドンオフィスの会員がサンフランシスコを出張で訪れた際に現地オフィスを利用できるなど、現実的な利点もある。

興味深いのは、こうしたオンライン上の交流に対しても、同社が積極的に関与している点だ。「メンバー・エンゲージメント・チーム」の担当スタッフが目を光らせ、「質問しても反応がない」といったことがないようにうまく誘導し、交流を盛り上げているという。

WeWorkの目指すべき姿が少し見えてきた。シェアオフィス事業といえば地域に根差した小規模ビジネスが普通だが、同社は世界的な規模で”リアル”なネットワークを構築しようとしている。そのために重要なのが「スケール(規模)」だ。

「会員になれば、場所にもよりますが、入居したオフィスビルですぐ1,000〜2,000人のローカルのつながりができる。それだけでも充分に強力ですが、世界的に見ると7万人、いえ、もうすぐ10万人のネットワークができる。それが真の差別化要因です」(ミゲル)

社名の「We(私たち)」には、そんな狙いも込められている。

WeWork(ウィーワーク)◎ニューヨークに拠点を置き、世界30都市以上でコワーキングスペース事業を展開する。創業は2010年で、企業価値はアメリカの非上場企業で5番目に大きい。今春、コリビング(シェアハウス)事業の「WeLive」を新たにローンチ。